とある乾燥地帯の記録
pyてょん
第1話
昔、ある乾燥地帯の都市に商人の一団がいた。
彼らは東西南北から集まり、各地の品を持ち寄って都市に来た。
都市に集まる金のある者に売りつける魂胆である。
その都市一番の大通りでは商人が各々荷物を広げ、道を行く人に威勢よく声をかけていた。
その中で、ひときわ人だかりが大きな場所があった。気になって近づくとはっきりと内容が聞こえてくる。曰く、
「俺の故郷のナイフに切れない皮はありゃしない!」 とのことらしい。
また、別の人だかりでは同じように商人が何やら言っていた。こちらは
「オレの作った皮の手袋は絶対に破れない!」 と豪語していた。
その場にいたこの二人の話を聞いたものは皆、当然ながら同じ疑問を脳裏に浮かべていた。
───そのナイフでその手袋を切ったらどうなるのだろう?
半刻も経たないうちに、その疑問を直接投げかけるものが現れた。
すると両者ともその疑問に一瞬怯んだものの、すぐに自信有りげな顔をして、口を揃えてこういった
「それなら実際に切ってみればいいじゃないか」
こうして、図らずも今日一番の大勝負が始まった。
二人の商人は大広場に移動した後、一定の距離を開け、睨みつけるようにお互いを見ていた。
二人の間にはいつの間にか仲裁役と思しき者の姿まである。
噂で聞きつけた野次馬も加わり、広場には先程できていた人だかりの三倍ほどもの群衆が押し寄せていた。
メインである二人をよそに、勝敗の結果で賭けをする連中も現れる始末である。
いよいよ群衆のボルテージが高まってきた時、一方の商人は件のナイフを群衆に見えるよう大きく掲げた。
もう一方も手袋を装着し大きく掲げた。群衆の熱狂もそれと同時に最高潮に達する。
二人の商人はさながら達人のごとく、互いの目を見ながらじわりじわりと進み始めた。
広場を向かって左手からは手袋を前に突き出し、逆に右手からはナイフを前に突き出し一歩づつ距離が縮まっていく。
手袋とナイフが今にも触れんとした時、二人の対決を阻止するものが現れた。
それは、すべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れであった。
バッファローの群れは、群衆も商人も何もかも破壊した。
残ったものはバッファローの夥しいほどの足跡だけだった。
───これが、人の営みがちっぽけである様を意味する故事成語「牛是優全(うしこれすべてにまさる)」の由来である。
【南非子(なんぴし)より】
とある乾燥地帯の記録 pyてょん @nononomura
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