奇譚9 まじゅつしけん
@skullbehringer
奇譚9 まじゅつしけん
俺の名前はヒグラシケン、この多次元世界を統べる大いなるエンシャント魔術の使い手、アーサードラゴンの生まれ変わりであり、清涼学院高校2年3組の生徒で、次期生徒会長としてみんなから厚い人望を受けてスポーツ万能、成績優秀、なんか陽キャたちとは仲良く付き合うし陰キャたちともアニメの話題とかでめっちゃ話合うし、幼なじみの朱音シオンがなんだか最近変に意識してくるから俺は別になんとも思ってねーんだけど微妙な距離感になってめんどくせぇなあとか思っていたら、後輩でおっちょこちょいな巨乳メガネっこ藤巻ムツミが横断歩道で、せんぱーいっつって走ってきたらトラックに轢かれそうになったところをあぶねーっつって押して身代わりになったその瞬間、光がぱぁってなって聖樹第四神世界の守りビトであるホーリーエルフの転生魔術によってこっち側の世界に召喚されちったもんだから、なんとかして大魔王フーゲンとその使い魔であるエナメルドラゴルをぶっ殺してホーリーアークの力を再びこの世界に満たす事ができないと、こっちの世界は闇に飲まれるし、もといた世界もなんかやばい事になるんだって、そんなん半分脅しだよな俺に選択肢はねーのかよっつってとりま、なんだか力がみなぎってくるしなんかこっちの世界は重力とかも軽いからチート的な強さが発揮できるしバスケ部でいつも点決めまくってる俺がマジになったら余裕でこんなん全クリっしょってエルフのお姉さん笑ってくれて超かわいいし何か着てる服の布の面積が小さいから幼馴染とか忘れかけてんすけどまぁ魔王んとこいくかっつって旅に出たんよ。
〜
‥いいかげんにしろ!
(何かが倒れる音)
‥あなたもうやめて!
(小さな子供の泣き声)
〜
まあ何だかんだあって女戦士と女僧侶が仲間になったんだけど2人ともいー感じで俺が命救ったりしたもんだから好かれちゃって好かれちゃって三角関係になりながら、てーかエルフのお姉さんも入れたら四角関係かよーつって、すったもんだして魔王の裏世界のとこまできてモンスターどもを俺のグレイトフルソードで薙ぎ倒しながら突き進んでいくとダンジョンの奥深くに謎の地下世界が広がってて、聖樹の根腐れから腐敗した魔生命が誕生しててそこから生まれた闇大仏樹の発する邪気が表の世界まで蝕んでいるから今まで透き通っていたホーリーな湖が真っ暗になるのかってエルフのお姉さんが言ってるけど俺はとにかくモンスターどもをぶっ殺しまくって切り刻みぶっ叩きまくって捻り潰し逃げ惑うやつらを追いかけてトドメをさしエンシャント魔術の恐ろしい呪文で呪い殺すんだよね呪い呪い呪詛告白初恋そして世界!
〜
(moreruのCDが割れて、握ったこぶしに傷がつく。血が流れる。居間ではまだ両親の叫び声が続いている)
‥お前がちゃんとしないからケンはああなってるんだ!わかってるのか!?
‥うるさいうるさいあなたがそうやって暴力ふるうからでしょ!
〜
そんで大魔王フーゲンの永久の間まできたんだんけどちっちゃい扉なのよ。扉ってかフスマなの。フスマ?殴って破れたみたいになってるし色々落書きしてあるし、絶対立ち入り禁止的なやつでまぁいいかっつって開けてみたら俺がいる。体育座りした俺がいる。髪ボサボサで部屋はめちゃくちゃでヒョロヒョロな身体の俺がいる。CDが割れてて血を流してるし、なんかカッターナイフ持ってる。俺?
