第31話 隠しエリアin大雪山

「この隠しエリアには巨大な白いゴリラが出てくる。名前はフロストコングだ」

「へー。聞いたことないわね」

「私も聞いたことないよ」


 ネイビスが敵の情報を二人に共有しながら三人は洞窟を歩んでいく。すると直ぐに接敵した。出て来たのは人間の二倍はある巨躯を持った真っ白のゴリラのような何かだった。ネイビスとビエラが牽制に遠距離魔法をフロストコングへ放つ。


「『プチマジックミサイル』!『マジックアロー』!」

「『プチホーリー』!


 三発の魔法を受けたフロストコングは怯む。その隙を逃すことなくイリスが雷鳴剣で切り込む。


「『三連切り』!」


『三連切り』は剣士レベル25で覚える第二スキルだ。文字通り高速の三連続の剣撃を繰り出す。その全てがフロストコングの頭に当たり致命傷を与えた。


「『プチマジックミサイル』『マジックアロー』」


 ネイビスがトドメの二発の魔法を放ち、フロストコングを絶命させる。


「あ、レベル上がったわ」

「私も! レベル上がった」

「俺も上がったぞ」

「もしかして、経験値多い?」


 ビエラの質問に対してネイビスは首肯した。


「ああ。ここに出てくる魔物は全部ミスリルスライム並に得られる経験値が多い」

「やったー! てことはレベルいっぱい上がるね!」


 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶビエラをネイビスとイリスは微笑ましそうに見つめる。


「この洞窟は長い一本道だから、どんどん先に進むぞ」

「「おー!」」


 ネイビスの掛け声に二人は合わせて声を上げる。その後もフロストコングを倒しながら三人は洞窟の中を進んでいった。MVPはイリスだった。やはり雷鳴剣の強さは伊達ではなく、イリスは敵をバッタバッタとなぎ倒して行った。

 この隠しエリアの推奨レベルは70であり、一度レベルマックスを経て転職している三人の敵ではなかった。

 かなり進んだところでネイビスが声をかける。


「そろそろ休憩だ。MPが回復するまで待つぞ」

「いよいよボス戦?」

「ああ。名前はフリーズコングだ。こいつはある魔法を使ってくる」

「ある魔法?」


 ビエラが首を傾げて尋ねるとネイビスは説明を始めた。


「大蒼魔導士がレベル99で覚える魔法スキルに『フリーズ』って物がある」

「まさかそれを?」


 イリスの問いにネイビスは「いや」と首を振った。


「その下位互換スキル『プチフリーズ』を使ってくる。効果は全方位の蒼魔法攻撃だ」

「全方位は厄介だね」

「そうね」

「俺が『マジックウォール』で防御壁を作るからみんなそこに退避な」

「うん! 分かった」


 それから三人はMPが完全に回復するのを待ちながら、昼食を食べた。


「そろそろ行くか」


 ネイビスを先頭にして三人は洞窟の最奥まで歩み進める。そこには一匹の巨大なフリーズコングとその後方に青白く輝く宝箱があった。先ずはビエラが『プチリジェネ』を三人にかける。


「『プチリジェネ』×3」

「ありがとうビエラ。次は俺とビエラで牽制! 『プチマジックミサイル』!」

「分かった! 『プチホーリー』!」


 ゲーム『ランダム勇者』と違うところの一つに敵の行動パターンが幅広くなっていることが挙げられる。それは脅威になる一方で、例えば敵の顔に魔法を当てると一時的に視界を奪うことができたりする。

