第二章 世界の秘宝編 目指せ最強
第24話 剣聖三兄弟と雷鳴剣
ネイビス達は大陸最北の町クラリスに来ていた。クラリスはダンジョン都市イカルには劣るもののそれなりに大きな港町で、今三人は高台から町を見下ろしていた。
「海、綺麗ね。私初めて見るわ」
「イリスの方が綺麗だぞ」
「な、何よそれ! 褒めても何もないんだから!」
ネイビスは以前のビエラとのやりとりを思い出して心からの思いでそう言ったが、当のイリスはからかわれたと思って反発する。そんな二人の様子を見てビエラが「ふふふ」と微笑んでいる。
「それにしても軍艦の数、半端じゃないな」
ネイビスの視線の先には海岸線に並んだいくつもの軍艦があった。飛空艇の海バージョンにさらに砲台をつけたような感じだ。
「ここ数百年の間魔王軍が一度も攻めてきていないんだって。それはあの軍艦が牽制してるからだって話だよ」
「へー。そうなのか。それはなかなか面白いな」
ネイビスが前世の記憶を思い出してからというもの、度々こうしたゲーム『ランダム勇者』では描かれていなかった要素に出会ってきた。ダンジョン攻略が一日に一回までだったり、冒険者のランク制度だったり。この国の歴史や文化など様々だ。
「よーし。それじゃあそろそろ雷鳴剣抜きに行きますか!」
「「おー!」」
ネイビスの提案に二人は大きな掛け声で応えた。三人はワクワクしながら雷鳴剣のある観光スポットまで向かう。そこは大陸最北の岬だった。名前はまんま勇者岬。魔大陸に向けて牽制するかのようにその岬の先端に雷鳴剣が地面に刺さっていた。そしてその雷鳴剣に続く長蛇の列もできていた。仕方なくネイビス達はその列の最後方に並ぶ。
「どのくらいかかるのかしら?」
「分からん。だが、一時間はかかりそうだ」
イリスの問いにネイビスが答えた。その時三人の後ろに男三人組のパーティーが並んだ。
「俺ら三人が集まれば聖剣だって抜けるんじゃね?」
「違いない」
「というか最北の町クラリスに着いたの142期だと俺らが最初だよなぁ?」
「違いない」
「てことは俺ら『三剣聖』が最強ってことだよな?」
「違いない」
「「「わははは!」」」
ネイビスは強い既視感を覚えた。「あれ?この人達、ウサギパラダイスにいた人達じゃね?」と。
「今の俺たちに足りないのは強力な武器だ!」
「違いない」
「あの聖剣さえあればAランクダンジョンだけでなくSランクダンジョンも余裕のよっちゃんだ!」
「違いない」
「つまり俺らが最強ってことだよな?」
「違いない」
「「「わははは!」」」
「結局そこに落ち着くのかよ!」とネイビスはツッコミたかったが我慢した。
「なんだか申し訳ないね」
ビエラが小声でそう言った。これからイリスが聖剣と呼ばれている雷鳴剣を抜くのだ。あんなに期待しているところを目の前で他の人に聖剣を抜かれたら、確かに可哀想だなとネイビスも思った。100パーセント抜けないと分かっていても無邪気な彼らにはせめて挑戦くらいさせてあげたかった。
「夜に出直すか?」
「そうね。目立つのもアレだし」
「私も賛成!」
満場一致で夜にまた来ることに決まった。三人は列から抜けようとする。その時ネイビスに声がかかる。
「おい! そこの兄ちゃん! もしかして前に会ったことあるか?」
「違いない」
「確かノービスだったよな?」
「違いない」
ネイビスはぎょっとする。まさか気付かれるとは思ってなかった。
「はい! あの時はお話聞かせてくれてありがとうございました!」
ネイビスはお辞儀をしてそそくさとその場から立ち去ろうとする。しかしネイビスの右腕が一人の男に掴まれる。
「兄ちゃん達、抜けちゃうのか? もったいないぞ? もしかしたら聖剣抜けるかもしれないのに」
「まだ試す前から諦めるなんて男じゃないぞ?」
「違いない」
「まぁ、抜くのは俺たちだがな」
「違いない」
ネイビスはイリスとビエラに救いを求めて視線を送る。
「そういうことなら、仕方ないんじゃないかしら?」
「ええっと……。ネイビスどうしよっか? えへへ」
結局三人は列に戻ることになった。ネイビスが剣聖三人組に捕まって男四人で話すことに。
「聞いて驚け! 俺らな、もうBランクダンジョン『アンデッドの墓場』をクリアしたんだぞ!」
「それは凄いですね!」
「違いない」
「Aランクダンジョン『ドラゴンの巣』も三階層までは突破したんだぞ!」
「それは凄いですね!」
「違いない」
「お前さっきからずっと「違いない」しか言ってないよな?」
「違いない」
ネイビスはこの三ヶ月の間にこの「違いない」しか言わない人に一体何があったんだろうと想像する。そうして談笑すること30分。ついに彼らの番がやって来た。勇者岬の先端に刺さる聖剣、雷鳴剣は白銀色の剣で、柄のところにカッコいい装飾がなされていた。
「兄ちゃん達、先行け!」
「いや、でも……」
「でも抜いちゃいますよ?」なんて言えないネイビスは彼らに何を言えばいいのか分からなかった。
「こういうのは若いやつに譲るもんなんだよ」
「違いない」
仕方なくネイビスから剣を抜くことに。今ネイビスは魔法使いレベル43でSTRが244なので抜くことはできない。案の定いくら力を入れても雷鳴剣を抜くことはできなかった。
「次は私?」
次にビエラが挑戦するもやはり失敗する。そしてついにイリスの番が来た。俺とイリスはアイコンタクトを交わす。イリスがウインクで返した。
「次は私ね」
イリスは演技をした。必死に雷鳴剣を抜く演技を。本来なら軽く片手でも抜けるはずなのだが、そうしなかった。
「残念だったな! まぁ、俺たちが抜いてやるから安心して見てろ!」
「違いない」
結果から言うと三人とも抜けなかった。勇者岬から離れたところで地面に膝をついて絶望する剣聖三人組。
「なぜだ! なぜ抜けなかった!」
「後もう少し挑戦してたら抜けただろうに……」
「違いない」
三人を見てネイビスは言う。
「あのー。俺たちはここで失礼しますね。これからも色々と頑張ってください!」
三人からの返事はなかった。三人を置き去りにして、ネイビス達はクラリスの町一番と評判の宿『天上の月』を探して泊まった。
夜が深まる頃、三人の姿は勇者岬にあった。
「えい!」
可愛い掛け声でイリスが雷鳴剣を抜いた。
「イリスちゃんすごーい!」
「なんだか呆気ないわね」
「そう言うもんだ」
イリスは手に持つ雷鳴剣をまじまじと見て驚きの声を上げた。
「ATKプラス120! しかも雷属性って!」
「どうだ? 凄いだろ!」
「うんうん」
イリスは鞘のない雷鳴剣を自身のインベントリにしまった。
その後三人はいい雰囲気になり、夜の海を眺めながらイチャイチャして宿に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます