騙されるほうが悪いんだから、恨めしがらないでね
過言
九十九につくもの、全部人間が決める。
ここから上が頭でした
「あそこの家ねえ……いろいろと悪い噂はあるけ
ど、私が聞いたのはこんな話だったかな。なんか
ね、もともとあそこ、三人家族が住んでたらしい
んだけど。お父さんが銀行員で、そこそこ裕福?
ってほどでもないか、まあ普通に幸せな暮らしし
てたらしくて、でもある日、そのお父さんが、銀
行クビになったんだって。しかも横領で懲戒解雇
、しかも色んな余罪が発覚して逮捕、即実刑。全
部会社の偉い人におっかぶせられた罪だって話も
あったけど、まあそこはよくわかんないよね。ん
でね、留置所?刑務所?の中でそのお父さんが服
毒自殺して。いやもうほんと、嫌な話だよね。毒
なんか持ちこめんの?って話だけど、敷地内にた
またま毒草が生えてたんだってさ。自由時間中に
それ食って死んだらしい。相当苦しんだらしいよ
。だって、毒草なんてあの家のどこ探してもない
けどさ、同じ死に方してたお母さんと子供が、口
の中に両手突っ込んで死んでたんだもん。かき出
そうとしたんだろうね、多分。相当奥まで突っ込
んでたっぽくて、首は内側から膨らんで破裂して
たらしいよ」
「あの家についての噂かあ……あ、こんなのがあ
るよ。今まであそこに住んでた歴代の人はみんな
狂っちゃって精神病棟行きー!ってやつ。……ち
ょっとありきたり過ぎたかな?いやいや、現実に
起こったことなんだからさあ、そんなこと言われ
たってしょうがないじゃないかー。えへへ。うん
、その人たちみんな、最初は全然普通なんだけど
ー、ある日急に叫びながら家飛び出してくるんだ
ってさー。でね、そのあとは普通に通報されて保
護されて、家族がいたら家族全員発狂してるから
保護して、なんか首が傷だらけだからそこサポー
ター付けて病院送りって感じ。リアリティない?
そっかあ、うーん。じゃあ次もっと改善しよっか
なー。ああごめんごめん独り言。今言った話、ち
ゃんと本当だからねー」
「あの家?ああ、あそこに前住んでたってやつの
話聞いたことあるよ。出るらしいぞ、幽霊。しか
もめちゃくちゃアグレッシブなの。なんか夜な夜
な、バケツの水ひっくり返してんのか?ってくら
いの水音がするんだってさ、ごー、ごーって。意
味わかんないよな。幽霊ってなんというか、多少
おしとやかなもんじゃないの?っていう。毎夜毎
夜そんな音がするもんだから、その時期のそいつ
、もう凄いクマができててさあ。ある日、もう我
慢できなくなってぶっ倒しちゃうことにしたんだ
って。塩抱えて、数珠とメリケンサック握って、
ずっとその音がしてた風呂場に突撃したらさあ。
排水溝に詰まってたんだって、幽霊。頭詰まって
て、ずっと引っこ抜こうともがいてて。そいつが
助け求める音だったらしいよ、そのラップ音。ん
で、引っこ抜いてあげたら成仏したらしい。ちょ
っと首伸びてふやけてたんだって。めっちゃ面白
いよな」
「あの家、ってあの事故物件?……ああ、あれね。
はいはいはいはい、知ってる知ってる。え、
何オマエ、知らないの?まあそうかー、そりゃあ
なー、マニアでもなきゃ知らないよなー。ああご
めんごめん、話す話す。帰んないで。……あそこ
な、誰も住んだことないんだってよ。……いや本
当本当。あそこに住んだことある人なんて誰もい
ないのに、なぜか事故物件として登録されてんだ
よ、あの家。……いやあ、そんなこと当然調べた
に決まってんじゃん。サイトにいたずらで登録さ
れてる、だけじゃなくて、不動産屋に聞いても
『事故物件です』って言われるんだよ。事故物件
相応の安値だし。理由は知らんよ。住んだらわか
るんじゃね?俺はゴメンだね」
「あの家?って言われても……あれ、家って言っ
ていいんですか?廃墟でしょ、あんなん。そりゃ
あ何年もずっと人は住んでないでしょ……え?物
件としてちゃんと登録されてるんですか?意味わ
かんないですね。住む人いないでしょう。あんな
ぼろぼろの、焼け跡みたいな家に。……え、いや
、どう見たって焦げたみたいな色ですよね?……
ですよね、あーよかった、私にだけ変なもんが見
えてんのかと思った。……へえ、昔あそこに住ん
