第22話 文化祭は女装メイド喫茶⁉とお昼に可愛い愛娘


 ミミは放課後になるまで生徒会室にいることになり、俺たちはいつも通り授業をこなす。

 

 一限目はホームルームであり、話題は清純祭一色だった。

 

 清純祭は丁度一ヶ月後であり、文化祭当日は協賛イベントだけでなく、当然ながらクラスの出し物もやる。


 しかし、一年生は入学してから数ヶ月も経っていない状況で文化祭を行うことになるわけで勝手が分からない。


 だから、学年の垣根を取っ払い、組合同で出し物をやることになっているのだ。


 そして、毎年、文化祭当日はA組からD組までの出し物の集客数を競い合う。

 一位には理事長から金一封が送られるということなので、生徒のやる気は俄然高い。


 去年、俺のクラスはシンデレラをやり、俺は全力裏方で小道具を作って、陰で表舞台に出る人を支えていた。


 今年も気楽に屋台か何かで焼きそばでも作る係りになって裏方に徹していられれば、いいと思っていた。


 教壇にはD組の実行委員である眼鏡君がいた。


「今年も各学年のD組から選抜された実行委員により清純祭の出し物について吟味された結果、俺たちD組はカフェテリアを貸し切って、メイド喫茶をやることになりました!」


 男子から「おー!」と歓喜の声が沸き、女子からブーイングの嵐が巻き起こる。

 おおよそは遥のメイド服姿を見れるのを楽しみにしている奴が多いのだろう。

 まぁ、俺もそのうちの一人だ。

 でも、これなら裏方に回ってご飯を作る側に回れば良いから、気が楽でもある。


「静粛に、静粛に!」


 眼鏡君がみんなを宥める。


「もちろん、男子の諸君にもメイドになってもらう!」


 はぁ?


「そのため、男子諸君も頑張って女子力を磨いて欲しい!」


 騒いでいたクラスの男子たちの歓喜が鳴りやみ、凍り付いた。


「お、俺たちは裏方じゃないのか⁉」


「あぁ、そうだ。もちろん、料理番や買い出しなどの裏方や広報は十分な人数を確保する」


「ちょっと待てよ! そもそも女子がメイドなら、男子は執事って決まりだろ!」

「実行委員長は頭が可笑しくなったのか!」

「そうだ、そうだ。俺たちになんの地獄をさせるつもりだ!」

「当日は地獄絵図しか思い浮かばないぞ!」

「脳ミソ腐ってんのか!」

「需要あんのか、オラ!」

「その眼鏡、カチ割るぞ!」


 今度は男子のブーイングが巻き起こっていた。

 眼鏡君が教壇の机をバンと叩き、静まり返させる。


「メイドと執事、あぁ、それは王道の出し物だ。好きな奴も多いだろう。だが、清純祭は楽しいイベントではあるが、A~D組の出し物の集客数を競いランク付けをされる場でもある。最下位の者たちに人権はない! A組はグラウンドを貸し切っての合同バンド、B組は体育館を貸し切っての演劇、C組は中庭でのダンスショー。こんな圧倒的なパフォーマンスを行える人材を揃えている彼らに太刀打ちできる手段は何か思いつくかね?」


「……………………」


「意外性と容姿だよ。私たちには天音様という絶対的な存在がいる。それを利用しない手はない。だが、それだけでは不十分だ。私たち実行委員は男子諸君にコアな客層を引き込んでもらう必要があると踏んだ。それが男子メイド喫茶だ。きっと可愛い男子とネタ男子が女装し、SNSで宣伝すれば、天音様と一緒に話題になるに違いない!」


 眼鏡君が涙ながらに力説する。個人的には眼鏡君の趣味が込められている気がしないわけではないのだけど、意外性という意味では他の出し物よりパンチはあるだろう。怖いもの見たさに見に来る奴らもいそうだからな。


