第11話 初デート

 清純学園きよすみがくえん前からバスに十分程度乗ると、商業施設が立ち並ぶ駅前広場に到着する。

 

 俺も土日は駅前にあるジムに来ているので、土地勘に問題はないだろう。

 俺たちはバスを降りると背の高いビルや飲食店が広がる賑やかな街並みにやって来た。


 平日の朝だからか人通りは少ない。


「私、学校をサボったことがなかったので、悪い子になったみたいでドキドキしちゃいます」

「実は俺もサボったの初めて」

「なら景太も悪い子ですね。パートナーから共犯者に格上げです」


 クスリと天音さんが笑う。

 俺は天音さんに学校をサボるように促した悪い奴なんだけどな。

 一緒に罪を背負おうとするなんて、ほんと聖人過ぎる。

 それよりも、天音さんが俺を自然と名前呼びしていて泣けてしまった。


「あっ、景太」


 クイクイッと俺の袖を引っ張って、駅前の看板を指さした。

 セカンドハンドフェスティバル。


 近くにある会場でやっていて、漫画、ラノベ、ゲームや服や玩具など中古品をフリマみたいに出品している市場のようなものだ。


「すっごく気になります。掘り出し物があるかもしれませんよ?」


 天音さんの眼がキュピーンと星のように輝いていた。


「天音さんって、サブカルが好きだったりするの?」

「そうですね。最近、好きになりました」

「へ、へぇー!」

「直近では異世界系のネット小説も読み始めて、なんともまぁ、私がいた世界と似たようなことが書いてあってビビっています。でも、作者さんのそれぞれの世界観が、書きたい物の熱量が凄くて、私は好きです。景太も好きなのですか?」

「う、うん……人並み以上には」

「だから、私の事情が良く分かったのですね」

「ま、まぁ……、そんなところ」


 なんか天音さんもラノベが好きとか、テンションが上がってしまう。だけど、あがりすぎて変になり過ぎないように心を自制しなければ…………よし。

 初デートだ。彼女の行きたいところに行くのがベストだろう。


「じゃあ、行ってみようか」

「ありがとうございます! ふふっ」


 遥がすっと俺の腕にくっついて来た。


「あと――、」


 ズンと天音さんが頬を膨らませて俺の方を見る。


「天音さんじゃなくて、遥でお願いします」

「あ、癖で……。ごめん、遥」

「はい、よろしいです」


 名前で呼ぶと、すぐに機嫌を直した。


 次、苗字で呼ぶと怒られそうだから、今後は遥と呼ぶことにしよう。


 そういえば、意識をしていなかったけど、ずっと、恋人繋ぎのままバスに乗っていたのを忘れていた。ま、まぁ、俺たちはこれでも恋人(仮)なわけで、このくらいは問題ないというか、当然でありまして……はい。


 俺たちは手を繋いだまま、駅前から会場に向けて歩き出した。


        ☆


 歩いて十五分ほどすると、会場に着いた。

 当然ながら男人口が多い。

 遥はウキウキした様子で会場に突入すると、周囲の視線を集めた。

 

 男女比9対1くらいだからね。

 オタサーの姫みたいな感じになるのはしょうがないだろう。


 遥はそんな視線はお構いなしに、中古のラノベや漫画グッズ、レトロゲームやトレカなど掘り出し物を探すかのように見て回る。

 俺は遥を守るようにすぐ隣を歩く。


「楽しそうだね」

「そりゃもう。宝探しのようなものですから。あっ!」


 ふと、遥が子供の時にやっていた魔法少女のフィギュアを見つけ手に取った。

『おぉ……』と言いたげな顔をして、眼を輝かせる。


「好きなの?」

「ま、まぁ……。小さい頃は魔法少女になれると思っていた時期があって、グッズやコスプレ衣装を集めていたことも……」


 赤面しながら言う遥。


「あ、いやー! 女の子なら誰しも一度は思うんじゃないかな! 俺もヒーロー物のアニメや漫画見て憧れて作中の技で遊んだこともあるし!」


 もちろん、一人で。

 あっ、悲しい!


「そ、そうですか! そうですよね! ふふ」

 

 遥は嬉しそうに笑う。

 だがしかし、意外だ。

 遥にアニメや漫画好きというイメージがないから余計にそう思う。

 でも、趣味が同じというのは嬉しい。

 これなら話の話題にも困らないし、何というか安心する。

 

 暫く二人で会場内を回りトイレに行って帰ってくると、とある山積みの本の上から一つ手に取りパラパラとページをめくる遥がいた。

 

 近くに寄ってそっと見てみると、内容は魔法少女の主人公を男幹部が触手を使ってチョメチョメする同人誌だった。

 よくあるジャンルだ。なんてことはない。

 だが、どうしてこんなものが一般の漫画に交じって売っているのだろうか!

 全くけしからん!

 いいや、最高だ! 

 まぁ……置くコーナーが違うだろうと思ったけど。


「むむむっ!」


 と遥の頭から湯気が立っていた。


「は、遥?」

「あびばいえfりあえbふぃあ‼」


 謎の呪文を唱え、パシンと同人誌を閉じて元にあった場所へ戻す。


「み、見ました?」

「そりゃまぁ、くっきりと」

「うぅぅぅ……、軽蔑……しますよね?」


 珍しく美しい顔をしょぼくれさせ、涙目の遥が俺を見る。


「いや、しないでしょ」

「え?」


「人の趣味はそれぞれというか。俺もそういう物を見ることもあるし、遥の意外な面が見れて嬉しいというか。そんな程度のことで嫌わないよ」


「……景太は偉大です。きっと女神様の加護があるでしょう」


 遥は両手で祈りのポーズをした後、上目遣いで微笑んだ。

 

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