第7話 夜の宿屋*ステータス記載

 ネイビスとイリスとビエラは冒険者ギルドでマギカードを更新して無事Dランク冒険者になった。手続き中に勇者パーティーが入ってきて気まずくなったが何一つ会話なく終わった。

 今三人は冒険者ギルドで対応してくれた職員オススメの宿屋に来ていた。


「えー! 三人部屋しか空いてないんですか!」


 イリスが宿屋の受付で驚愕の声を上げる。


「はい。お客様は三人なのでちょうど良いかと」


 受付の娘が営業スマイルでそう言う。


「冗談じゃないわ。この男と同じ部屋で寝るなんて!」

「この男とは何だ。失礼な」

「私は別にいいよ」

「ちょっとビエラ!」

「これから一緒に旅するんだから一緒に寝る機会も出てくるよ。それに」

「それに?」

「やっぱりなんでもない」


 ビエラは頬を赤く染めて俯いてしまう。


「もうここでよくね? 今から別の宿探すの面倒くさくない?」

「まぁ、それもそうなのよね。うーん」

「イリスちゃん! 私がネイビス君の隣のベッドで寝るから。ね?」

「それなら、まぁいいわ」


 ビエラの説得にようやくイリスは納得した。


「三人一泊の素泊まりで1500ギルになります」


 三人は各々インベントリから500ギルを取り出して受付の娘に渡した。


「ちょうどですね。ではこれが鍵です。部屋の場所は2階の一番奥の部屋です」


 ネイビスが鍵を受け取り三人は受付を後にした。二階へと上がり最奥の部屋の前まで向かう。ネイビスが鍵を使ってドアを開け、三人は中へと入る。


「広ーい」

「ほんとだね」

「俺このベッド!」


 女性陣は部屋の広さに驚き、ネイビスは一番窓側のベッドに飛び込んだ。


「なら私はこのベッドね」


 イリスは廊下側のベッドに腰掛ける。


「夕飯食べに行きましょ。私お腹すいた」

「私もお腹ぺこぺこだよ」

「やばい。このベッドから起き上がれる気がしない」

「置いてくわよ?」

「あっ待って。やっぱり起きます」


 三人は適当に屋台で買い食いをして夜の町を散策し、部屋に戻ってきた。


「ふー。お腹いっぱい」


 三人はベッドに横になり話していた。


「そうだね。でも私もうすぐでお金なくなりそう」


 ビエラがそう呟くとネイビスは不敵に笑った。


「大丈夫だ。明日換金するから」

「換金?」


 ビエラはなんのことか分からずネイビスに聞き返す。


「今日なんのためにスライムの森に行ったのか覚えていないのか?」


 ネイビスが質問すると二人は首を傾げた。


「レベル上げじゃなかったっけ」

「宝箱のアイテムとか?」

「違う違う。金だ金! イリス。インベントリにどれだけ入ってる?」


 ネイビスがイリスにインベントリを確認するように手で促した。


「あぁ。そうだったわね。えーっと。銀塊が17個。金塊が13個。ミスリルの塊が1個あるわよ」

「いいね。銀塊が10,000ギル、金塊が30,000ギル、ミスリルの塊が100,000ギルだから合計で660,000ギルだな。一人220,000ギルか」


 ネイビスが売り上げを計算してその額を告げると二人は嬉しい悲鳴をあげた。


「ええー! そんなになるの?」

「すごいわね」

「ちなみにシルバーバングルは大体500,000ギル、ゴールドバングルは1,500,000ギル、ミスリルバングルは5,000,000ギルくらいするぞ」


 ネイビスの言い放った値段に驚き両腕のバングルをマジマジと見るイリス。


「私寝る時はこれ外そう」

「失くすなよー」

「分かってるって。インベントリに入れるんだから」


 イリスは慎重に両腕からバングルを外してインベントリに入れていく。


「まぁ、バングルは当分売る事はなさそうだな」

「えー! いつかは売るの?」

「そりゃ当然だ。この世界にはな、もっとすごいアクセサリーがいっぱいあるんだ。もちろん僧侶向きのアクセサリーもあるから安心していいぞビエラ」

「そうなんだ! それは楽しみだなぁ」


 ベッドに横になり嬉しさから足をバタバタさせるビエラをネイビスは可愛いなと眺めていた。


「それよりネイビス。明日はどうするの?」


 そんなことを知らないイリスがネイビスに明日の予定を聞く。


「早めにダンジョン都市イカルに行きたいから飛空艇を使うぞ」

「飛空艇って空飛ぶ船のこと?」

「そうだ。一人220,000ギルもあれば余裕で足りると思うから、明日は先ず換金した後、この町の北にある発着場でイカル行きの船に乗ろう」

「はーい」

「なんかズルみたいね」

「いいのいいの。ここからダンジョン都市イカルまでは全部で7つも町を経由しなくちゃならないから、一日ひとつ進むにしても一週間もかかるし、実際そう簡単にはいかないからもっと時間がかかるんだよ」


『ランダム勇者』ではイカルは中盤の都市で、人間大陸の中心都市的な存在だった。というのもダンジョンから得られる資源が豊富でとても賑わっているからだ。それ故に金融、商業の中心地となっていた。

 ゲームでは飛空艇は今まで行ったことのある場所にしか行けない仕様になっていたが、ここは現実世界だからもしかしたらスキップできるのではないか? とネイビスは考えていた。


