何が始まる?

 観光地でも繁華街でもないベッドタウンで、若者の遊び場と言えば何があるだろう。

 俺たちの街にもあまりお金のかからない遊興施設があった。ボウリング、映画館、カラオケ、ゲームセンター、そしてフードコートが入った複合施設。ショッピングモールに隣接したそこは格好の遊び場だった。休日ともなれば家族連れも多い。

 しかし俺たちは二流の進学校に通う坊っちゃんお嬢ちゃんでもある。その平均的な像はというよりはというものだった。

 あまり遊びを知らない真面目な高校生――それが俺たちだ。

 俺や幸村ゆきむらは中流階級だがここにいる女子三人はどうなのだろう?

「ボウリングは久しぶりだわ」名手なてが言った。「引きこもりの兄を連れ出して行ったものだわ」

 名手なてには兄がいるのか。それも引きこもり?

伊沢いざわさんはやはり弟さんと行くのかしら?」名手なて伊沢いざわに訊く。

「えへへ」と伊沢は頭を掻いた。何だか不気味なヤツだ。

「訊いた私がバカだったわ」名手は幡野はたのにも訊いた。「幡野はたのさんは門藤もんどう君かしら?」

 それは俺も気になるな。俺以上に幸村が気にするはずだ。耳をそばだてているに違いない。

「別にとは行かない」幡野は無愛想に答えた。

 ここでのとは門藤もんどう諭吉ゆきちのことだろう。幸村ゆきむらでないことは明らかだ。門藤と幡野は幼馴染だ。

 しかし愛称呼びとはな。やはり幸村は相手にされないな。

と行ったのかな?」幸村が幡野に訊いた。

 こいつは空気が読めないから何でも訊ける。幡野と話ができるなら何でも話題にするのだ。

「姉がボウリングに行くことはないわ」幡野はムッとした顔をした。

 姉の話はタブーなのか。

 しかし幡野の表情の変化が読み取れない幸村は「そうなんだ」と頷くだけだった。こいつの頭の中に幡野の姉はボウリングをしないという単純な情報のみがインプットされた――のだろう。

「あなたのお姉さまがボウリングする姿、見てみたかったけれどね」名手が笑った。

「ボクも」幸村が呑気に笑う。追従笑いではない。単純に興味があったのだろう。

「幡野さんのお姉さんを知っているの?」俺はつい訊いてしまった。

 名手は何を言っているのという顔をした。「前の生徒会長じゃない。もう卒業されたけれど」

「へえ」と言うしかない。

 そう言えば先代の生徒会長は前髪パッツンの黒髪ストレートでクレオパトラみたいな美女だったな。幡野はたの香耶佳かやかとかぶるではないか。

「幡野沙織さおりさん――生徒会長になる前は文芸部の部長をしていてね、私が高等部に入った頃はもう会長になっていたから文芸部の部長の座をおりていたけれど部室には頻繁に顔を出したのよ」

「名手さん、文芸部なんだ?」俺にはそっちの方が驚きだった。

「すぐに行かなくなったわよ。路線があまりにも違うから」

「路線?」

「趣味の違いね。私はライトノベル、幡野姉は純文学だったのよ。ラブコメなんて書こうものなら下民を見るような目で見られたわ」

「名手さん、ラブコメ書くんだ? 読みたいなあ」幸村が食いついた。

「書いてほしかったら、あなたの本気マジを見せなさい。何てことのないだったら許さないわよ」

 は? 意味わからないし。

 呆気にとられる幸村ゆきむら。目を輝かせる伊沢いざわ。そしてにらみを利かせる名手なて

 これから何が始まるんだ?


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