第23話 イメージアップ大作戦

 方丈探偵事務所の秋田は、来紀から直接連絡を受け、再び教団施設のスタジオに足を運んだ。


 会議室の中に入ると、妹尾の他、前回の映画作りの時に助監督をしていた細身の中年男性と、30歳前後と思われる中肉中背の女性がイスに座っていた。


「おはようございます」


「おはよう、秋田くん。突然だったのに来てくれてありがとう」


 妹尾は笑顔で秋田を迎えてくれた。


「いえ。前回、ここで映画作りに参加してとても楽しかったので、またここに来られて嬉しいです」


「そう言ってもらえると、こちらも助かるよ。二人とは、初対面かな?」


「はい」


「じゃあ、紹介するね。こちらは、長濱勝敏(ながはま かつとし)さん。この間の映画で助監督を務めていた人」


「初めまして、秋田です。よろしくお願いします」


「どうも、秋田くん。この間は手伝ってくれてありがとう。今回もよろしく頼むよ」


「はい」


「こちらの女性は、本間和香菜(ほんま わかな)さん。三ヶ月前に入信したばかりの新人さんです」


「初めまして。本間和香菜と申します。新人同士、仲良くやりましょうね」


「はい。よろしくお願いします」


「秋田くん。今日ここに呼ばれた理由は聞いてる?」


 妹尾が聞いて来た。


「いえ。頼みたいことがあるから来てくれと言われただけで……」


「おはようございます」


 突然、会議室のドアが開き、今来紀がノートパソコンを手に元気な声で中に入ってきた。


「おはようございます」


 集まったメンバーは、各々、来紀にあいさつした。


「おお、秋田くん。突然呼び出したのに来てくれてありがとう」


「いえ。こちらこそ、再び呼んでくださり、ありがとうございます」


「嬉しいこと言うね」


 来紀は笑顔で答え、前方にあるイスに腰掛けた。


 そしてノートパソコンを机に置き、口を開いた。


「今日、皆に集まってもらったのは、これから俺がやろうとしている若者向けの動画作りについて、意見を聞きたかったからだ。ニュースを見て知っていると思うが、うちの兄がやらかして、教団のイメージはすこぶる悪い。そこで、若者向けの動画を作り、イメージアップを図りたい。これに対して、皆の意見を聞かせて欲しい」


「来紀さんの意見に賛成です。若者を惹きつけるために、派手な動画を作りましょう」


 長濱が意見を述べた。


「ありがとう。他に意見がある人は?」


「私も動画作りに賛成です。今の若い人たちはテレビを見ませんし、新聞や週刊誌も読みません。見ているのは、ネットです。上手くバズるものを作れば、教団の人気を上げられると思います」


 和香菜も同意見だった。


「うん。秋田くん。君の意見は?」


 来紀が秋田に話をふってきた。


「僕も動画作りに賛成です。ただ、どんな企画で望めばいいかは分かりませんが」


 秋田は素直に自分の意見を述べた。


「ありがとう。みんな動画作りには賛成なんだね。それじゃあ、今から動画作りプロジェクトを開始する。若者を惹きつけることを目的としているので、若者にウケそうなものを思いついたら、どんどん口に出してくれ。あっ、その間、批評はなしで」


 来紀がブレインストリーミングするよう促してきた。


「定番として、高い所から飛び降りる」


 長濱がいきなり過激な案を出してきた。


 それを聞いた妹尾は、すぐさまその案をホワイトボードに書いた。


「メイクで顔や服装を過激なものにする」


 続けて、和香菜が意見を述べた。


「有名人や、ゲームのキャラとコラボして、インタビュー形式の動画を撮る」


 秋田も思いついたことを述べた。


 その後も皆で意見を出し合い、音楽やライブなどのパフォーマンスを行うことや、ゲーム実況動画を撮る、ペットと戯れる、DIYなど、様々な意見が出た。


「結構、出たな」


 15程度の案が出たところで、来紀がホワイトボードを見返し、口を開いた。


「この中で来紀さんの外したくない要素って、どれですか?」


 秋田は来紀にたずねた。


「音楽は使いたい。あと火の輪潜りはしないけど、目を引くアクションシーンは入れたいかな」


「あっ、だったらパルクールに音楽を合わせるようなものはどうですか?」


 和香菜がパルクールを提案した。


 パルクールとは、街中や自然の中を走ったり飛び回ったりする運動のことで、近年、若者を中心に人気を集めていた。


「なるほど。パルクールか」


 来紀は考える素振りを見せながら言った。


「来紀さん。それでしたら、来紀さんがスケボーで派手なパフォーマンスをすればいいんですよ」


 長濱が新たな案を出してきた。


「えっ、俺?」


「はい。来紀さんのスケボーの腕前、結構なものじゃないですか? 教祖の息子がやっていると分かれば、宣伝活動として最高ですよ」


「そうかな」


 来紀はあまり乗り気な様子ではなかった。


「僕も長濱さんの案に賛成です。それが一番効率のいい宣伝活動になると思います」


 今まで書記として発言を控えていた妹尾が、初めて自分の意見を述べた。


「分かった……。じゃあ、それで行くか」


 妹尾の後押しもあり、秋田たちは来紀を主人公にした動画を撮ることになった。

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