第34話 AZZ KICKS

「単刀直入に言うと、君らにはDODとはまた違うグループのメンバーとしてやってもらいたいってことなんだ」


 全員が河岸かわぎしが言った言葉の意味を理解できていなかった。


「それはつまり…この5人で、ということですか?」

「そういうことさ」


 高戸は混乱し、余裕なく河岸に詰め寄る。


「待ってください!話が読めません!私達はDODのオーディションに落ちて…それで…」

「そうだね、言うならばDODの姉妹グループと言ったところかな。

 残念ながらみんなはDODにはなれなかったけど、プロデューサーがこのままみんなを手放すのはもったいないと言っていたんだ。

 だからこの5人には別のグループだけど同じ事務所でやってほしいって話になったんだ」

「「……」」


 心境としては複雑だろう。

 DODに入るために参加したオーディションで合格を果たせなかった。

 入りたかったアイドルグループの活躍を隣で見ながら活動していくことがどれだけ大変か。


 鎗目やりのめは納得がいっていない様子だ。


「都合が良すぎです。私達がやりたかったのはDO OR DOです」

「それはもちろんわかってるつもりだよ…ただ僕達もこの5人を集めたのには意味があるんだ。合宿で時間を共に過ごしたこのメンバーだからこそ、上手くいくと思ってる。それに………」


 河岸の元に、プロデューサー鮫山さめやまから電話がかかってくる。


「ごめん、鮫山さんだ。もしもしお疲れ様です」


『全員いるか?』


「え?ええ。先程揃ったばかりです」

『ビデオに切り替える』

「あっ、はい」


 するとスマホの画面にはまだ記憶に新しい鮫山の顔が映った。


『お前ら、元気か?』

「プロデューサーさん」

「お久しぶりです。あの手紙は一体どういう…」

『なんだ、聞いてないのか?新しいグループを設立するって話だ』

「それはわかってます!ただ、私達もそんなすぐには…」


 鮫山が溜めて話しだす。


『オーディションでの結果は残念だった。だがこれもしっかり決めないといけないことだった。誰かが受かって誰かが落ちる。当たり前だ。

 これはオーディションの時にも言ったが、誰かを落とすことが惜しいと感じるほどお前らは優秀だった。DODに選ばれなかったことでお前らはきっとひどく落ち込んだだろう。俺を憎んだだろう』


 高戸は過去を噛みしめて言った。


「そんなことはありません。実力不足でした」

『だから偉そうにお前らに新しいアイドルグループをやれとは言えない。ただ、俺はこのグループをDODとゆかりのあるグループとして育てていきたいと思っている。俺はこのグループもDODと同じように、俺の全力をかけてプロデュースする。このグループも必ず伸ばす。だから、お願いしたい。5人でやってくれないか?』


 残された5人はしばらく悩んだが、お互いを見合って鮫山の決意に、真剣な表情で高戸は応えた。


「…やります」

『ありがとう。恩に着る。河岸、あとの進行は任せる。明日報告しろ』

「はい!わかりましたー!

 …ってもう切れてるし。みんな、改めてありがとう」

「プロデューサーに頼まれたらそりゃあ…ねえ?」


 新たに任された仕事をやると決めた5人。

 あまりに突発的でまだ実感は湧かないが、確かに、アイドルになったのだ。


「新しいグループ名を発表するよ。名前は『AZZアズ KICKSキックス』。君達はその第一期生だ」

「あずき…?」

「名前の意味は…プロデューサーに後日聞いてくれ。とにかく、君達は今日から晴れてアイドルだ!」

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