もっといい部屋へご案内

仁志隆生

もっといい部屋へご案内

 新しく住む部屋を探しに不動産屋へ来た。

 おすすめという部屋の資料を見せてもらった後、内見に。


 駅から徒歩五分。

 一階の2LDKで角部屋、中は新築かと言いたいくらいに綺麗。

 しかも庭付きだし玄関はオートロックで、聞けば防音もバッチリ。

 近くにはスーパーやコンビニもあり、辺りの雰囲気もいい。

 正直怖いもの見たさでだったが、全然いいじゃんかこのマンション。 



「あ、あの。どうでしょうか?」

 案内してくれた担当の女の子がオドオドしながら聞いてきた。

 初々しく見えるから、まだ新人なのかな。

 しかし出るとこ出てるな……っと、


「いいですね。けど……もしかしてここ、事故物件か何かですか?」

 だってここ、家賃が相場の半分だし。

「え、えと、その、あの」

 おお、目が泳いでる。

「ははは、そうだったとしても怒りませんから」

「う、すみません……ここ、出るそうなんです。前の人もすぐにいなくなっちゃって、借り手がつかなくて」

 彼女が申し訳無さそうに顔を伏せて言う。

「僕は霊なんて信じませんから。よし、ここにしようかな」

「い、いいのですか?」

「いいですよ」


「……よ、よかった……早く埋めろと急かされてたけど、やっと」

 ああ、上に無理やり押し付けられてたんだな。

 それで決まってホッとしたんだな。

 小声で言ったつもりだろうけど、聞こえてるよ。


 ……よし。


「と思ったけど、やっぱやめようかな。他にもいいのありそうだし」

「え、そんな」

 彼女は今にも泣きそうな顔になった。

 ふふふ。

「ん~、じゃあちょっとお願い聞いてくれたら、ここに決めますよ」


「え、ええ。私にできることならなんで……きゃあっ!?」

 俺は彼女の両腕を掴み、床に押し倒してやった。

「な、何をするんですか?」

「何って、分かるだろ」

 でかい胸を揉んでやりながら言った。

「あ、やめ……」

「ここ、防音バッチリなんだよね。じゃあいくら叫んでも誰も来ないよな」

「や、や」

「こっちもじっくり内見させてもらうぜ。そうだ、訴えても無駄だからな、俺の親父は」

「政治家なんでしょ」

「え? うわあっ!?」

 俺は彼女の見た目からは考えられない力で突き飛ばされた。

「イテテテ……って、何すん、え?」


「そうやって何人もの女の子をある時は無理やり、またある時は騙してたんだよね」

 いつの間にかさっきまでの女じゃなく、小学校低学年くらいで白いシャツに赤いスカートという服装の女の子がそこにいた。


「な、何言ってんだよ。てかどっから出てきたんだ?」

「ぬふふふ……あのお姉さんが誰だったか、全く気づいてなかったんだね」

「え?」

 何言ってんだこの子?

「あのお姉さん、あんたに騙されてやらしいことされた人だよ」

「は? ……そ、そんなのいちいち覚えてられるかよ!」

 もう数え切れん程ヤッたし。

「そうなんだ。でね、お姉さんは外に出るのが怖くなって、ずっとこの部屋にいたんだよ」

「え?」

「そしてね、最後は首吊って死んじゃったんだよ」

「……な、何言ってんだ? じゃあ何か、あれは幽霊だったってのかよ?」

「そうだよ。それでね、やっぱり悲しくて悔しくて、お空に行けなくてずっとここにいたからさ、力を貸してあげようと思ったんだ」

 そう言った途端、女の子が消えてさっきの女が現れた。


「……ってどんなトリックか知らねえけど、復讐に来たってか? それならこっちも考えがあるぜ」

 俺は懐に入れといたナイフを取り出した。

「へえ、それで殺す気?」

「ああ、どうせ」

「ああなるから?」

 そう言って彼女が横を指した。

 思わずそっちを見ると、

「え、……ギャアアアー!」

 そこに転がっていたのは……生首。

 しかも、

「お、親父……?」

「ええそうよ。けどあなたは一瞬で殺さない」

「くっ、させるか……え?」

 体が動かない?

「ふふふ……」


 な、なにする気だ!

 って声も出ねえ!?


「さあて……もっといい部屋へ案内してあげる」


――――――


「ぬふふふ、やっと埋めたね~」

「すみません、いざとなると踏ん切りがつかなくて」

「いいってば。しかし手足ちょん切ってあれ潰したから痛がって泣いてたね。あと徐々に埋められていく時、口パクパクさせてたね」

「『助けて』って……何人もそう言っていた人を酷い目に遭わせたくせに」


 庭先に盛り上がった土を見ながら二人は話していた。


「あの、ありがとうございました。これでもう思い残すことはないです」

 女性が深々と頭を下げて言うと、

「ううん、まだまだだよ」

 少女がそう言って頭を振った。

「え?」

「こんな奴は他にもいるでしょ。だから一緒に全部やっつけようよ」

「……ええ、そうですね。私達みたいに泣く人がいなくなるように」

 女性が妖しい笑みを浮かべて頷く。

「うん、じゃあ」

 少女が手を差し出し、

「はい」

 女性がその手を取ると、吸い込まれるかのように消えた。



「さてと、次はどこの変態を埋めようかなあ……ぬふふふ」

 少女はそう言ってどこかへ歩いていった。

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もっといい部屋へご案内 仁志隆生 @ryuseienbu

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