「じゃあ、誰が女装するんだ? 全員ってわけではないだろ?」

「その通りだ。それに関しても実行委員側がすでに目星をつけている」


 すると、眼鏡委員長が一枚の紙を配った。そこには総勢百名程度のシフトと役割分担が記載されていた。俺は自分の名前を探したら――。


 メイド担当:八代景太 他数名


「はああああああああああああああ⁉」


 思わず立ち上がってしまった。

 そして、ホームルームの終業の鐘が鳴った。


「では、解散‼」


 すると、次の授業が体育なため、体操着を持った男子生徒たちが次々と俺の肩をポンポンと叩いて、「ドンマイ」と声をかけて教室を出ていく。

 二人きりになった教室で、遥も席を立ち、俺を見る。


「景太なら大丈夫だと思います! いいえ、私が可愛くさせてみます!」

「……あ、ありがとう」


 あぁ……、本当に大丈夫だろうか。

 俺は窓の外を遠い眼で見つめた。


        ☆


 昼休みになり、遥がファンの人たちに丁重にお断りを入れてから生徒会室に向かった。


「パパ、ママ!」


 扉を開けると、ぴょーんと巫女服姿のミミが胸に飛び込んでくる。

 なんで巫女服を着ているのかと思えば、既に刀華先輩と知世先輩が来ていたからだろう。

 生徒会室には服が散乱していたので、着せ替え人形にされていたのかもしれない。


「元気してたか?」

「うん! 知世と刀華に遊んでもらってたの! ミミ可愛い?」


 ミミは俺に抱っこされながら、巫女服の両袖を持って、ピンとアピールする。


「あぁ、可愛いぞ」


 わしゃわしゃと頭を撫でてやる。


「パパ大好き!」


 わしっと俺にしがみついて顔を擦り付けてくる。

 本当に可愛い奴だ。

 すっと、知世先輩が俺たちの元にやって来て――、


「八代君、遥ちゃん……ご出産おめでとうだったのね」


 とホロリと涙を流して言った。


「はい、出産祝い」


 そっと、知世先輩が胸元からご祝儀を出す。


「「いやいや、全然違いますよ⁉」」


「そんなの分かっていますよ? 刀華ちゃんから聞きましたから。ふふっ、二人とも息がそろっていて仲睦まじいわぁ」


 手のひらを頬に添えてにこりと笑う。

 知ってるのかい! 

 相変わらずの知世先輩のいじりだった。


「それはミミちゃんのご飯に使ってあげて」


 ご祝儀の中身は『〇ュール一年分の引換券だった』

 人の姿になったミミが〇ュールを食べるのかは謎だったが。


 知世先輩たちと仲良くお昼にし、俺たちも持ってきた弁当を開いて昼にする。

 ミミには生徒会室に来る前に作って来たミルクの入った哺乳瓶をプレゼントした。

 ごくごくと美味しそうに哺乳瓶を加えて「んま!」とミルクを飲む。


「そう、八代君がメイドさんをやることになったの……」

「ま、まぁ……なんかそうなりました……」

「文化祭当日が楽しみじゃないか! 私たちも八代君に接客してもらいに行こう! あっはっは!」


 刀華先輩は大らかに爆笑していた。

 あぁ、恥ずかしくて死にたい。


「お二人は何をするんですか?」

「私はC組だからダンスよ。なんか私に演舞をしてもらいたいらしくてね……」


 と、知世先輩。


「私はB組だから演劇だな。時代劇をやるらしい」


 と刀華先輩。

 うん、二人とも絵になる未来しか見えないな。

 学園の聖母とイケメン美女を見るために当日の文化祭で学園内はごった返すだろう。

 

 実行委員の眼鏡君が焦るわけだ。

 客寄せの広告塔と話題性は十分。

 しかも話によると、両組は俺たちよりさらに前から動いていたらしく、当日は完成度の高い物が出来上がるだろう。

 

 このままいけば、優勝はB組かC組だ。

 これに対抗するのが男メイド喫茶+遥とかマジ無理だろ。

 ま、俺はほどほどにこなせれば良いかなと遠い眼をしながら、昼休みを過ごした。

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