これからも僕達は 外伝1
春渡夏歩(はるとなほ)
これからも僕達は 外伝1
君と
リサの物語1
白いノースリーブのミニドレスに、いつも身に付けている星をデザインした小さなピアス。シンプルな装いでも、彼女は充分美しかった。
「綺麗だよ」
「フフ、ありがと」
彼女は白い手袋をはめた手を伸ばして、着慣れない礼服の襟元を気にしている彼のタイの位置を直した。長身の彼も背すじが伸びて見栄えがした。
終始にこやかな新婦と、珍しく少し緊張気味の新郎。ふたりがこうして並ぶと、お似合いのパートナーだった。
ふたりを祝福するために、仲間たちが設けてくれたささやかなガーデンパーティーが、もうすぐはじまる。
「それじゃ、行こう?」
彼が差し出した掌の上に、手を重ねて
「はい」
彼女は微笑んだ。
*
「リサ!早くしないと遅れるよ」
操縦士訓練生の制服に身を包み、水色の瞳にオレンジ色のショートカットが印象的な、私の親友、メグが言った。
「待って。今、行く」
私は栗色の豊かな髪をどうにか制帽に押し込めると、もう一度鏡を見て全身をチェックする。
「よし!完璧」
自分で自分に気合いを入れた。
操縦士を目指す訓練センターのこのクラスに、女子は私とメグのふたりだけ。お互いに助けあって、なんとかやってきた。今日はいよいよ実機で外宇宙を目指す。と、いっても見習いの私達は見学だから、何もさせてもらえないだろうけど、それでも期待に胸が高まっていた。
ヤルタ科学局の見学ツアーがあったその日、休憩時間に私達はロビーに出ていた。
そのとき、長身で黒髪のその人の姿が目に入ってきた。
(あの人は…!見つけた!)
そう思った次の瞬間、私はグループを離れて走り出し、その人の前に立っていた。
怪訝そうな相手に、勢いよく姿勢を正し、型通りの敬礼をする。
「お久しぶりです。私のこと、覚えてます?」
私は制帽をとって、頭をふった。ふわりと豊かな髪がひろがる。
「君は…?あのときの?」
——あの日、宇宙港でトイレに行っている間にはぐれてしまった私は、出発ロビーの片隅で小さくうずくまったままのその人に、無邪気に話しかけたのだった。
兄と同じ年頃の、でも面影は全く異なるその人は、とても傷ついた目をしていた。詳しいことはもう覚えていないけれど、私のたわいない話を聞いてくれて、その黒い瞳の中に小さな明かりが灯ったのを見た。
そのままそこで別れてしまったけれど、またどこかで会うことができたら、と思っていた。今の自分を報告して、見てもらいたい、ただひとりの人。
(私のこと覚えていてくれたんだ)
「それじゃ、君はもうすぐ飛べるんだね?」
そう言って、その人は微笑んだ。
——これが私達の2度目の出会い、ふたりの物語の新しいはじまりだった。
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