〜
(ケンは襖が開いている事に気がつく)
〜
‥あーはいはい。うん、そういうやつね。わかってましたよ、はいー、おつかれっすー。俺はモノホンのケンじゃない。俺はイケイケ高校生でもないしドラゴンの生まれ変わりでもないし、エンシャント魔術師でもない。ただの空想の産物ですねん。でもって目の前にいるのがモノホンのケンくんね。つまりこの状況はなに、もう1人の俺を殺せ的なやつ?それとも別の宇宙の可能性を消せ的なやつ?それとも弱い自分を乗り越えるイマジナリーフレンド的なやつ?そして2人は戸惑いながらも次第に打ち解けて悩みを話し合って仲良くハッピー的なやつ?要はラヴデスロボット世にも奇妙なアウターゾーン的なやつ?
〜
(カッターナイフを持ったままケンは立ち上がる)
〜
まあ落ち着きなよーつってニセケンの俺はマジケンの俺に言うけど、聞こえてんだか聞こえてねえんだかするんと俺の体を通り抜け俺は出て行く。カッターナイフを持って。きっと廊下を真っ直ぐ行って居間に行くんだろ、まだ毒親どもの叫び声がしてるし、弟のなつおは泣いてるし、あのクソオヤジ多分なつおのこと殴ってんな、マジケンはきっとカッターナイフでオヤジ切りつけに行くんだろ、そんで、止めようとしたクソババアを間違って切ってしまって、運悪くクソババアの頸動脈とかに入っちゃってババア死んじゃうパターンだな。
〜
(ケンは居間の扉を開ける)
〜
ホーリーエルフちゃーん、こういう時に役に立つ魔法とかないの?
「ない」
あーそう。
〜
(父親はカッターナイフを持ったケンが入ってきた事に気づかず母親に怒鳴り散らしている、母親は座り込み、泣きじゃくるなつおを守るように抱きかかえている。なつおの頭から血が流れている)
〜
しゃーねー、エンシャント魔術の使い手、アーサードラゴンの生まれ変わりであり、イケイケ高校生のケンとしてここはガツンとやっち〜まいなっBYあっこゴリラってなもんだ。
俺を助けるのは最後は俺自身だ。
イマジネーション膨らまし、はっぴぃえんどにしておーくーれぇいBYやのあっこ。
〜
(ケンは父親に近づいてカッターナイフを振り下ろす、母親が気づいて、ケン!と叫ぶ。)
〜
黄昏よりも昏きモノ‥我は放つ光の‥ザンヤルマンソード‥メルヴィ&カシム‥シロちゃん炎で焼き払うデシ‥
俺は今まで覚えてきたエンシャントな呪文を唱える。
ついでにパッと思いつく魔法書を思い浮かべる。
実生活では大して役に立たなかったけど、どれも俺を楽しませて、胸躍らせてくれた魔法たちだ。
俺はラノベ作家になりたかった。
お父さんお母さんを殺したいんじゃない。
つーわけでマジケンの俺よ、止まりやがれ!
竜破斬(ドラグ・スレイブ)!
〜
(カッターナイフを振り下ろしたケンは父親の背中ギリギリでその刃を止めた。)
(父のワイシャツの下、Tシャツが透けて見えたからだ。)
(女の子がこちらを向いて笑っているイラストと、スレイヤーズと書かれているのがうっすらわかる。)
(ケンは小学生の時に、父が昔読んでいた本を引っ張り出して読んだのを思い出した。父が好きだったファンタジー小説。ケンは父に漢字の読み方を教えてもらいながら、2人で色んなファンタジー小説を読んだ。)
(Tシャツはお揃いで購入したものだ。父はまだそれを着ていた。)
(いつの間にか檻から逃げたしていたペットのトカゲがケンの足をペロリとなめる。ケンはカッターナイフを床に落とす。)
〜
エナメルドラゴルちゃん!
とりあえず間一髪、ふぃ〜。親子でラノベ読める時代になったんね。ちょいキモいけどまぁいいよね。
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