4 スライムってささくれと無縁そうだよね
「スライムってささくれと無縁そうだよね」
とある学校の昼休み。
少女は学校の椅子に座って、人差し指にできたささくれを触りながらひとりごちた。
乾燥する冬は、たった1日ハンドクリームを塗り忘れただけで、指にささくれが出来てしまう。
隣の席の女友達が、そのひとり言を拾って返答する。
「そうね。あれだけプルプルしているんだもの。乾燥とは無縁なんじゃないかしら」
「いいなあ」
「あっ、そんなにささくれを触らないの。剥けたら痛いわよ。ほら、絆創膏」
「用意がいいなあ。ありがと」
少女は友人から受け取った絆創膏を指に巻いた。絆創膏は色付きで、ハートマークが付いて入る。
2人のスライム談義はまだまだ続く。
「スライムの保湿クリームや顔パックを出したら、売れそうだよね」
「えー、でもほら、種類によっては毒を持ってたりするじゃない」
「そこは、ほら。なんとかして毒を抜いてさあ」
普段の授業ではほとんど手を挙げないのに、こういう時はどんどん意見が出てくる。
「ソファはどう? 低反発クッション」
「うーん、ちょっとプルプルしすぎている気もするわ」
「夏に首に巻いたら、ひんやりして気持ちよさそう」
「あー、それはいいかも、涼しそう」
始業5分前のチャイムが鳴る。
2人は机の横にひっかけた杖を握って教室を出た。
5限目は魔法の実践授業。
退治する魔物は、今し方話題になっていたスライムだ。
「今度生物学の先生に、スライムの毒を抜く方法、聞いてみようか」
「まず小テストで良い点を取らないと、話を聞いてもらえないわよ」
グラウンドに到着した2人は、他の生徒達に混ざって杖を構える。
自分たちの目の前に立ちはだかるのは、半透明の球体。
足も手もないそれは、ぷるぷるとゼリーのように揺れていて、ちょっと美味しそうに見えなくもない。
「まあ、どっちみち倒しちゃうんだけどねえ」
「それはそうね」
──とある魔法学校の、なんてことはない1コマ。
短編集 結丸 @rakake
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