でたって人がいたんですか。でもそれ、おかしく
ないです?あの家、多分一軒家ですよ?マンショ
ンとかならわかりますけど……人の住んでた家を
そのまま物件として登録したりします?おかしい
でしょうそれって。しかも焼け跡ですよ?……考
えれば考えるほど意味わかんないですねー。考え
たって意味ないんじゃないですか?」
「もし、そこのあなた。あなた今、探し物をして
らっしゃるわよね?今すぐやめなさい、悪い気が
付きまとってるわよ、首のあたり。しかも……こ
れは厄介ねえ、祓うとか祓わないとか、そういう
段階じゃあ、もうないかもしれないわね。悪い気
……悪い気としか言い様がない、今まで私はそん
な曖昧なこと、言ったことないの。ないけれど、
でも、あなたのそれは、霊でも怪でも化でもない
、いうなれば、ええ、嘘よ、嘘嘘嘘、嘘嘘嘘嘘ぜ
ーーんぶ嘘!!!!!」
「あの家、ああ。あれぼくが燃やしたんだよ。う
ん。だって意味が分からないじゃんか。自分が住
んでる一軒家が不動産屋で売りに出されてるだけ
でもおかしいのに、『誰も住んでなかった事故物
件』っていう、異常な物件として登録されてるな
んて。放火と言えば放火だけど、自分の家だから
ね。罪になるのかな?わかんないから、ぼくと君
だけの秘密ってことで。うん。まあたぶん、すっ
ごい信憑性の高い嘘をついた人がいたんじゃない
のかな。それか不動産屋がろくに確かめもせず登
録したか。無責任な話だよね。ぼくはずーっとポ
ルターガイストラップ音金縛りその他もろもろの
心霊現象に耐えながら必死に暮らしてたって言う
のにさあ、その幽霊まで嘘に騙されちゃって」
そして
「ろくろ首が出るらしい」
ここはまるで
「ろくろ首が出るらしい」
握りしめられているかのように、
「ろくろ首が出るらしい」
くっきりと指の跡があって
「ろくろ首が出るらしい」
他の部分より一回り細く、
ここから下が胴体でした
その家は、木で出来た、ボロい家だった。
壁はほとんど黒焦げていて、ところどころ穴が開いている。
建っているのが不思議なくらいに、脆そうな一軒家だった。
玄関のドアは歪んでいて、開けるのに力が必要だった。
ドアノブを掴んで、ドア全体を少し上に持ち上げながら捻る。
がちゃり。
拍子抜けするほどすんなり開いた。
歓迎されているのかな、と思った。
和風建築らしく、玄関を抜けると長い廊下があった。
廊下は間取りに沿って少しだけ曲がっていた。
何に沿っていたのかはもうわからない。突き当りのその部屋以外、全部焼け落ちて、吹き曝しになっていたから。
その部屋の前で一度、立ち止まる。
あの占い師は、一通り叫んだあと、自分の頭を掴んで持ち上げようとして、救急搬送された。
僕がそうならないとも限らない。
パーカーのフードを被る。
首筋に感じる気配は、少しだけ薄くなった。
あいつに教えられたおまじないを唱える。
「僕は関係ない。嘘ついたあいつが悪い」
その部屋の戸を開けた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………いやあそれでさ、僕が入ったその部屋には、なんか人が正座で座ってたんだよ。しかも今時着ないだろっていう着物。んで、ここからが怖いんだけど。最初はさ、首が伸びてるのかなと思ったんだよ、その人の頭があるはずの場所からなんか伸びてたから。でも肌色じゃなくて、なんか黒くて。で、動く気配もないからちょっとだけ、フード深くかぶって、恐る恐る近付いてその黒いやつ、よーく見てみたのね。そしたらその黒いの、全部文字でさあ!!しかも文章になってて。なんか見覚えあるなあと思ったら、僕がそれまで聞いてきたその家についての話そ
のものだったんだよ。ああこの人、さんざんつか
れた嘘のせいでピノキオみたいに首が伸ばされち
ゃってるんだなって思ってさー。じゃあ僕も伸ば
さないといけないよなあって、うん、今やってる
からちょっと待ってね」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その部屋には何もなかった。
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