悪役令嬢は仕切る

 F組との合同勉強会――という名のはお開きとなった。あとは帰るだけだ。

 日葵ひまりが俺と一緒に帰りたそうにしていたのはわかっていた。

 しかし学校では俺たちが義兄妹になっていることを公開していない。俺たちの担任古織こおり市ヶ谷いちがやにも噂になるような行為は控えるよう釘を刺されている。だから俺は素知らぬ顔をしてその場を去ろうとした。

 その俺を少し遅れて追うように日葵ひまりは動くつもりだったのだろう。しかし幸村ゆきむら日葵ひまりに声をかける。

山田やまださん、一緒に帰ろうよ」

 お前、帰る方向――同じだったか?

 そう思う俺の横で日葵ひまりした。俺だけにわかるような絶妙に目立たない仕草だ。

 ――そうだった。こいつも幼い頃はだった。思い通りにならないと癇癪かんしゃくを起こすのだ。今はもうすっかり清楚な癒し系に擬態ぎたいしているが。

「お待ちなさい」名手なてが口を挟んだ。「ここからクラスごとに分かれるべきよ」

「は?」意味わからないという顔を幸村ゆきむらはした。

 確かに――これ以上何をするのだと俺も思った。

「何事もケジメをつけるべき」何のケジメだ?

「――隣のクラスの女子に目を奪われるなんてナンセンス。自重しなさい」名手は幸村のに気づいていたようだ。

「あはは、そうだよな」頭を掻いたのは幸村ではなく樋笠ひがさだ。

「残念ね、大地だいち小原おはら可笑おかしそうに腹を抱えている。

 おそらくは樋笠もF組の小原と一緒に帰ろうとしていたのだろう。小原に拒絶の笑みを向けられ樋笠はすっかり三枚目になっていた。

門藤もんどう君を見倣みならいなさい。ちゃんとクラスメイトをエスコートしているでしょう?」

 名手なてが示す方向に仲睦まじく並んでいる門藤もんどう幡野はたのがいた。なるほどお似合いの美男美女ペアだ。

 門藤もんどうは何か言いたそうに名手なてを見たが、その口から言葉が出ることはなかった。

 名手の一言で俺たちはE組F組それぞれのメンツで固まって散会した。

 日葵ひまりが名残惜しそうに俺を見るのを俺は認識していたが、どうせ家に帰ったらまた顔を合わすので無視するかたちとなった。

 後で何か言われるな――きっと。

「じゃあ俺は部活行ってくるわ」樋笠が軽薄に言う。帰るのではなかったのか?

「行ってらっしゃい」名手は明るく笑った。

 素直に従っていれば女王様は機嫌が良い。こんな顔もできるのかというくらい可愛い笑顔だった。

 多分小原も部活に寄るな。そして二人一緒に帰るのだ。何となくそんな気がした。

「お、俺も部活に行ってくるわ」幸村の言葉は唐突だった。こいつ部活していたっけ?

「頑張りなさい」余計なお荷物を処分するかのように名手は幸村を見送った。

 俺もここを脱出しなければと思ったが、その意思が見破られたのか名手に袖をつかまれた。

「さて私たちは一緒に帰りましょう」何でだ?

 俺が言葉にしない疑問の表情を向けると名手は囁くように言った。

「私たちはカモフラージュ。あの二人が一緒に帰るための」

 名手が差す方に並んで歩く門藤もんどう幡野はたのがいた。すでに二人は三メートルほど先を歩いていた。

「ちょっと待ちなさいよ」と言いながら名手が二人を追う。

 なるほど男女二人きりで帰るとをかけられるのか。校門には教師や生徒会、美化風紀委員が立っているのだったな。

 こいつは目をかけるヤツには気遣いを見せるのだと俺は名手の後ろ姿を見遣った。

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