世界記録まであと3分

大道寺司

第1話

 この俺、神速かみはや玄夢男げむおには三分以内にやらなければならないことがあった。

 大人気ゲーム、メチャニンキクエスト。あまりにも人気過ぎて人気があることが最大の特徴となってしまっているRPGだ。

 俺はこのゲームのRTA走者。すなわちこのゲームをとにかく早くクリアすることが俺の使命。生きる意味。

 あと三分以内にこのゲームをクリアすれば晴れて世界記録保持者となる。


 画面に映し出されているのは、このゲームのラスボスである大魔王ジツハイイヤーツ。こいつをあと三分で倒せれば、あとは大魔王が実は良い奴で主人公と和解するイベントとエンディングが流れるだけなので世界記録が確定する。

 しかし──


「おかしい。大魔王の行動が思ってたのと違う......」


 この大魔王の行動パターンは完全ローテーション。ざっくり言うと、行動1~5を終えるとまた行動1~5を繰り返すといった具合だ。

 つまりこちらもそれに合わせて攻撃と回復のローテーションを組めば勝利は必然。

 だが、本来よりも苛烈な攻撃は勇者一行を苦しめる。


「勇者と戦士がやられた! これじゃ時間内に倒せない! ああああああああ!」


 薄暗い部屋に台パンの音が響き渡る。

 頭を抱えてうなる俺。大盛り上がりのコメント欄。

 大魔王は何故か二回行動までし始め、魔法使いもやられていた。

 残り時間10秒。


「もう何このクソゲー......」


 俺はやけになって最弱アイテム、家畜の糞を投げつける。

 当然、ゲーム内では生き残りである僧侶が投げるのだが、清楚系美少女の僧侶が家畜の糞を投げるところを想像すると込み上げてくるものがある。


「え?」


 俺は謎の光景を目にした。

 大魔王が超絶大ダメージを喰らい、倒れた。

 そのままイベントとエンディングが流れ、俺は訳も分からないままタイマーストップ。

 世界記録を達成したが、完走した感想は虚無だった。


 後に海外の研究で、大魔王は鬼のような超低確率で超本気モードになることと僧侶一人が生きている状態で大魔王に家畜の糞を投げると超低確率で超絶大ダメージが出ることが明らかになった。

 この仕様を考えたのが俺の親父だと判明するのはまた別のお話──

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世界記録まであと3分 大道寺司 @kzr_

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