第25話ワニワニパニック
『ランダム勇者』に出てくるワニはワニじゃない。これは『ランダム勇者』をプレイしていない人でもゲーマーなら一度は耳にしたことのある程有名なフレーズだった。そう。『ランダム勇者』のワニはワニじゃなく、ワニの面影を残した怪物トリゲーターなのだ。
先ずトリゲーターには大きな翼があるので空を飛ぶことができる。その翼はまるでドラゴンの翼のように硬い鱗に覆われている。そして口には恐ろしいほど鋭い歯が生えている。爪は長く伸び、体は全体的にゴツゴツしている。
クラリスの外れにあるBランクダンジョン『ワニワニパニック』はAランクダンジョンに比肩する程の難易度となっている。ブレスこそ吐いてこないが見た目がほぼドラゴンなのでAランクダンジョン『ドラゴンの巣』の肩慣らしによく使われていたダンジョンだった。
今その『ワニワニパニック』三階層でネイビス達は空飛ぶワニと戦っていた。
「『プチホーリー』!」
ビエラがそう唱えると小さな光球がビエラの前に現れ、敵のトリゲーターに向かって放たれる。『プチホーリー』にはホーミング能力があるのでトリゲーターに吸い込まれるようにして当たる。
「ビエラナイス! 『マジックアロー』」
続けてネイビスが無属性の魔法の矢を放つ魔法使いの第一スキル『マジックアロー』をトリゲーター目掛けて放った。
トリゲーターが『マジックアロー』を受けて地に落ち、もがいている所にイリスが雷鳴剣でトドメの一撃を入れる。
「ふぅー。まだまだ余裕ね」
「そうだな。それにしてもやっぱり魔法は楽しいわ」
ネイビスは現在魔法使いレベル41で、スキル『マジックアロー』『マジックウォール』を覚えていた。
「私も『プチホーリー』楽しい!」
ビエラはずっと自分だけが戦闘に参加していないことを気にしていた。だが、僧侶見習いレベル99になり覚えた攻撃スキル『プチホーリー』を使うことで戦闘に参加できている。
「MP管理はしっかりするんだぞ。ビエラは唯一のヒーラーなんだからな」
「うん。分かってるよ!」
「次のゲート潜りましょう」
ネイビスは自分達が確実に強くなっているのを実感していた。三人はゲートを潜り次の階層へと進む。
「この階層からはレッドトリゲーターが出てくる」
Bランクダンジョン『ワニワニパニック』はDランクダンジョン『狼の宴』と同様に色によってステータスに特徴がある。レッドトリゲーターは攻撃力が高く、ブルートリゲーターは防御力が高い。グリーントリゲーターは魔法防御力に秀でていて、キングトリゲーターはその全てにおいて優れている。
三人は小休憩を繰り返しながら『ワニワニパニック』を攻略していった。
「いよいよ次がボスね」
イリスがポツリと呟いた。三人は今十階層へと繋がるゲートの前で休憩兼作戦会議をしている。
「キングトリゲーターはとにかくデカイ。攻撃を食らったら流石にこの中で一番防御力の高いイリスでもかなりダメージを食らうはずだ。幸い動きは遅いし、魔法は使ってこないから、よく動きを見て臨機応変に戦うぞ!」
「うん!」
「りょーかい!」
作戦会議が終わりゲートを潜ると、三人の前にはドラゴンのように迫力のある、黄金の肌を煌めかせるキングトリゲーターがいた。キングトリゲーターからは金が取れるので高く売れたりする。キングトリゲーターは三人をその鋭い眼光で見つめると咆哮をした。
「ガオォォォォ!」
「いや、お前絶対その鳴き声おかしいだろ!」
あまりの鳴き声の酷さにネイビスがツッコミを入れる。
「百歩譲ってまだ「グルルル」なら分かる。なぜ「ガオォォォォ!」なんだ!」
「ちょっとネイビス君! 急にどうしたの?」
「そうよネイビス! 今は戦闘中よ?」
二人に諌められてネイビスは我を取り戻した。
「あぁ、悪い。ちょっとだけ取り乱してた」
「ちょっとどころかかなり取り乱してたわよ」
「うんうん」
「すまない。ついな。それより作戦通りいくぞ」
ネイビスとビエラがペアとなり後方から魔法で遠距離攻撃を入れ、イリスが前衛で特攻する。
「『蟲斬り』! 『三連斬り』!」
「ガゥゥ!」
イリスがキングトリゲーターにスキル『蟲斬り』と剣士レベル25で覚えたスキル『三連斬り』を続けて発動する。イリスはボス戦のためにMPを温存していたのだ。ワニは爬虫類なので生物学的には『蟲斬り』は効果がないはずだが、何故かトリゲーターには『蟲斬り』の効果がある。恐らく『ランダム勇者』の制作陣が間抜けだったのだろう。それか、トリゲーターはワニでも鳥でもなく虫なのかもしれない。
いずれにせよ、スキル『蟲斬り』の特攻効果に加えてレベル99の勇者を凌ぐSTRと雷鳴剣のATKと雷属性が乗って、イリスはかなりのダメージをキングトリゲーターに与えた。
「イリス退がれ! 『マジックアロー』! 『プチマジックミサイル』!」
「『プチホーリー』!」
イリスが射線から外れたのを確認するとネイビスとビエラが魔法を一斉に放つ。
「ガゥゥゥ」
全ての魔法がヒットしてキングトリゲーターは怯んだ。そこを逃すイリスではない。
「選手交代! 『蟲斬り』!」
その時キングトリゲーターの翼が大きく開き、キングトリゲーターは力強く羽ばたいて空中へと逃げた。イリスのスキル『蟲斬り』が空を斬る。
「ビエラ! 一斉に決めるぞ!『プチマジックミサイル』×3!」
「私も行くよ!『プチホーリー』×3!」
三つの光球と三つの無属性のエネルギー弾が空飛ぶキングリザードの腹に命中し、バランスを崩したキングトリゲーターは地に落ちる。倒れ伏すキングトリゲーターにイリスが近づきその首にスキル『一刀両断』を放つ。
「『一刀両断』!」
『一刀両断』は首や尻尾などの特定の部位に対して大ダメージを与えることのできる、剣士レベル10で覚えられる第一スキルだ。その一閃は無慈悲にもキングトリゲーターの命を刈り取った。
「やったわ! 倒したみたい!」
「お疲れ」
「お疲れ様!」
キングトリゲーターの死体をイリスがインベントリに回収してから三人は帰還ゲートを潜る。入り口に戻った三人は周回のため再びゲートへと入っていくのだった。
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