KAC20241「3分間の戦い」

狐月 耀藍

第1回KAC2024「3分間の戦い」

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。

 何って? 決まってる。

 見ろ、乗客たちの恐怖に満ちた顔を。当然だ、残り三分となった時限爆弾の処理、その処理如何いかんで、この列車の命運が、乗客の未来が、何より俺の命が決まるのだから。


「おい! 本当にやれるんだろうな!」

「うるさい、話しかけるんじゃない!」


 とんでもないことになった。爆破テロの犯人による時限爆弾が仕掛けられた高速鉄道。下手にいじれば爆発は当然として、起動後はGPSにより、速度が180Kmを下回っても爆発するという隙の無さ。これを作った奴は天才だよ。ああ、惚れ惚れする。


 しかし、うっかり寝過ごした結果がこの爆弾列車とのご臨終なんて、やってられるか! みろ! こうして悩んでいる間に、タイマーは無情にカウントダウンを進めていくじゃないか。


「お前、この手の処理なら手慣れたものなんだろう!」


 慣れているわけじゃない! まったく、見当違いの期待をかけられても迷惑極まりない話だ。

 そう言っている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。惚れ惚れするような芸術的に張り巡らされた各種ダミーのリード線を丹念に追いながら、どこがどうつながっているのかを見て、後をたどり直し、思い出し──


 震える手でワイヤーを切る。

 3、2、1──


「タイマーが止まらないぞ⁉」


 ──0。


「伏せろぉっ!」


 この距離で伏せて何になる。滑稽な奴の姿に、俺は床にへたり込みながら笑った。


「……終わったよ。とりあえず、爆破回避だ」


 沸き立つ乗客たちやすぐに電話を始めた奴を見てまた笑う。列車も減速を始めたようだ。


「……って、減速しても死ぬじゃねえかっ!」


 俺は慌てて爆弾を抱えて走ると、非常用ドアコックを開けてドアをこじ開け、外に放り投げる!

 爆弾は風と共に後方に流されていき、落ちた先の田んぼを吹き飛ばした。やれやれだ。


「……というわけだ、刑事さん。一応、英雄だろう?」

「自分で作った爆弾と心中しかけただけだろうがっ!」

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KAC20241「3分間の戦い」 狐月 耀藍 @kitunetuki_youran

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