閑話 湯煙殺人事件!?
『湯煙の宿』の温泉にて血を流して倒れている裸体の男性が見つかった。被害者の頭の下には血溜まりができていて、その側にはダイイングメッセージが残されていた。
なぜこうなったか、事の発端は老婆によって誤った性知識を得たビエラによる提案だった。
「ねぇ……二人とも。やっぱり裸にならない?」
「どうして? ビエラ」
「私達が恋人同士だからかな?」
「うーん」
ネイビスは迷っていた。このまっさらなビエラに変なものを見せて穢したくはなかったからだった。
「私が脱ぐ分には構わないけど、ネイビスが脱ぐのはちょっとねー」
「なんでネイビス君が脱ぐのはダメなの?」
「それは下品だからよ」
「俺もビエラには見て欲しくないな」
それを聞いてビエラは頬を膨らませた。
「それならイリスちゃんならいいの?」
「別にそういうわけじゃ!」
その時ビエラがタオルを脱いで立ち上がり、その生まれたままの姿が月夜のもとに晒された。そしてネイビスのもとへ詰め寄り、その腰に巻いてあるタオルを剥がす。
「ビエラさん? タオル……」
「ダメ! イリスも脱ぐ!」
「分かったわよ」
あっという間に三人ともスッポンポンになった。ネイビスは視線のやり場に困る。一方のイリスはネイビスの体を特にその下半身を見つめていた。それに気づいたネイビスが足でイチモツを隠す。
「イリスさん。何見てるんですか?」
「あなたこそ大きくしちゃって」
「これは仕方ないだろ」
「二人ともなんの話?」
月を眺めていたビエラが二人の会話に入ってくる。咄嗟にネイビスが誤魔化す。
「ビエラの胸が大きいって話だ」
「そうかな? ネイビス君は大きいお胸好き?」
「そうだな。大好きだぞ」
「なら、チューしてくれる代わりに好きにしていいよ?」
「いいのか?」
「ちょっとビエラ、何言ってるの?」
そこでビエラがイリスにコショコショ話をする。
「胸を揉ませとけば大抵の男の子は浮気しなくなるっておばあちゃんが言ってたの。イリスちゃんも一緒に、ね?」
「あの老婆も侮り難いわね。ビエラがそこまで言うならいいわよ」
二人がネイビスのもとまで近づく。
「ちょっと二人とも?」
「ネイビス。私の胸好きにしなさい」
「私のお胸もネイビス君の好きにしていいよ?」
「お、おう」
それから控えめに言って至福な時を経て、ネイビスは完全にのぼせて鼻血を出し今に至る。
「ネイビス! いい加減茶番してないで早く鼻血流しちゃいなさい!」
「私、『プチヒール』か『ヒール』かけようか?」
倒れ伏したまま微動だにしないネイビスを見かねてイリスとビエラが声をかける。
「『プチヒール』! ネイビス君! そろそろ貸切終わりだよ」
「ビエラ。ふざけてるネイビスなんて無視して部屋に戻るわよ」
「ええ、でも……」
「いいから!」
イリスとビエラは去っていった。残された血と裸体の男。
ガラガラ。
暫くして温泉のドアが開く。
「可愛い姉ちゃんいねぇかなー?」
入ってきたのは一人のおじさんだった。
「っておい! お前大丈夫か!」
おじさんは倒れ伏して血を流す男の近くに膝をつく。
「ダメだ、死んでやがる……。これは?」
男は裸体の男の右手の人差し指が文字を書いていたのに気づく。そこにはこう書かれていた。
『二人とも可愛すぎかよ』
おじさんは大慌てで宿の人を呼びに行き、老婆とおじさんが温泉に駆けつけた頃には裸体の男も血もなかった。
これは後に『湯煙の宿』の七不思議の一つとなったのだった。
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