村本の奇妙な午後

あぷちろ

インターネット画像検索で「タコス」とお調べください。

 村本には三分以内にやらなければならないことがあった。

 ”タコスが食べたい”

 焦燥感すら覚えるほどの強い欲求。具体的にいうと某光の戦士が地球外殻に留まれる最大時間と同じ分数だ。

 そういえば、かの光の戦士はテレビ会社の都合で、この三分ルールを押し付けられていたという逸話はあまりにも有名だ。

 実際に近年公開となった有名クセつよ監督がメガホンをとった実写映画作品では、ほぼほぼ時間無制限で戦っていた。なんなら敵の攻撃を受けすぎて三分より短い時間で人間のカワへと戻されていた。

 いや? 戦闘可能時間が三分というのは実はとんでもなく時間的な猶予があるのでは?

 江戸時代において、佩刀している者同士の果し合いは数合で決着したという。一撃必殺の”武器”をどちらもが有していれば戦闘時間としては極めて短くなるのだろう。

 いや、そうに違いない。光の戦士何某にもスペシウム的なサムシング光線という一撃必殺技が存在する。そうなれば、三分というのは存外、隙を作るための時間と考えれば長いのかもしれない。

 ――などと益体もない事を考えている場合ではない。腕に巻かれた時計に視線を落とすと、あれから一分三十秒も経過している。

 あと一分三十秒でタコスを食わなければならない。

 ところで、タコスとは……タコスとは、何か。

 いや、私がトチ狂った問題を提起しているのは自覚している。だが、タコスを食すには私の知識が浅すぎるのだ。

 ひよこのような毛羽だった質感の黄色い薄皮に茶色い肉らしきものと、キャベツが挟まれ、彩りにカットされたトマトが添えられている。そんな姿しか想像ができないのだ。

 勝手に二つ折りにされているし、内容量から考えても自立した姿というのは可笑しい。あの量の具材が挟まれているのであれば、春の有楽町あたりで歩いてそうなOLが持っている黄色い鞄と似通った質感のあの薄皮は自然と開帳され、脆弱な皿なのかホットドッグのドッグ部分のなりそこないなのか、分からない物体へと変貌してしまうだろう。

 あの皮は何であろうか。もしや本当にひよこの皮なのだろうか。ひよこの皮を固く焼き固めたものなのだろうか。なんともおそろしい。

 ぐるぐると、私の脳内をタコスが回転する。タコスとはいったい何であろうか。

 こんな、浅学な状態で、タコスと向き合うことは、私には、できない。

「HEY、シリ。タコスを教えてくれ」

 涙を飲んで、私はスマートフォンのボイスアシスタントに向かって訊ねた。恥はかき捨てだ。

 私の言葉に反応したスマートフォンはタコスの検索結果を表示してくれた。

『メキシコを代表する料理のひとつで、メキシコ人の主食であるトウモロコシのトルティーヤで様々な具を包んで食べる』

 ひよこの皮でない事に私は安心した。

「HEY、シリ。今何時?」

 スマートフォンから告げられた時刻は、思い立ってから三分経過した時刻であった。

 私は机の上に開けておいたドンタコスをむさぼり食べた。



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

村本の奇妙な午後 あぷちろ @aputiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