 これはネイビスが魔法使い見習いになってから気づいたゲームとの違いだった。

 ネイビスとビエラから放たれた二つの魔法はフリーズコングの頭に直撃して、フリーズコングの視界が奪われる。

 フリーズコングは体を大きく揺す振り暴れたが、視界を奪われた敵などイリスにとっては格好の獲物だった。


「『一刀両断』!」


 剣士の第一スキル『一刀両断』がフリーズコングの首に刺さる。切断こそできなかったが、鮮血が飛び散りフリーズコングの真っ白な毛を赤く染めた。


「グモォォォォ!」


 その時フリーズコングが胸を叩いて威嚇をした。ネイビスはゲームにはなかったフリーズコングの動作に一瞬動揺するが直ぐに警戒を始める。


「みんな退避!」


 三人がフリーズコングから距離を取り始めた時、フリーズコングの体が冷気に包まれた。


「『プチフリーズ』が来るぞ! みんな! 俺の元に集まれ! 『マジックウォール』!」


 次の瞬間フリーズコングの半径3メートルが吹雪くような白銀の世界に包まれた。洞窟全体が凍てつき始める。ネイビスが作った魔法でできた防壁の後ろで三人は耐えるがかなりのダメージを受けてしまう。


「くっ! なかなか厳しいな」


 凍てつく寒さに耐える三人。手足は凍っていき、その感覚がどんどん失われていく。『プチリジェネ』の効果が無かったらと思うとネイビスはその身を恐怖で震わした。


「ビエラ! 先に『キュア』を頼む!」


 三人は凍傷になっていた。これは寒さによる異常状態として扱われる。『ランダム勇者』では、朱魔法を食らうとスリップダメージの効果のある炎症、蒼魔法を食らうと移動速度低下の効果のある凍傷、翠魔法を食らうと防御力低下の風障にそれぞれなる。

 これは敵も同じで、中には抵抗する魔物もいるが、大抵はこの法則が成り立つ。

 しかしこれが現実となったこの世界ではなかなかに厄介な仕様だった。


「『キュア』×3! 『ヒール』×3」


 ビエラがネイビスとイリスに『キュア』と『ヒール』をどんどんかけていき、三人の手足の感覚が元に戻っていく。


「ありがとうビエラ!」

「ビエラ、サンキュー」


 吹雪が収まるのを見て再びネイビスは魔法を打ち込む。


「『プチマジックミサイル』『マジックアロー』!」


『プチマジックミサイル』はフリーズコングの頭に、『マジックアロー』はフリーズコングの右腕に当たった。


「『プチホーリー』!」


 続けてビエラが唱えた『プチホーリー』が吸い込まれるようにフリーズコングの頭に当たる。


「グォー!」


 フリーズコングは合計で3発の魔法を受けて後ろに倒れこむ。


「畳み掛けるぞ! イリス!」

「りょーかい!」


 イリスとネイビスが倒れたフリーズコングの頭の元へ行き、二人はあるスキルを発動させる。


「『剣士見習いの本気』!」

「『ノービスの本気』!」


 ネイビスの体が虹色のオーラに包まれ、イリスの体が朱いオーラに包まれた。イリスはMP100を代償にしてSTRが一分間二倍になるスキル『剣士見習いの本気』を、ネイビスはMP300を代償にして一分間全ステータスが二倍になる『ノービスの本気』を使って、ラストスパートを畳み掛ける。


「『スラッシュ』! 『三連切り』! 『一刀両断』! 『二連切り』!」

「ヤッ! ハッ! ヘイッ!」


 イリスの雷鳴剣とネイビスの毒牙による攻撃はフリーズコングをオーバーキルした。


「やった?」

「そうみたいだな」


 動かなくなったフリーズコングを見て確かめるように訊くイリスにネイビスは頷いて応える。そこにビエラが駆けつけた。


「二人とも最後カッコよかったよ!」

「ありがとう。ビエラこそ『キュア』と『ヒール』ありがとな」

「うん!」

「私からもありがとう、ビエラ」

「えへへ」


 ビエラの微笑みを見て、戦闘で昂っていた心が落ち着いていくのをネイビスは感じていた。


「それじゃあ宝箱開けますか!」

「いよいよね」

「何が入ってるのかなぁ?」


 三人はボス部屋の奥に鎮座する宝箱へと視線を向けて、期待に胸を躍らせるのだった。 

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