第17話 ※田辺先輩の調教〈サディ視点〉


 沙織が病院に緊急搬送された後の夜。

 月光が差し込む深夜の清純学園の風紀委員会室。


 佐渡・サディ・ストゥーレは男椅子――、すなわち男が四つん這いになってできる椅子の上に座って、紅茶を飲んでいた。


 さらに男背もたれ、男肘掛け、男テーブル。

 

 組体操でもしているのかと勘違いしてしまいそうな芸術性に富んだ男達を従えている。


 目の前には、一日前の昼にカフェテリアで景太に手首をひねられ無様な敗走をした田辺先輩が立たされていた。


 先輩は雨に打たれたのか、びしょ濡れである。

 かく言う田辺先輩は風紀委員のパシリであり、先程七瀬沙織に復縁を迫った張本人だ。


 沙織に振られ絶望のふちに叩き落とされていた先輩は、唯一すがれるサディのもとにやって来ていた。

 先輩は以前のことも包み隠さず、サディに報告した。


「ほぅ? それでお前は自らの情緒を制御できず、天音遥を追い詰める絶好のチャンスをくれてやったというのにみすみす逃して失敗した挙句あげく、昔の女にも捨てられて無様な面を引っ提げて私のもとに帰って来たというわけか?」


「…………そう……です」


「聞いて呆れる。だから、お前はこの学園の大切な学び舎にて、一時の感情に支配され男女で合体するという不純異性過ぎる交遊の大罪を犯し、停学処分になる無能ぶりを晒すのだ。するなら、バレないようにヤる。そんなことも分からんのか。まったく……、腐りきった生ゴミの掃き溜めにいる猿のようなお前を拾ってやったというのに何たる様だ」


「う、うぐっ……何も言い返せねぇ……」


「まぁ、お前のような奴を摘発する楽しみが我々にはあるのだがな。あぁ、そうだ。お前の過去の女もお前と同様アホの極みの道を走ったぞ?」

 

 サディは先輩の前にスマホを転がすと、包帯でぐるぐる巻きになり、白髪で皺くちゃの老婆がサディの父親が経営する佐渡総合病院のベットで寝ている姿が写っていた。


「誰だ、このババアは⁉」

「お前がお熱だった女だよ」

「こ、これがさ、沙織……⁉ 嘘だ! 沙織はこんなババアじゃねぇ‼」

「あはははは! 可哀想だなぁ、元カレにも気づいてもらえないくらい醜くなってしまって」


 田辺先輩はもう一度画像を見つめ拡大すると、自分が誕生日にあげたネックレスをしていることに気づいた。


「どうして⁉ どうしてこんなことに⁈」

「どうだ、百年の愛とやらは冷めたか?」

「お、お、お前が、お前が沙織になんかやったんだろ‼」

「さぁ? この女が自ら望んだ末路だ」


 ニタリとサディは笑う。


「……嘘だ‼ 沙織が……そんなはずはねぇ! 沙織はなぁ、本当は寂しがり屋なんだ。寂しがり屋で誰かが一緒にいてやんねーと駄目なやつなんだ!」


「そんな女を大切にできなかったお前に言われても説得力がまるでないのに気づかんのか? 腰を振るしか能のない猿がっ‼」


「う、うるせぇぇぇええええ!」


 田辺先輩はサディに殴りかかろうとしたが――、後ろにいた屈強な風紀委員によって地面に押さえつけられた。

 サディはふぅとため息をつく。


「これだから猿は困る。お前はその猿の中でも……この学園における優劣すらも理解できない無能だがな」


 サディはぐりぐりとハイヒールの踵で田辺先輩の頬を踏みつけた。


「な、なにしやがる!」

「黙れ」


 サディはハイヒールの踵をぐりっと押し付ける。


「ぐあぁ……ぁぁぁ!」


 ハイヒールのカカト部分が先輩の頬にめり込んでいく。

 そして、サディは恍惚な表情を浮かべた。


「さぁ――」

「⁉」

「――――調教の時間だ」


 ぐりっ。ぐりりりっ。


「や、や、やめろぉぉぉおおおほほほほんんんんんん!」


 最初は痛さで歪んでいた先輩の顔も次第に愉悦に満ちた顔に変わっていく。

 田辺先輩は思う。

 自分は女性に踏まれて感じる趣味はない、むしろ攻める側が好きなはずなのに、サディに踏まれていると、どんどん気持ちがサディに傾いていく。


 肉体的なエロさはさることながら、容姿端麗、影で数多のイケメンの男達を従える圧倒的なカリスマ性。

 その後光が先輩にも降り注ぐ。


「お前は今から猿ではない、豚だ‼ 私にすがり、私を崇め奉り、私だけを信愛する……キモくて性癖の歪んだ豚野郎だ‼ 分かったか‼」

「ぶ、ぶひぃん‼」

「良い声で鳴けるじゃないか……、次はどこに欲しい?」


 田辺先輩は息荒く嗜虐的しぎゃくてきな顔をサディに向けると――。


「いい子だ」



―――――――――――――――ずぽっ。


「ぶ、ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃん‼」


 田辺先輩の声が深夜の学園に響き渡った。

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