第8話 生徒会のメンバーの正体


 一日の授業を終えた放課後、俺は天音さんと一緒に生徒会室へ向かった。

 

 昨日まで隠れモブオタとして生きていた俺が、カーストトップの美少女と一緒に放課後を過ごしていることに驚きを隠せなくて、頬を抓ってみたが現実だった。

 

 昼の一件で俺も顔を知られるようになり、クラスメイトからも声を掛けられ、俺の認知は【なんか後ろにいるは知っていたけど、実はすげー男なのかも】という感じだった。

 俺の株価は急上昇だ。

 まぁ、大体は天音さんの魔法のおかげだから、調子に乗ることなんてできないけどね。




 そんなこんなで俺たちは生徒会室の重厚な扉を前にやって来ていた。

 そういえば、天音さんが転入してくるほんの少し前の話だ。

 生徒会は会長が事故に遭ったため、副会長が代理として活動していた。

 会長は一時昏睡状態に陥って、もう目覚めないなんて噂があったけど……始業式には元気な顔を見せていた。会長に何があったのか、俺たち生徒は全く知らないのだが。


「緊張しないで、悪いようにはならないはずだから」


 天音さんはゴゴゴと音が立ちそうな扉を開けると、一流企業の社長室みたいな部屋が広がっていた。豪華な絨毯に、西洋風の照明に、高そうな置物に、地域貢献をした際に貰った賞状やトロフィーの数々。


 そして、部屋の奥。

 社長椅子がくるりとこちらに周ると、生徒会長である神代刀華かみしろとうか先輩がニコニコの笑顔で出迎えてくれた。その隣には全てを包み込む母性の塊のような豊満な胸を持った女性。

 副会長の國美知世くにみともよ先輩がいた。


「や、二人とも待っていたよ」


 神代先輩は見た目がボーイッシュで、歌劇団の男役をやれそうなほどの美形だ。もちろん、天音さんと同じくファンが多く、ファンクラブも存在する。


 ちなみに学園長の孫娘だ。

 

 対する國美先輩は学園の近くにある國美神社の娘の巫女さんでその巫女服姿に心を射抜かれた男性が多いのは言うまでもない。

 あだ名は学園の聖母。

 やはり、おっぱいは正義か。

 俺たちは二人の前に並んで立つ。

 美女三人の中にいるのが場違い過ぎて、俺がここにいても良いのだろうかと思ってしまうくらい生徒会のメンバーの輝きが凄かった。


「遥と会うのは魔王討伐以来……いや、この学園に招き入れて以来かな」


 魔王討伐……。


「ま、まさか――」

「そのまさかさ。私も異世界帰還者だよ、八代景太君?」

「俺の名前まで……」

「そりゃそうさ。私たち勇者パーティーの要でありヒロインだった現学園のアイドルを救ったんだ。君の名前が私の耳に入らないわけがないじゃないか」


「八代君、刀華先輩は勇者兼剣聖として、誰よりも最前線に立って戦ったわ。その雄姿には、異世界の誰もが畏怖し、敬愛し、魔王を倒した際には英雄と称えられていたの」

「やめてくれ、遥の聖なる加護があったから私は戦えたんだ。遥こそ英雄と称えられるべき存在だよ」

「ほんと……謙遜がお上手ですね」


 クスクスとお互いに笑い合う二人。

 俺は開いた口が塞がらなかった。

 こうも身近に異世界から還ってきた人がいるとなると本当に世間は狭い。

 いや、狭すぎるわ!

 俺は國美先輩の方を見た。


「大丈夫、私は八代君と同じ普通の一般人よ」


 そりゃそうだよね。

 異世界行っていたら、生徒会の仕事ができないからね!


