8. 融合(フュージョン)

 これは罠だ。

 気がついた時はもう遅かった。


 僕は確かに勝利しかけていた。

 敵の巨大クーガー……ガ級クーガーは、致命傷を負ったのだろう。

 僕の戦闘用強酸性液バトルアシッドが脊髄の神経中枢ニューロターミナルに達し、破壊したのに違いない。


 だが、その念気動格フレームは生きていて、奇しくも起こった交感現象コンタクトに乗じ、僕との融合フュージョンを図ったのだ。

 いわば、クーガーの乗っ取りハイジャックだ。


 ひとつになろう……ひとつの家族に……


 僕は彼らと一緒になるという誘いに抵抗しようとしたが、出来なかった。

 決して力づくではない、優しさに満ちた侵食に、僕は人間だった時の記憶を呼び覚まされ、誰かと共にいたいという欲求を思い出していた。


 でも人間だった頃、一緒にいたい相手は決して家族ではなかった。


 家族とは、常にギクシャクしていた。

 僕の……他人とは違う性格のせいで……


「どうして自分のことをそんな風に呼ぶの……?」


 悲しげな顔をしてそう言ったのは誰だったか……

 母さん……?


 仕方ないんだよ。

 これが僕なんだ。


 結局、家族とは本当にわかりあうことは出来なかった。


「だったら、我々と新しい家族になろう……」


 誰かがそう言いながら優しく僕の中に入って来る……

 新しい家族……

 本当にそうなれるのだろうか……


 なれるのなら、このままひとつになっても……いい……?


「放せ!」


 誰かが荒々しく僕の意識を引っ張った。

 融合しかけていた「家族」たちと引き剥がされそうになる。

 だが、その一部はすでに僕の一部になっていた。


 そして、割り込んできた誰かも僕の中に入って来た。

 優しさのない荒々しさで……


「ヒビキを返せ!」


 来たのはユラ。

 ユラ・ノヴァだ。


 家族でもなければ人間ですらない、異星人の意識。

 だが、それは「家族」たちよりもはるかに強く、僕を求め取り戻そうとしているのがわかった。


「ヒビキ! お前は私のものだ!」


 なぜだユラ……

 なぜそんなに僕を求める……


 分かっている。

 闘獣機クーガー騎手コマンダーは分つことの出来ない一つの生命体。

 どちらかの死は、もう片方の死でもある。

 それは人間同士の曖昧な絆よりも、はるかに強く違いを結びつけた冷酷な現実……


 やがて、全ては混沌に飲み込まれ……

 

 気がついた時には、僕は都庁本庁舎前の地上に立っていた。

 

 目の前では全てが燃えていた。

 道路も……都庁も……

 地上に墜落して完全に破壊された、ガ級クーガーも……


 そして、すべての不確定フィールドは消えていた。

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