ネゴシエ〜タ〜のくるみちゃん 拒食症を調査編
@pusuga
第1話 女の勘は存在するのか?
1983年に亡くなった、カレン・カーペンターさんはご存知ですか?
トップ・オブ・ザ・ワールド、イエスタディ・ワンス・モアなど数多くのヒット曲を持ち、世界でも高い評価を得ているミュージシャン「カーペンターズ」のヴォーカリスト及びドラマーだ。
彼女の死因は拒食症による心不全。
◆◇◆◇◆◇◆◇
プルルルル
ガチャ
【今電話に出れないから――】
警視庁、東京本庁の警視である俺は徳川春男45歳、独身。
今俺は、正式にはアメリカ合衆国連邦捜査機関FBI所属、現在は帰国中で警視庁の捜査一課特別補佐の青森くるみに本庁の自分のデスクで電話をしている。
くるみは中学三年生。交渉人、つまりネゴシエーターだ。
だが留守電の様だ。
自分の声で留守電の応答メッセージを設定しているのか……。録音してる姿を想像すると、可愛らしいもんだな。やはりまだまだ子供だな。
【今電話に出れないから、後で折り返すね。悪いけど、メッセージを残しておいてね。ちなみに春男だったらメッセージいらないから。折り返しもしないよ】
「…………」
今回俺は本庁から、希望していない五日間の特別休暇をもらった。
表向きは、俺が数々の事件を解決した功労として休暇を与えられ、海外でバカンスを楽しむと言う事になっている。
しかし実際は、ある依頼を警視総監からのポケットマネー10万円を即答で受けとり快諾、極秘にその対応をする為の休暇だ。
俺は徳川春男式交渉術の一つである、鬼電話を30分に渡り発動させた。
その様子に周囲の本庁の職員達は、恐れおののき、腫れ物を触る様子で見守り誰も近寄らない。
そりゃあそうだ。
俺は泣く子も黙る鬼警視徳川春男だからな。
フッ!
耳元に息が拭きかかる。
「オワッ!」
驚愕の声を発した俺は、耳を抑え振り向いた。
そこには、携帯電話の画面を見ながら、右手にロングストローを持ったくるみが立っていた。
「しつこいよ、春男は。それにビックリした声もキモいし」
「……す、すまん、今日はくるみ本庁には来ないと思ってな」
「女の勘だよ。春男絡みの嫌な予感がしたから来たんだよ」
「そ、そうか……」
くるみ。お前はまだ少女であって、女ではないと思うが?
それに女の勘なんてものは実在しない迷信じゃないか?
「春男、女の勘なんてないと思ってるでしょ?」
「…………」
(こいつはエスパーか?)
「やっぱりね。春男が男尊女卑傾向である思考の持ち主なんて最初からわかってるからさ」
確かに一番最初の立て篭もり事件の時、この女の子が交渉役なんてふざけてると発言したが、お前は女の子だぞ?
「でもね、医学的に女の勘って言うのは存在してると説明出来るんだよ」
「そ、そうなのか?」
「うん。春男は結婚どころか、女性とお付き合いした事なんて皆無だから、わからないかも知れないけど、昔から女の勘は鋭いと言われてるよね?」
「ああ、聞いた事がある。特に男女関係において、男の隠し事をなんの予兆や会話もないのに、何か隠していると気付くと言うよな……」
「そだよ。それ以外でも、男性が後ろめたく思ってる事や、本人も気付かなかった体調の変化に気付く事があるの。春男の場合はそれ以前に女性に見られたりする事ないから、ピンと来ないと思うけど」
「…………」
おかしい。
最近のくるみのディスりにゾクゾクする時がある。なんなんだ?
