日常の瑣末でないラブコメ
「もしや僕たちをモデルにラブコメを書くの?」
あの幸村がまさかな?と最初は俺も思ったが、きっとそうに違いない。
「日常の瑣末でないラブコメってどういうの?」俺は思わず訊いてしまった。口を噤んでおとなしくしているつもりだったのに。
「そうね――たとえば実の兄妹の恋物語とか」近親恋愛かよ。
俺はドキッとした。こいつ――まさか俺と
俺は俺たちの秘密を知る
しかし
こいつはきっと腐女子なのだろう。知らんけど。
「――その昔、ある文学賞の審査員を務めた大御所作家の筒○康○が『日常の瑣末なんて求めていない!』と募集要項に寄せてコメントを残した。それを見てありきたりな日常を描く応募者はいない――と思うでしょ。しかし、わざわざ『日常の瑣末』というタイトルの小説を書いて応募した知り合いがいたの。もちろん一次にも残らなかったけれどね」
大御所に配慮して下読みが切ったのだろ。しかしつわものだな。本当に知り合いか?
読んでみたいな――それ。
「ありきたりでないラブコメ。私はそれを求めている」名手は目を輝かせた。
「――幸いにも我が
「――そういう縛りのもとでラブコメが展開するのは面白い」確かにな。
「――それが兄妹だったり、いや、いっそのこと――もう結婚していたり……って、これはもう書かれているわね」ある程度パターンは出尽くしているな。
「ただのハーレムでもダメなんだよね?」幸村が真顔で訊く。お前――ハーレムの王になりたいのかよ!
「ハーレムだけでは話にならない。男女七人入り交じって、寝とり寝とられ、隠し隠され……」それって既存の組み合わせじゃね?
「とにかく――私を唸らせるようなのを見せなさいって言っているのよ」
「うん、頑張るよ」
「誰が?」
「僕」
「もっとまともなことを言いなさいよ」
お前なんかただのモブだろと名手が言っているように俺には見えたが、幸村はそうは思わなかったようだ。
おそらく幸村は
ある意味幸せなヤツだと思う。自分に価値なんてないと思うヤツだっているのに。
「まあ……やる気だけはあるみたいね」暴言にも動じない幸村に何か価値を見い出したのか、名手はフフと笑って言った。「好きなように演じることを許可するわ」
やめろ、これ以上そいつを刺激するな。野放しにして良いヤツではない。
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