第20話 幸せな朝ごはん、魔法の命令に照れる彼女が可愛い

 身支度を整えて、リビングに行くと制服エプロン姿の遥がミミと一緒に朝ごはんをテーブルの上に運んでいた。

 

 昨日、ミミの覚醒により俺たちは九死に一生を得たわけだけど、あの後橋の上にいるはずだった七瀬さんを俺たちは見つけることができなかった。

 

 だが、七瀬さんは魔法を使っていた。

 そして、遥を狙った。


 一般人だった七瀬さんがどうやって魔法を習得したのか不明だが、少なくとも七瀬さんに超常的な力を使わせることができるようにした人物がいることは事実だった。


 そして、昨日は遥を一人でいさせるのは危険だったから、俺の家に泊まらないか……と提案したわけで。


「おはようございます」

「パパ、おそーい!」

「ごめん、ごめん。おはよ、二人とも」


 今日の朝食はベーコンエッグにトマトサラダと焼きたての食パン。

 洋風にまとめられていてこんな朝食も良い。

 なによりも――。


「ど、どうしましたか? メニューが気に入らなかったですか?」

「ううん、違うよ。その……好きな人と取る朝食って幸せだなと思って……」

「…………はい。私も――」


 お互いに朝食を目の前にして顔を赤くしてしまう。

 ふと、遥の手に目がいった。指にはいくつもの絆創膏が巻かれている。

 遥が俺の視線に気づいてそっと手を隠す。


「ママは頑張ったの」

「そ、そうみたいだね」


「あっ……私って塩むすびの女のイメージですよね? ご想像の通り、あまり料理をしたことがなくて、パッと朝ごはんを作れなかったから早起きして作るしかなかったんです。最初はお味噌汁を作っていたのですが……色々と混ぜたらとんでもない味になっちゃって。ごめんなさい、その途中で食材を何個かダメにもしてしまって……。だから朝食を変えなきゃいけなくて……。でも、景太に私の作った朝ごはんを食べてもらいたかったから……」


「ママは頑張ったの!」


 ミミは大事なことだから二回言いたかったのかもしれない。


 対する遥は罪悪感で満たされているのか、申し訳なさそうにしょんぼりしている。

 見れば、台所には洗い物の山が出来ていた。その状況から相当に格闘したのだと伺える。

 まぁ、こんなものは後で片付ければいいさ。

 それよりも、料理下手な彼女が俺のために精一杯、頑張って作ってくれたことに感動せざるを得ない。


「そのくらい気にしないで。遥の手料理を食べられる方が何倍も嬉しいから」

「……本当に、景太が私の恋人で良かったです」


 遥の瞳に涙が滲んでいた。


「ミミも運ぶの頑張った!」

「あぁ、そうだったな」


 わしゃわしゃとミミの頭を撫でてやると、嬉しそうにしっぽを振った。


「じゃあ、朝ごはんを食べよう」


 三人で「頂きます」と合掌。


 ミミはミルクの入った哺乳瓶の口に齧り付いた。

 ミルクが大好きらしく物凄い勢いで飲んでいく。

 まぁ、元は子猫だからな。


「おかわり!」

「お腹が緩まないか?」

「だいじょーぶ! ミミもっと飲みたい!」


 捨てられて弱っていたところを見た時はどうなるかと思ったけど、元気で何よりだ。このままスクスク育って欲しい。

 俺もベーコンエッグを一口頬張る。


「……美味しい」

 

 うん、ベーコンの焼き加減も良い感じだし、なにより愛情というスパイスが効いていて何倍も美味しく感じる。

 最高だよ、幸せだよ、気を失ってしまいそうなくらいにね!


「ありがとうございます……」


 あむっと同じくベーコンを頬張る遥が可愛かったのは言うまでもない!


    ☆


 朝食後、遥と一緒に洗い物をしていたら――。


【パートナーと一緒にお風呂に入りなさい】

 と命令が下った。

 

 俺は手に持っていた皿を落としてしまいそうになったが、何とかキャッチした。

 確かに二人でお風呂に入るって愛が深まりそうな感じがしますけども!

 まだ俺たちは一緒にお風呂は入ったことがない。

 恋人(仮)から始まった関係だけど、知り合って一週間。

 付き合って一日目の初々しいカップルですからね。展開が速すぎて頭がぶっ飛びそうだけど、今は正式な恋人に格上げした。

 だから、こんな提案も不自然ではない。


「流石に今からお風呂入ると学校に遅刻しちゃうし、今日も泊っていく?」

「……はい。よろしくお願いします」


 遥はこくりとお皿で顔を隠して言った。


……うん、可愛い。


 何はともあれ、命令はこなした方が良いよな。


 豹変した七瀬さんの件もある。いつ何が起こるか分からないから、イチャラブしてパワーアップしておく必要があるだろう。


 二人で洗い物を終えた後、俺は残り物で軽く二人分のお弁当を拵える。


 そして、学校へ行く準備を整えてからリビングに再集合した。

 

 ちなみに遥は母さんの部屋を使ってもらっている。


「パパ、ママ~! どこ行くの?」


 テレビを見ていたミミが俺たちのもとにペタペタと駆け寄ってくる。

 そういえば、ミミはどうするべきだろうか。


 俺はまだ十七歳。子育てなんてしたことがないから分からないけど、小学一年生(元は子猫)はきちんとお留守番できるのだろうか。


 放っておくと家の中の物をめちゃくちゃにしそうな気がするのは気のせいかな。


「学校に行くのよ」

「学校?」


 猫の世界に学校はないだろうから分かるはずもない。


「お勉強とか運動とか色々なことを教えてくれる場所だよ」

「へぇー! じゃあ、ミミも行くぅ! なんか楽しそー!」

 

 子猫ゆえの好奇心の強さか、気になったことは試してみたくてたまらないお年頃なのだろう。学園の連中は遥と俺が一緒にいるだけでも学校の奴らはびっくりするはずなのに、子供もいたら何が起こるか分からない。


 流石に連れて行けないと思ったが――。

 ボンッと、人間の姿から子猫の姿に戻るミミ。


 そして、椅子とテーブルを伝い、遥の胸元という定位置に収まる。


「ママがお出かけする時は他の人にバレちゃいけないって言っていたから! みゃー!」


 見た目は子猫にしか見えない。


「ま、まぁ……、これなら大丈夫か」


 会長に七瀬さんの件を伝えた後、ミミの居場所も確保してもらうようにお願いするかな。

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