第7話 俺の人生に、意味があるのだろうか?
小石川倉庫に勤める下山と上田は、倉庫にて荷物をラップで巻き固定する作業を行っていた。
「今日は荷物が多いな」
ラップを手に荷物の周りを歩きながら、上田が口を開いた。
「ああ。ハードな一日になるな」
下山も同じように荷物の周りを歩きながら答えた。
「上田さん。さっき運んだ炭酸飲料、ここじゃないですよ。すぐに奥の方へ移動してください」
在庫管理を担当している中本が声をかけてきた。
「ああ。すいません」
「残りのラップは僕がやりますんで、荷物の運搬お願いします」
「分かりました。ごめん、しもやん。ちょっと行ってくる」
「ああ」
上田は小走りでフォークリフトに向かって行った。
今日は本当に荷物が多い。上田が間違うのも無理はなかった。
「下山さん。それが終わったら、パレットに甲斐谷自動車の部品を載っけてください。ラップはパレットからでお願いします」
中本は下山にも指示を出してきた。
パレットとは荷物を乗せるための荷台のことである。
この上に荷物を置くことで、フォークリフトを使って荷物をいっぺんに運ぶことができた。
「はい。分かりました」
担当していた荷物にラップを巻き終えると、下山はパレットを等間隔に置いて、その上に段ボールに入った自動車部品を積み上げていった。
そして、言われて通り、パレットにも被るよう、ラップを下から上に向かって巻き始めた。
これで荷物がしっかり固定され、段ボールが崩れにくくなる。
下山がラップを巻いていると、トレーラーが倉庫の中に入ってきた。
「オーライ。オーライ」
すぐに中本がトラックに向かっていき、誘導を始めた。
下山はラップを巻く作業をいったん止めて、フォークリフトの方へ向かって行った。
「下山さん、お願いします」
中本が声をかけてきた。
下山は先ほど上田と一緒にラップを巻いていた荷物をパレットごと持ち上げ、今来たトラックに詰め込み始めた。
5回ほど往復して全ての荷物を詰み終わると、トラックはすぐに出発した。
下山はフォークリフトを元の場所に戻し、ラップを巻く作業に戻った。
ふと周りを見ると、上田は新たにやって来たトレーラーから荷物を降ろしていた。
今日は本当に荷物が多い。
下山は額の汗を拭い、再びラップを巻く作業に戻った。
16時30分、今日の作業が終わった。
下山は服を着替えると、すぐに会社を出た。
今日は疲れたので、牛丼が食べたい気分だった。
チェーン店の牛丼屋と定食屋、それと家の近くにあるスーパーと弁当屋の弁当が、下山が夕食をとる時の主な選択肢だった。
牛丼屋で食事を終えると、下山はまっすぐ帰宅した。
家に着くとまず手洗いうがいをし、それから床の上で横になった。
仕事以外、ほとんど代わり映えのない日々。
これが下山の生活だった。
「俺の人生、これで何か意味があるんだろうか?」
下山はいつものように虚しさに苛まれながら、一日を終えた。
喜代次たちは捜査会議に出席するため、捜査本部に集まった。
会議の冒頭、司会の刑事が司法解剖の結果を皆に伝えてきた。
「今朝、高冬法行の司法解剖の結果が届きました。死因は鈍器による後頭部の損傷。少し角のあるもので後ろから殴られたと思われます。体内からアルコールおよび薬物などは発見されず、抵抗した跡もないため、高冬は突然何者かに後ろから殴られ死亡したものと推察されます」
司会の刑事はパソコンをいじり、モニターに明日の未来建設周辺の画像を出した。
「高冬は明日の未来建設に伝票を届けた後、行方が分からなくなっています。この周辺は河川敷になっており、監視カメラはほとんどありません。現在、数少ない監視カメラの映像を取り寄せ調べていますが、残念ながら被疑者特定につながるものは見つかっておりません」
司会の刑事は、次に明日の未来建設の外観と、社長の古賀義隆の画像を出した。
「高冬の交友関係を調べましたが、高冬に対し恨みを抱いていそうな人物を発見することはできませんでした。以上、これまでの捜査結果から、高冬は明日の未来建設の内部か、または外に出た所で何らかの事件に巻き込まれ殺された可能性が高いと思われます。そこで今後の捜査方針として、我々は明日の未来建設の調査および周辺の聞き込みを重点的に行うこととします」
司会の刑事が再びパソコンを操作した。
今度は元知事で自由憲政党所属の衆議院議員である西原と、前知事で現在は自由憲政党の県連会長である堀雅喜(ほり まさき)の姿が映し出された。
「現在、参議院議員選挙が行われており、県連会長の堀は長年、古賀の後ろ盾になっています。捜査の際はその点を十分に注意してください。部長」
司会の刑事に話を振られ、部長の加藤がおもむろに口を開いた。
「これまでの捜査結果を聞いて皆も分かったと思うが、高冬は突発的な出来事に巻き込まれた可能性が高い。どんな些細なことでもいいので、しっかり調べて報告してくれ。皆の健闘を祈る。以上」
加藤は集まった刑事たちを鼓舞し、会議を締めた。
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