三分間タイムリープ

華川とうふ

三分以内に幼馴染の出会いを阻止せよ

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。

 これから、三分後に俺の幼馴染のユキは運命の男に出会う。

 何で知っているかって?

 俺が未来からタイムリープしてきたといえばわかってもらえるだろうか。

 未来の俺の人生はどん底だった。

 第一志望の大学に合格することもできず、滑り止めの大学に。

 滑り止めの大学だからとさぼっていたら、単位を落として留年。

 当然、学生時代になにかに一生懸命になったことのない俺は当然、就職活動にも失敗。

 ブラック企業に入り、心を病み……。


 ああ、これ以上は思い出したくない。


 今大事なことは、俺は人生がまだ希望に満ち溢れていた、今この瞬間高校の入学式当日に戻ってきたということだ。

 この時の俺は志望校に合格した。

 ここらへんで一番の進学校に推薦入学を決めていた。

 中学では生徒会やら部活の部長とかもやっていたし、成績だってとてもよかったのだ。

 この高校に入るのは俺にとって当然の権利であり、楽勝なことだった。

 一方、幼馴染のユキは大変だったと思う。

 俺の志望校を聞いて、猛勉強したのだ。

 ユキは小さなころから俺のことをずっと、「好き」と言ってくっついてきていた。

 いつもふわふわと笑って女の子らしくて可愛くて、でも勉強とかではそんなに目立たないユキは、この学校を受験すると決めてから変わった。

 メガネをかけ、髪は何時の時代の女学生かとつっこみたくなるようなきつめに編んだ編み込みにしていた。

 俺はそれまでの可愛らしいユキが好きだったので、その変化におびえて少し距離をおいてしまっていた。

 いつも笑っていて優しくて可愛かった女の子が、突然、根暗のガリ勉女になったのだから恐怖を抱くのも思春期の男としては普通だろう。

 しかも、俺の推薦での合格を聞いても前のように一緒に喜んで祝ってくれることもなく(以前のユキならケーキを焼いてくれた)、「おめでとう」の一言だけいってまた図書室での勉強にもどっていった。

 そして、その現実から目を背けるように俺は高校生活に希望を抱くようになっていた。

 どうせ、ユキはどんなに勉強してもうちの高校は受からないと思っていたし。

 もし、ユキが前みたいに可愛くなっても、他校の可愛い子と付き合うより、同じ高校の女子と付き合ったほうが楽しい青春を送れるんじゃないかって思っていた。だけれど現実は……。


 いけない。

 今はこんなことをぐちぐち考えている場合じゃない。

 俺が過去に犯した過ちより、今これから起きることを阻止することの方が大切なのだ。


 そう、俺と同じここらへんで一番の進学校に合格できたユキは、これから運命の相手にであう。

 入学式の当日、学園の伝説の桜の木の下で。

 後に学園の王子様と言われる、文武両道で性格もよく、この学校からくだらない校則を排除し後輩たちに語り継がれる伝説の生徒会長となるスガワラと出会う。


 今、思えばあの出会いがユキを、いや、俺の人生を変えてしまったんだ。


 あと、二分後。

 ユキは生徒会長と出会う。


 その出会いを阻止すれば、俺の人生は変わるはずだ。

 幸いなことに、入学式のときのユキは以前のように可愛くてふわふわした女の子らしい姿に戻っていた。

 そんなユキなら隣を歩くのも悪くない。


 あと、一分。


「ユキ、ひさしぶりだね」


 俺がひさしぶりに声をかけると、幼馴染のユキはとても驚いた顔をしていた。

 よし、歩みが止まった。


 あと、二十秒。


 立ち話でそれくらい時間を稼げれば、ユキはスガワラと運命の出会いをすることはない。

 伝説の桜の木の下で物語のような出会いをすることなんてないのだ。


 ユキが口を開こうとした瞬間、俺の制服の袖をちょいっとなにかに引っ張られた。


「ああ、お似合いだね。でも、見せつけなくていいから」


 ユキは言いだそうとした言葉を飲み込んで、去っていった。

 何事だろう?

 俺が振り向くと、そこには知らない女子が俺の袖をちょっとつかみ、微笑んでいた。


 ――0秒。


 風が吹いた。

 ユキの髪に着けていたリボンが風にはためき、ほどける。

 慌ててリボンを追うユキ。

 ああ、そういえばあのリボンはどこかで見覚えがある。

 俺が昔、ユキの誕生日プレゼントをあげるときに結んでいたリボンだ。

 そんなことを漠然と思っていると。


 風に舞うリボンを捕まえる一人のイケメンがいた。

 スガワラだ。


「これ、君の」

「そう。ありがとう! とても大切なものだったの」


 そうして、二人は出会ってしまった。





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