第73話 都を保健室に運んだ

 都をなんとか保健室に運ぶことができた。細身の女の子であっても、一人では相当にきついものがある。中肉中背のころだったら、確実に途中で転倒していた。


 都は力のない声で、感謝の気持ちを伝えてきた。


「勝君、ありがとう・・・・・・」


 都の藍色の髪の毛が頬をかすめる。頬の色と同じく、こちらも元気を失っているように感じられた。


 白衣を着た40代の女が、都に声をかける。年齢を全く感じさせない、若々しい声をしている。


「どうかしたんですか?」


 簡潔に事情を説明する。


「都さんの調子が悪いみたいです。休ませることはできませんか?」


 白衣を着た女は、ベッドを指さした。


「ベッドに空きがあるわ。横になってちょうだい」


 都はベッドに向かおうとするも、足元はふらついていた。白衣を着た女性はそれを察すると、右側から支えていた。


「都さん、体調が相当悪そうね。本日は授業を休んで、ゆっくりとなったほうがいいかもしれないわ」


 都は元気のない声で返事をする。


「わ、わかりました・・・・・・」


「親子さんには連絡を入れたほうがいい?」


 都は首を横に振った。


「一人で大丈夫なので、親は呼ばなくても結構です」

  

 保健室の時計を確認すると、8時28分となっていた。すぐに戻らなければ、授業に遅刻する。


「授業が始まるので、失礼させていただきます。都さんのことをよろしくお願いします」


「わかったわ。任せておいて」


 都を一瞥したあと、保健室をあとにする。

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