ラディの話3
モーリスの仕事部屋と私室のドアはいつも開いている。もちろん、彼がひとりになりたいとき、私室のドアを閉めることはあるけど、ロックすることはない。もし、中でひとりで倒れていたら困るからだ。
モーリスはほとんど外出することはないし、感染予防のためにも訪問する人を制限している。体調が良ければ、起きて身支度を整え、リモートで仕事をしていて、今は無理をすることなく、規則正しい日常を送っていると思う。
ときどき体調がすぐれないときもあり、その日も私室のドアは閉まったまま、モーリスは起きてこなかった。
「おはよう」僕が声をかけにいくと、
「…だるい。今日は休む。ディープに一報入れておいてくれる?」
モーリスはベッドの中で、頭を上げるのも辛そうだった。
微熱があり、あまり良くない値を示しているデータが幾つかあった。普段は毎日、モーリスの方からディープに定時連絡することになっている。
「今日、ディープが来る日だよね?早めに来てもらう?」
「いい…。いつも通りで大丈夫」
モーリスは自分では決して言わないが、具合が悪そうで、少しだけ早めに来てもらうようディープには連絡した。
必要な医療処置を終えて、ソファに座ったディープはなんだか迷っているように見えた。
僕の問いたげな視線を感じたらしく
「輸血と輸液をしている間、眠れるようにした。だるくて何もできないのが辛そうだね。昨日はほとんど眠れなかったみたいだし、食事もあまりとれてないんだろう?」
「そうだね。くれぐれも無理のないよう気をつけていたんだけど」
ディープは首をふった。
「それなら、なおさら、だよ。これは何か無理をしたとか原因があることじゃないから。体調の不安定な日が増えてきたのは、あまり良い傾向とは言えない」
そして、小さくため息をついて
「やっぱりモーリスには検査入院の話をしてみるよ。嫌がるだろうけど」
「入院か…」
ディープはどう話したらいいかと悩んでいたのだ。
僕はディープのために飲み物を用意しようと席を立った。
「モーリスは自分でわかっていると思うよ。少しづつできないことが増えていること。ありのままを伝えればいいんじゃないかな」
話しながら、彼の前に湯気の立つカップを置く。
「……?」不思議そうに見るディープに
「蜂蜜入りのホットミルク。これ飲んで君も休めよ。モーリスはしばらく目を覚まさないんだろう?」
ふわっと立ち上がった甘い香りに、ディープの表情が少しだけ和らいだ。
「うん、そうする。ありがとう」
飲み終わると、ディープはソファで毛布にくるまって、すぐに寝入ってしまった。
そのあと、モーリスはあっさりと承諾したという。
ディープはそのやりとりを教えてくれた。
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