バッファローが全部壊すなら

月鮫優花

バッファローが全部壊すなら

 「ねぇ、もし明日、やばい隕石とか落ちて来て、世界が終わるとしたら、どうする?」

 そんなふうに君は私に尋ねた。日の高く上がった五時間目と六時間目の間の数分の休み時間。教室の窓側、二つ並んだ後ろの席。

 「あー、ありがちな質問だよね。でもどうだろうな、結局私はいつも通りの調子で1日過ごすんじゃあないかな。」

 嘘だった。私はだいぶてきとうな事を言った。正直にいうと、そんな状況で自分が何をするのか全く見当がつけられなかった。気が狂ったように踊り出すかもしれないし、ただ茫然としたまま終わりの時を待つだけかもしれない。

 本当は、死ぬまでにやれたらいいな、と思うようなことはあった。私は君が大好きだってことを、君に伝えられればな、と思っていた。けれども、君は私に気がないだろうから、この胸の内を伝えてもきっといい結果は出ないことも分かっている。今の関係性だって別に嫌いではないというのも事実であるし、想いを伝えるためにこの空気感を壊してしまうなら、わざわざ言ってしまうのも損だと感じていた。

 だからまあ、いつも通りの調子で過ごすというのは、理想だった。いつもと同じように君が隣の席で笑っていてくれたならどんなに幸せだろう。

 そんな考えをごちゃごちゃ脳内で混ぜながら、夜、なんとなくテレビの画面を眺めていた。するとどうだろうか、ニュースキャスターがどうも慌てている様子で情報を懸命に伝えようとしているようではないか。

 「臨時ニュースです!なんと、宇宙からこの地球にバッファローの群れが、物凄い勢いで迫って来ています!!」

 画面に表示された太い文字のテロップ。映像では確かに沢山のバッファローが地球に向かっているのが分かった。

 専門家の意見によると、こいつらは明日、地球に到達して全てを壊してしまうらしい。

 テレビはその報道を終えたらすぐ、何も映さなくなってしまった。もうそれどころじゃあない、と思うスタッフも多かっただろうから仕方ないことだった。情報源はインターネットだけになった。

 私は足の裏が擦り切れるのも構わず、冷えたアスファルトを裸足で駆けて君に会いに行った。

 昼頃した会話を思い出していた。隕石ならまだ納得できたが、バッファローって。ああ、もう本当、馬鹿にしやがってなぁ。こんなんじゃもう。

 諦めたい想いも諦めきれないじゃないか。

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