「ねぇ、ネイビスはダンジョン都市がどんな場所か知ってるの?」


 イリスがネイビスに尋ねると「知りたい?」とネイビスは聞き返す。


「いや、楽しみにしとく。でも、やっぱり知ってるのね」

「ネイビス君物知りー!」

「いやー。それほどでも」


 その後もしばらく三人は談笑し、話題は今のステータスの話になっていた。三人は中央のビエラのベッドに集まってお互いにステータスを見せ合う。イリスは一度インベントリに入れたバングルを装備してステータスを確認していた。


 名前:ネイビス

 年齢:17

 性別:男

 職業:ノービスLv.24(経験値二倍)

 HP:75/75

 MP:75/75

 STR:25

 VIT:25

 INT:25

 RES:25

 AGI:25

 DEX:25

 LUK:25

 スキル:『応急処置』

 アクセサリー:『ミスリルバングル』


 名前:イリス

 年齢:17

 性別:女

 職業:剣士見習いLv.22

 HP:219/69+150

 MP:69/69

 STR:46

 VIT:46+50

 INT:23

 RES:23

 AGI:23

 DEX:23

 LUK:23

 スキル:『スラッシュ』

 アクセサリー:『シルバーバングル』『ゴールドバングル』


 名前:ビエラ

 年齢:17

 性別:女

 職業:僧侶見習いLv.21

 HP:66/66

 MP:66/66

 STR:22

 VIT:22

 INT:44

 RES:44

 AGI:22

 DEX:22

 LUK:22

 スキル:『プチヒール』


「やっぱりバングルの効果尋常じゃないわね」

「イリスちゃん羨ましいよ」


 三人の中で唯一バングルを持っていないビエラがイリスの装備する二つのバングルに羨望の眼差しを送る。


「それより俺はあと1レベルで第二スキル覚えるんだよな」

「経験値二倍は伊達じゃないわね。ノービスの第二スキルってなんなの?」

「『リカバリー』っていうスキルなんだけど、自身の状態異常を回復するスキルで、これまた完全に僧侶見習いの第二スキル『プチキュア』の下位互換なんだよね」

「なんかノービスのスキルってしょぼいわよね。剣士見習いの第二スキルは『二連切り』だったはず」


 そこでイリスはあることに気づく。


「ねぇ、ネイビス。僧侶見習いがレベル99でスキル覚えるなら、剣士見習いもレベル99でスキル覚えるの?」

「そうだよ。教えてほしい?」


 聞くか悩むイリスだったが、逡巡の末聞くことにした。


「お願い、教えて」

「剣士見習いなら、レベル50で『蟲切り』レベル99で『剣士見習いの本気』っていうスキルを覚えるぞ」


 ネイビスの提示した情報にイリスは首をかしげる。


「『蟲切り』は虫特攻の攻撃スキルってわかるけど、剣士見習いの本気? ってのはどういう効果なの?」

「それは実際に使ってみてからのお楽しみだよ」


 焦らすネイビスに「いいから教えなさいよ」とイリスが迫る。それを見てビエラは「ふふふ」と微笑む。


「分かった分かった。教えるから。一分間STR二倍だよ」

「へぇー! 強いじゃない! でも完全に勇者の第一スキルの下位互換ね」

「ああ、『ブレイブハート』な」

「なんだ。あなたも掲示板見てたのね」

「いや、まだ見てない」

「じゃあなんで知ってるのよ」

「前世の知識でーす。……痛っ!」


 両手でピースを作るネイビスに苛立ったイリスのチョップがネイビスの頭に炸裂した。


「私達のパーティー最弱って書かれてたわよ。それに北の森に行ったから心配してる子もいた」

「へぇー。なら掲示板見てみるか」

「今私見てるよ」


 ビエラがネイビスに掲示板を見せる。


「こんな感じなんだ。こりゃ便利だな。試しになんか書き込んでみるか」

「やめときなさい。あなたただでさえ悪目立ちしてるんだから」

「そうなのか?」


 ビエラは疑問を抱くネイビスに掲示板【143期卒業おめでとう】の過去のスレッドを見せる。


「本当だ。俺ら最弱パーティーって呼ばれてるな。あながち間違いでもないけど」

「なんだか悔しいわね。言い返せないところが尚更」

「まぁ、近い未来最強パーティーになるんだけどな」


 ネイビスがそう語った時コンコンと部屋の扉が叩かれた。


「あれ? 誰だろう。私出るね」


 一番部屋のドアに近かったイリスが向かった。ドアを開けるとそこには受付にいた少女がタオルと桶を手に持って立っていた。


「お湯と体を拭くタオルです」

「あらありがとう」


 イリスはお礼を言って三枚のタオルと桶を受け取る。


「では失礼します」


 渡すものを渡した少女はお辞儀をして部屋を出て行った。


「体洗えるみたいね」

「そうだな。俺部屋出てようか?」


 ネイビスの提案に二人は頷く。


「声かけるまで入ってきちゃダメよ? あなたは前科があるんだから」

「うんうん」

「分かったって」


 ネイビスは部屋を出て廊下で待つことに。その間暇だったネイビスはマギカードを使って掲示板を開き時間を潰した。


「お。ダンジョン都市のスレッドいくつもあるんだな。どれどれ?」


 掲示板を見るのが予想以上に楽しかったネイビスは二人が体を拭き終わるまでの時間があっという間に過ぎたように感じた。


「ネイビス。入っていいわよ」

「おう。掲示板って意外と面白いな」

「でしょ? それに情報収集にも役立つんだから。今度は私たちが部屋出る番ね」


 その後ネイビスも体を拭き終わり、三人は寝ることにした。

 ネイビスは「イリスに夜這いしたら確実に殺されるけど、ビエラならワンチャンあるのでは?」なんて考えて悶々とするのだった。

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