第2話 遺体発見
喜代次が捜査本部の置かれた警察署に足を運ぶと、会議室はすでに捜査会議用に整えられていた。
「主任、ご苦労様です」
会議室に入ると、後輩の矢上玲(やがみ れい)が喜代次に声をかけてきた。180センチの身長に甘いマスクをした矢上は、今年、捜査課に来たばかりの若者だ。事件が起きると、上司の命令でいつも喜代次と組まされていた。
「ああ。お疲れ」
「デートは、どうでしたか?」
「デートじゃない。フィールド・ワークだ。やはりマッチングアプリで未来の旦那を見つけようとしているアラサー女性は、男の経歴や生活習慣をDNA検査でもするかのようにチェックしてくるぞ」
「お相手の女性、かわいそうに」
矢上が同情するような口調で言った。
「俺は何も悪い事してないぞ?」
喜代次はすぐに反論した。
「今の話、その人に伝えたでしょう?」
「ああ。その方が相手のためにもなるからな」
「だからですよ。そんなだから『それ以上、言ってはいけない刑事(デカ)』ってあだ名を付けられるんです」
「何言ってんだ、お前は。刑事たるもの、真実を伝えることにためらいを持ってどうする?」
「伝えてもいいですけど、一般人にはもう少し手心を加えて下さい」
「いやいや。たとえ相手が一般人でも……」
「皆さん、そろそろ会議を始めます。席についてください」
所轄の刑事が口を開いた。喜代次たちは、すぐに席についた。
「これより、辰川市コンクリート詰め事件の捜査会議を始めます。起立、礼。着席してくだい」
号令の後、司会担当の刑事は淡々と事件のあらましを説明し始めた。
「本日9時、辰川市西区5丁目の工事現場から、男性の遺体が発見されました。遺体の特徴と所持品から、4日前から行方不明になっていた高冬法行(たかとう のりゆき)36歳と判明いたしました」
司会の刑事はパソコンを操作して、精悍な顔をした高冬の画像をモニターに映した。
「高冬は株式会社小石川倉庫の総務課長として働いていました。生活安全部の情報によると、高冬は高校卒業と同時に小石川倉庫に就職。勤務態度も良く、社内で問題を起こしたこともありませんでした。既婚者で幼い子供が二人おり、自ら行方をくらますような理由もありませんでした」
司会の刑事はパソコンを操作して、次に工事現場で撮られた画像を出した。高冬の体がコンクリートブロックから半分ほど姿を見せていた。
「これは高冬が埋まっていた工事現場の写真です。今朝、作業員が固めたコンクリートに亀裂ができているのを発見し、調べたところ中から高冬の遺体が発見されました。おそらく腐敗によってガスが生じ、それにより亀裂が出来たのだと思われます。高冬の遺体は現在、司法解剖中ですが、所見によると後頭部に鈍器で殴られた跡があり、それが死因だと思われます。痛い発見現場は誰でも容易に入ることができ、容疑者の特定にはいたっておりません。事件の概要は以上です。部長」
「うむ」
話を振られた部長の加藤は、おもむろに口を開いた。
「各自、職務に全力で当たってくれ。以上」
「では、各自入り口の班割を見て、捜査を開始してください。解散」
集まった刑事たちは、みな席を立ち、自分の担当を確認しに行った。喜代次の担当は鑑取り(かんどり)で、矢上とともに小石川倉庫に行って関係者に話を聞いてくる役目だった。
「よし、いくぞ」
「はい」
喜代次は矢上を伴い、小石川倉庫へ向かった。
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