ピーピング・トムの焦燥【アーカイブ版】
馬鹿な。あり得ない。
衝撃の大きさのままに、落として床に散らばった写真を見る。
校則に定められた通りの長さのスカートを翻す黒髪の転校生、彼女が階段を上る瞬間を見定めてこのシャッターを切ったはずなのに。
そこに写っていたのは、シュールレアリスムの芸術画よろしく直線的な断線で切り取られ、わざと絵柄を合わないように組み合わせた廊下と階段と天井、制服の生地のパッチワークだった。肝心のスカートの中身や、冬壁の肌といったパーツは意図的に取り除いたように写っていない。
あり得ない……アルゴス・レンズに故障など起こるはずがないし、ハッキング、改竄を受け付けるようなものじゃない。
だが、現実としてこの手に取った写真は人為的に手が加えられたとしか思えない。
かぶりを振って、もう一枚の写真――もう一人の本命に、震える手を伸ばす。
一目見て、肺を握りつぶされたような声が出た。屈辱感で立ち上がれなくなる。
女子更衣室で何枚も連写し、服を脱ぎ、着替える様子を克明に切り取ったはずだ。
体育の授業で豊かな双丘を揺らす姿をフレームに収めたはずだ。
だが、それらすべてはひどく歪んでいた。
光がどう悪戯したらこうなるというのか。
室内にあるすべてのものが原型を留めないほどに変形し、輪郭も色彩も溶けて混ざり合っている。モザイクなどという生やさしいものではない。その向こうにあるものを想像することすら出来ない。
こんなものを売るなど、我がプライドが許さない。
しかし、これほどまでの注文が殺到しているのに流せないというのは何とも口惜しい。
注文受付役を任せている杉田からも興奮気味の連絡が入っている。
順風満帆だったこの芸術活動、そして復讐に立ちはだかる、大いなる障害。
しかし世に言うピンチが乗り超えればチャンスであるように、この二人さえ完璧に映すことが出来れば。
立ち上がり、明日の木曜に勝負をかけるべく準備を始めた。
見ていろ、
お前たちがどのような手段で妨害しようとも、必ずその固く守られた下の神秘を露わにしてみせよう。
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