第71話 従姉の本音(美穂編)
「かあさん、部屋で眠ってきます」
勝はお疲れらしく、象さながらの大きなあくびをする。
「勝ちゃん、ゆっくりと眠ってきてね」
「かあさんも食器洗いを終えたら、しっかりと休んでくださいね」
「勝ちゃん、ありがとう・・・・・・」
食器洗いの皿は残り五枚ほど。ちゃっちゃっと終えて、あとはゆっくりと休みたいところ。
愛の視線は、勝に注がれていた。彼女の瞳からは恋する乙女をはっきりと感じさせる。
美穂は囁きレベルの声で、愛に確認を取ってみる。
「勝ちゃんに対して、恋愛感情を持っているみたいだね」
愛の頬は桜色に染まった。
「はい。勝ちゃんのことが大好きです」
「告白はしてみたの?」
愛は首を横に振った。
「さりげなく聞いてみたんですけど、異性としては見てくれていないみたいです。親戚と結婚する価値観はないので、他をあたろうと考えています」
従姉同士の結婚は、絶滅危惧種レベルに少なくなった。親戚と籍を入れるより、赤の他人と結婚したほうが気楽なのかもしれない。
「勝ちゃんは年上は×みたいです。女性の価値=若さなので、しょうがないと思うこともありますけど、寂しく感じてしまいますね」
結婚する男性の30パーセントは、年上の女性を選んでいる。年上というだけで、結婚不可とはならないはず。
「二人きりの生活をOKした時点で、少しは察してほしかったですけど。勝ちゃんは恋愛感情については、とことん疎いみたいですね」
「心の中にある想いを言葉にしなければ、相手にはわかってもらえないよ」
愛は軽く相槌を打った。
「従妹同士なので、いろいろなところで会う機会があります。必要以上に踏み込んで、関係を壊すのは避けるようにしています」
血のつながりによって、恋愛感情の封印を余儀なくされる。おつきあいをしたい女性には、あまりにも辛すぎる状況だ。
「どんな理由があったにせよ、私を頼ってくれたのは大切な記念です。墓場に行くまで、忘れることはないでしょう」
若葉がいなければ、愛は思い出を残せぬままだった。保険金殺人をたくらむ女であっても、役立つことはあるのかなと思わされた。
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