「でも、ちょっとしたおまじないと術は使うことができるわ」

「知世は代々続く由緒正しき陰陽の家系だ。占いを始め、式神などを操ることができる」

「そう、ちょっとだけよ?」

「……ははは」


 俺は笑うしかなかった。

 なにこの生徒会……ぶっ壊れてるだろ……。


「それで――、遥から大体の話は聞いているが……ふぅん?」


 急に神代先輩は俺をジトーと見つめてにやけた。


「な、なんでしょうか?」

「君が遥の選んだ男性かぁ~。二回もヒロインのピンチを救った男。惚れないわけないね。うん、青春しているねぇ」

「と、刀華先輩‼」

「あれ、違った?」

「……八代君とは昨日知り合ったばかりの方ですから、まだそういう関係では……」

「キスしちゃったのに?」

「あらまぁ、キスまでしたの?」

「そうらしい。熱いのをぶちゅーとね!」

「あらあら、それはお熱い事……、で式はいつ上げるの?」

「三か月後らしい」

「あらぁ~、式を挙げる時はぜひ國美神社でお願いね?」

「二人とも話を飛躍させ過ぎです‼ 事情は知っているくせに‼ からかうのは止めてください‼」

「ごめん、ごめん」


 からかわれて、ムムムと唇を結びながら怒る天音さんも可愛かった。


「さて、本題だけど――。私も佐渡さんについてはマークしているよ。今年になって彼女が風紀委員長に就任して以来、人が変わったかのように風紀の取り締まりを厳しくしていてね。学園で恋愛に関する苦情が絶えないんだよ。あるカップルは学園内で手を繋いでいる所を見られたら、一週間の風紀指導が行われた後、手も繋がず、目も合わせない、恋が冷めきって喧嘩し合う二人を見かけたらしい」


「……………」


 風紀指導……いったいどんなことをされたんだ……。

 佐渡・サディ・ストゥーレ……想像以上にヤバい奴じゃないか。

 キスしていたのがばれていたら、何をされていたのか分からない。


「でも、俺たちは一緒に色々と命令こなさないといけなくて……」


「君たちの事情は分かっている。だから、学園内でイチャコラセッセをする際はこの生徒会室を使って良い。ただし、条件がある」


「な、なんでしょうか?」


「生徒会としても行き過ぎた風紀の取り締まりは目に余るものがあってね。見過ごすわけにはいかない。だが――。現在、生徒会は諸事情により、会計と書記が空席となっていて、人手が足りないんだ。今後のことも考えて、君たちに生徒会に入ってもらいたいのだが、どうだろうか?」


「俺たちが……ですか?」


「そうだ。これは君たちを守るための策でもある。生徒会に入れば、この生徒会室に入るのも不自然ではないし、ここには監視カメラもないし、窓も外から見えない仕様になっているから、外から覗かれる危険性もない。学園で命令が来た時は、ここに来て色々とやりたい放題ってわけ! ははは! 悩み事は全部解決さ!」


 会長は両手を広げ、名案だと言わんばかりに笑う。

 生徒会長が生徒の不純を推奨することに、いささかこの学園の体制に疑問を感じざるを得ないが、会長は俺たちのことを考えて言ってくれているのだ。


 この話は俺たちにとってほとんどデメリットがない。強いて言うなら俺が生徒会に入って、周りから疎まれるくらいで、その程度は些末なこと。

 天音さんを見ると、こくりと頷いた。

 今の俺たちには絶対に安息できる場所が必要だな。


「分かりました。俺たちを生徒会に入れてください」

「そう言ってくれると思ったよ。決断の速さも悪くないじゃないか」

「い、いえ……」

「では、さっそくだが――、私の仕事を手伝ってくれ‼」

「「……………………………」」


 俺と天音さんは同じく天井を仰いだ。


「ごめんなさい、八代君。刀華先輩は基本いい人なんだけど、こういう人なの……」

「いや、大丈夫だよ。気にしないから……」


 俺たちはその後、会長が処理しきれなかった簡単な事務仕事を副会長に優しく教えてもらいながらこなした。


「じゃあ、八代君。また明日」

「天音さんも気を付けて」


 俺は校門前で天音さんと別れた。

 その後ろ姿を見て思う。

 こうして学校の誰かと関わったのは、中三の文化祭以来だった。

 高校に入ってからも一年間、隅っこでオタやっているだけで、心のどこかでこのまま当たり障りのない平凡な日常を過ごして終わるものだと思っていた。

 無意識に天音さんに向かって手を振っていたことに気づいた。


 死にかけてから、天音さんと関わり始めてから、俺の日常が変わり始めていた。


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