「男性と女性では脳の機能や構造に違いがあるからなの」
「…………」
「脳には右脳と左脳がある事は春男でも知ってるでしょ? ちなみに右脳は言語能力、計算能力で左脳は空間認識能力、音楽を聞いて処理をする音楽的能力なんだよ」
「なるほど。使い分けているんだな」
「つまり役割分担だよ。でも女性はこの役割分担が男性ほど進んでいないの」
「どう言う事だ?」
「例えば、しゃべると言う行為は、男性の場合、脳の一箇所に集中させて行う――でも女性は脳全体に分散させて行うの、要は右脳が駄目なら左脳を使う事が出来るの。男性は役割分担が決まってるから出来ないの」
「な、なるほど」
「そして女性は脳全体に視覚情報、聴覚情報、言語情報を行き来させる事が出来るんだよ。だから、女性は人や物事をきめ細かく見る、変化を観察する、音や音楽をよく聞きとると言った事が可能なんだよ」
「そ、そうか……」
「それに、女性は過去の記憶力が優れている部分があるの」
「そうなのか? だが、そうだと仮定すると記憶の学力テストをしたら女性が成績上位を独占する事にならないか? だが、実際そんな話は聞いた事は無いぞ?」
「部分があるって言ったじゃん。ちゃんと一言一句、話を聞きなよ。事件の聴取でそんなんじゃ、大変な事になるよ?」
「…………」
「女性には一ヶ月の周期の中で記憶力がアップする期間があるの。女性には月経があるでしょ? 男性がホルモンの分泌量が一定なのに対して、女性は分泌量が増える時期があるの。それは排卵期に分泌される、エストロゲンと言うホルモン。もちろん男性の体内にも存在するけど、春男が好きな巨乳……乳腺の発達、骨の形成促進、女性型の発毛や女性的な声の形成――そのエストロゲンの中でもエストラジオールを……あ、春男にはよくわからないだろうから、もう解説やめるけど、とにかくそう言う時期があるんだよ」
「…………」
(おや? この作品は医学博士のくるみちゃんだったか?)
「つまり女の勘って……ちょっと待って。書くね」
●エストロゲンの分泌量が増した時期の記憶力
●脳全体で役割を兼用している為に、脳内の情報の行き来が激しく複雑な思考分析を行う。
「この理由で、男性より女性の方が、ひらめきとかの勘が働くんだよ。わかった?」
「あ、ああ……」
「でもね。女性が脳内の情報の行き来が激しいと言う事は、混乱状態に陥りやすいと言う事でもあるの」
「え?」
「方向音痴が女性の方が起こりやすいし、記憶の出し入れと脳内情報の行き来が激し過ぎておしゃべりが止まらなくなって、話題がコロコロ変わったりと言う事が起こるの」
「なるほど」
「つまり女性は繊細でデリケート、感情が高ぶり易いのも、常に脳全体を使って情報を整理しているからだよ。だから、女性は精神的に支えてあげて、いたわらなくちゃ駄目だよ。相手がいない春男には関係ないけど」
「…………」
「拒食症の女の子の事でしょ? 一緒に行くんでしょ?」
「は? くるみお前、どうして、その話を――」
そうだった。
くるみは「警視総監の娘さんの親友のお孫さんのお嬢さん」だった。
考えれば考えるほど関係性はわからんが、とにかく警視総監の関係者だったな。
今回の警視総監からの依頼。
『警視総監の親戚の高校一年生の娘さんが拒食症と診断された。詳しい状況の情報収集と、いじめなど立件が必要であればサポートをして欲しい』
「私もこないだのデマ事件の時に、医学的な知識もある程度は必要だなって思ったの。だからFBIの先生を質問責めにして聞いてるの。そう言う部分、新しい知識を得たと言う意味では、春男には感謝してるよ。だから協力するよ。同行申請書を出しておいてね。場所は秋田だっけ?」
「あ、ああ。すまん。出発は明日だ」
「え? 明後日にしてよ」
「なんでだ?」
「明日はもじのイチって言う、即売会イベントでpusugaさんの新刊買わなきゃいけないから」
「…………」
その後、既に取得済みである明日の朝一新幹線のグリーン席チケットをこれみよがしに見せつけ、くるみを黙らせた後、問答無用に一万円札を握らせた。
こうして、俺とくるみは秋田へ向かったのだった。
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