第81話 母のいない生活に戻った
正志、美穂は正式に離婚。わずかばかりの結婚生活は幕を閉じた。
美穂は荷物をまとめて、家からいなくなった。母を失ったことで、一人ぼっちの生活に戻った。
若葉さえいなければ、三人で楽しい時間を過ごせた。あいつは生きているだけで、他人を地獄に叩き落していく。
美穂と生活したことで、家庭料理の大切さを学べた。これからは出前をなるべく取らず、一人で料理を作れるようになりたい。
最初から手の込んだ料理を作るのは厳しいので、できることから始めていけばいい。本日は目玉焼きに挑戦しようと思った。
卵を割ろうとするとき、力を入れすぎてしまった。殻はあちこちに散ることとなった。
冷蔵庫の中を確認すると、卵はなくなっていた。練習をするためには、新しいものを買ってくる必要がある。
身支度の準備を考えていると、玄関のチャイムが鳴らされた。勝への来客ではなく、父に用事がある人だと思われる。
扉を開けると、思わぬ人物が立っていた。
「勝ちゃん、ヤッホー」
「愛ちゃん、急にどうしたの?」
「ストレス解消をするために、こちらにやってきたんだ。大学の教師に理不尽に怒られて、むしゃくしゃしているんだ」
教師に理不尽に怒られるのは、学校ではよくある話。この手の話は、尽きることは絶対にない。
「勝ちゃん、おかあさんはどこに行ったの?」
若葉のことが原因で、正志、美穂が離婚したことを伝える。
「そっか、そうなんだ」
「美穂さんに罪はないけど、やむを得ない判断だと思う。二股女と関係を持ったら、すべてを失いかねない」
10万円を完全に使い果たし、無一文になったと聞いている。計画性のなさについては、逮捕された父をそのまま受け継いでいる。できそこないの父からは、できそこないの娘が生まれるのは必然なのかもしれない。
愛は調理場を見て、何をしているのかを感じ取った。
「勝ちゃん、料理をすることにしたの?」
「出前ばかり取るよりも、料理を作れるようになったほうがいいと思ったんだ」
「私でよかったら、料理のレクチャーをしてもいいよ」
「愛ちゃん、よろしくお願いします」
「勝ちゃんのためだったら、喜んで力になるよ。お姉さんにまかせなさい」
愛の家を訪ねたとき、そつなく料理をこなしていた。勝と比べると、スキルは格段に上のレベルにいる。
「勝ちゃん、最初は何からやりたいの?」
「卵を割るところから始めようと思っている」
「上手な割り方を、レクチャーしてあげるね」
「ありがとうございます」
やりとりをしたあとに、卵を切らしたことを思い出す。
「卵を切らしているから、スーパーで新しいものをゲットする必要がある」
「二人でスーパーに行こう。安い店を知っているんだ」
出前ばかりを取っていたため、スーパーの値段情報に疎い。卵は10個でどれくらいなのだろうか。頭の中では、1個100円、10個で1000円くらいだと予想した。
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