【KAC20244】岩姫令嬢のとりかえばや
肥前ロンズ
妹です。姉ととりかえばやしました。
こんにちは、はじめまして。
花開院とわと申します。
代々異能を持つ我が家は、軍人である父が婿入りしたこともあって、長女である姉も軍に入ることになりました。
姉は強く、厳しく、そして合理的で柔軟な考えをしております。
また、外見も大変麗しく美しい方です。中身も相まって、その美しさは迫力や威厳へ昇華され、時折父をも泣かせるほどです。
そんな姉と私、とりかえばやしてしまいました。
――どうしてこうなった。
そもそもの始まりは、我が家が襲撃された時。
取り逃してしまった異能者は、『精神を入れ替える』異能を持っていました。
その異能者は、姉と私の精神を入れ替えてしまったのです。
姉は私の体に、私は姉の体に移されました。
「では出勤してくる。ついでに異能者ボコしてくる」と、私の体で向かおうとしたので、必死に止めました。
「待ってください姉様! 私の体で行ったら、職場が騒動になります!」
自分が言うのもなんですが、私と姉は似ていません。それもそのはず、私と姉は母親が違うのです。
この花開院の血を引く姉の母は、早くに他界。その後、伴侶として相続した父が後妻として迎えたのが、私の母でした。
姉は強い人ではありますが、花開院家のものは代々受け継がれる異能のように、若くして亡くなる人が多いのです。そこで、親戚である岩波家の女を嫁に迎えることになりました。
岩波家は異能のように、身体も精神も丈夫な一族です。しかし、見目麗しい花開院家と違い、まるでノミで荒く削ったばかりの仏像のように彫りの深い顔ばかりが生まれるのです。
私もその例に漏れず、眉は太く、鼻筋も輪郭も太く、ついでに肩幅も広く胴回りも太く産まれました。
その容姿から、華族からは「岩姫様」と陰口を叩かれ、以来外に出ることはほとんどありません。私の顔を知るものは今では少なく、また似ても似つかないその容姿から、姉妹だとわかる人はいないでしょう。
そのため、私の顔で出勤し、「異能のせいで妹と中身が取り替えられた」などと話しても、すんなり理解してくれるとは思えません。下手すればスパイ容疑とか掛けられる可能性があります。
しかし長く欠勤となると、その間、姉の政敵である方々から、何かしらの攻撃を受ける可能性があります。女性軍人の存在を忌々しく思うクソ……殿方も多いのです。あの異能者が、姉の政敵の手先だということも十分考えられます。
「ここは、私が姉様の代理として出勤するのはどうでしょうか。その間、姉様は異能者を追いかけるのです。その方が、相手を油断させられるかもしれません」
我ながら無謀なことを提案してしまったと思うのですが、姉は判断が早い人でした。
あれよあれよと話が進み、信頼出来る部下の方だけに話を通し、私は姉になりかわって出勤することになったのです。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
「すみません。至急、この書類に目を通していただきますか」
姉の部下の三代さんが、私に書類を渡してきました。私は引き出しから、万年筆を取り出します。
本来なら公的文書の偽造にあたる行為ですが、四の五の言ってはいられません。幸い、姉と私の筆跡は似ていますし、肉体的には姉なのでよしとします。
「お手数お掛けします」
「いえ。ご協力、感謝いたします。……しかし、やはり姉妹であられますな」
三代さんが、深い笑みを浮かべます。
「私たちが何も教えなくても、どこに何があるかがわかるとは」
「それは私も驚きました」
姉妹と言えど、私たちは別個の存在です。性格もものの感じ方も違いますし、部屋も違います。けれど、何故か物の配置は同じなのでした。こういうのも遺伝性なのでしょうか。
「ですが、姉には早く帰ってきてもらわなければなりません。姉にしかわからない仕事も多いですし……」
そう言いながら、ふと指先を見るとささくれていました。
姉の皮膚は私のものより乾燥しやすく、こまめに保湿しなければ出血しやすくなります。
保湿クリームはこのあたりかしら、と思って探すと、確かに入れ物はありましたが、中身がありませんでした。
あら、と私が言うと、「そのクリーム作っている男なら、医務室にいますよ」と三代さんが言った。
<続くといいな>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます