三人目の小説

 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。

 書き出しが『〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった』

 そして、文字数が800文字以上であること。

 そんな小説を書かなければ、僕は死ぬらしい。

 提示された条件を見ても、何も考えられない。

 現実感が、全くない。

 でも、もう、二人死んでしまった。

 二人の血が、床にまだ残っている。

 ぬるぬるとすべる。

 無理だ、800文字だなんて。

 僕のタイピング速度では、絶対に。

 駄目だ。死んでしまう。

 あきらめるな。

 僕には、僕の、三分以内にやらなければならないことがある。

 次に書くのは、僕の妻だ。

 二人でよく小説の話をした。

 ここは削って、ここは膨らませて、ここは説明を入れて、ここは想像をさせて。

 楽しかった。

 まだまだ、小説を書きたいのに。

 僕は、死ぬ。

 また、二人で、小説を書きたかったけれど、どうやら、無理だ、もう、残り時間がない。

 あとは、頼んだ。

 そんな顔をしないでくれ。

 愛している。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る