第46話 犯人逮捕
下山が西原議員の暗殺に失敗したニュースは、瞬く間に全国に広まった。
そして、その背景に宗教団体「新しき学びの宿」への恨みがあることも報道され、テレビのワイドショーなどでも大々的に取り上げられるようになった。
その陰で、上田が事故で死亡したというニュースは、当日小さく報道されただけだった。
事件に関わっていたあじさい土木の西田は、事の成り行きを静かに見守っていた。
西田が会社でスケジュールを確認していると、会社のインターフォンが鳴った。
社員の梅山が立ち上がり応対すると、すぐにドアが大きく開き、背広を着た男たちが中に入ってきた。
「はい。みなさん手をそのままに。警察です。逮捕状が出ています」
先頭にいた男は令状を前に掲げ、口を開いた。
そして、中に入ってきた一部の刑事は、まっすぐ長瀬の所へ向かって行った。
「お前が長瀬だな。高冬法行殺害容疑、上田浩勝殺害容疑、西原議員暗殺未遂容疑で逮捕する」
長瀬は刑事に手錠をかけられた。
「西田社長。あなたにも同じ逮捕状がでています。手を前に出してください」
先ほど令状を見せた刑事が、西田のそばに来て手錠を出した。
「分かりました」
西田は素直に警察に従った。
同じ頃、明日の未来建設にも警察が逮捕状を持って訪れていた。
「なんの容疑ですか?」
社長の古賀は、やって来た刑事にたずねた。
「高冬法行殺害容疑、上田浩勝殺害容疑、および西原議員暗殺未遂容疑、以上、3つの容疑です」
「何か証拠でもあるのですか?」
「ええ。上田はあなた達とのやり取りを残していたんですよ。抜かりましたね。やり取りが消えるメッセージアプリを使用しても、やり取りを記録することは可能なんですよ。ここまで話せば、正直に話してもらえますよね?」
「ええ。行きましょう」
古賀は全てばれていることを悟り、素直に警察の指示に従った。
その頃、新しき学の宿の総務部に所属する吉本太一は、マスコミおよび世間からの電話対応に追われていた。
「一体どうなっているの、あんたの所? あんなに人から恨まれているのにどうして改善しようしないの?」
受話器の向こう側にいる正義の味方を名乗る男性が、容赦無い言葉を太一に浴びせてきた。
「誠にお恥ずかしい話なのですが、今回の事件は教団の過去の行いによって引き起こされたものでして、当時、世間の皆様からたくさんのお声をいただき、現在は寄付行為の強要を行なっておりません。とはいえ、このような事件を引き起こすきっかけを作ってしまったことは、大変遺憾に思っております」
「じゃあ、どうしておたくの所の三男は刺されたの? それでも改善したって言えるの?」
「その件は寄付行為ではなく、彼個人の問題で起きた事件でして」
「ほら。言い訳してきた。何も改善されてないじゃないか。一体いつになったら、あんた達は心から反省するんだ?」
「申し訳ございません。今後は、精一杯皆様に愛される活動ができるよう努めたいと思います」
「いいか。今度は、きちんとしろよ。ずっと見ているからな」
「はい。ありが……」
男は太一が話している最中に電話を切った。
太一は一度息を大きく吐き、一口、水を飲んだ。
「太一、教団、潰れちゃうの?」
志野が聞いてきた。
「大丈夫ですよ、志野さん」
太一は志野に前向きな言葉を返したが、正直言って今回は自信がなかった。
「俺、潰れたら行く所なくなっちゃうよ」
志野の困り果てた表情を見て、太一はもうひと頑張りしようと思った。
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