デスプロフェット~人の寿命が見える能力を持った主人公の物語

人生楽笑

第1話

デスプロフェット~人の寿命が見える能力を持つ主人公の物語




【あらすじ】


大谷尚樹(おおたになおき)は30歳になる独身男性、普段は派遣社員として働きながら副業でライターをしていた。

ある時に道を歩いていると、両手に大きなビニール袋を持った老婆の理衣(りえ)に出会う。

苦しそうな理衣を見かねて尚樹は、マンションまで片方のビニール袋に入った荷物を持ってあげることになった。

数日後、最寄りの駅の近くで偶然にもまた尚樹は理衣と出会う、声をかけると理衣は近くで「占い師」をしていることを知るのだった。

尚樹は占いに興味を持っていたので理衣の仕事場を見せてもらうのだった、そこで理衣がもう長く生きられないことを知らされる。

理衣は自分には「人の寿命が見える能力」があり、尚樹が望むのであればその能力を伝えたいと問いかけるのだった。

尚樹は興味半分で理衣の能力を受け継ぐことを決意する、この物語は尚樹が能力を引き継いだその後の波乱の人生を描いたものである。




【本編】


ある日、尚樹は会社での平日ランチをスーパーで買い出しに出かけていた。

お弁当が基本なので、尚樹は節約するために一日ワンコインの食事で収まるように「ローソン100」でまとめ買いするのが日課だった。


尚樹のお気に入りは「ブロッコーリー」だった、100円位の値段で食事2回分の量とアルコールを抑制する成分を持つ、呑助の尚樹にとっては欠かせない食材だったのだ。


帰り道に、背の低い老婆が両手にビニール袋を持って重たそうにゆっくりと歩いているのを偶然に見かけた。


尚樹は通り過ぎようとしたが老婆の荒い息遣いが伝わってきて、いてもたってもいられずに老婆に声をかけるのだった。


尚樹「お婆ちゃん、片方のビニール袋持とうか?重たそうだし・・・」


老婆「え!お兄ちゃんすまないねぇ~」


尚樹は老婆の住むマンションまでビニール袋を持ってあげるのだった、5分ほど歩いていると老婆が足を止めた。


老婆「このマンションなんだよ!兄ちゃんありがとう」


尚樹「お婆ちゃん、お元気で!」


尚樹はそう言って老婆と別れた、尚樹は小さい頃からお祖父ちゃん子だった、

父親はいつも家にはいなくて一緒には遊んでくれなかった過去があった。


そんな時に、お祖父ちゃんは尚樹に礼儀作法や生活態度を色々と教えてくれたのだった。


そんなことを思い出したのか、苦しんでいるお年寄りを見かけて見過ごせなかったのかも知れない。


ある日、駅に向かって歩いていたところで尚樹はズボンの中のマスクを落としてしまう。


そんな場面で・・・


老婆「お兄ちゃん、マスク落ちましたよ」


尚樹は振り返り、自分が落としたマスクを手に取ってから頭をあげて感謝の気持ちを伝えるのだった。


尚樹「ありがとうございます、あれ!あの時のお婆ちゃん」


老婆「あの時の優しいお兄ちゃんかい!」


尚樹はお婆ちゃんに再会したことに驚いていた、この出会いがこれから尚樹の人生を大きく変えることになるとは思いもしていなかった。


尚樹「お婆ちゃん、これからどこへ?」


老婆「これからお仕事なんだよ」


尚樹「何の仕事なんですか?」


老婆「占い師なんだよ」


尚樹「へぇ~、そうなんだ!」


尚樹はお婆ちゃんの仕事に興味が出てきて仕事場を見せてもらうのだった、そこは建物の一角にある小さな部屋だった。


そこには「西洋占い理衣(りえ)」と看板には書かれてあった。


尚樹「お婆ちゃん、どんな風に占うの?」


理衣「生年月日とか星座を聞くのよ、それとね・・・」


尚樹「それと?」


理衣「希望があれば寿命も教えてあげるんだよ」


尚樹「え~!寿命がわかるの?」


理衣「そうだよ、わたしの見る人は全ての人の寿命がわかるんだよ」


尚樹「つまり、お婆ちゃんは今僕の寿命が見えてるってこと?」


理衣「そうだよ、見えているよ!」


尚樹「ダメダメ!絶対に言わないで!」


理衣「ふふふ、本人の了解がなければ教えないよ」


尚樹「びっくりした~、凄いな、お婆ちゃん!」


理衣「でもね、わたしももうこの仕事も長く続けられないのよ・・・」


尚樹「そうなんだ、体力的に?」


理衣「そう、もうすぐにね次の世界からお迎えがくるのよ」


尚樹「・・・(うつむいて言葉を失ってしまう)」


理衣「お兄ちゃん、わたしの能力を引き継がないかい?」


尚樹「人の寿命が見える能力?占い師になれというの?」


理衣「占い師になれとは言わないよ、どうするかい?」


尚樹「急に言われても・・・、だけど誰も持っていない能力だね」


理衣「そうだね、しかし見たくない寿命もあるかも知れないけどね」


尚樹「・・・(家族とかだろうか?)」


尚樹はしばらく考えていた、お婆ちゃんの死期が近いかも知れないということ、人の寿命が見えることで自分にどんな良い事や悪い事が起きるのだろうか?


尚樹は出した答えは・・・


尚樹「お婆ちゃんに出会ったのは偶然であって運命だった気がするんだ!」


理衣「覚悟ができたんだね」


直輝「うん」


理衣「ここに座って・・・痛くもないからね、両手を出して」


尚樹「これでいいの?」


理衣「そのまま、目をつぶっていて・・・」


そういって理衣は尚樹の両手をつかんで自らの能力を伝えるのだった、尚樹はなんだか暖かいエネルギーが体に入ってくるのを感じたのだった。


理衣「もう目を開けていいよ」


尚樹はそっと目を開けると、目の前のお婆ちゃんに「2024年4月」という文字が見えた・・・


尚樹「お婆ちゃん見えるんだけど・・・(今月だ!)」


理衣「そうだよ、わたしの寿命が見えているんだろ」


尚樹「あ、あ~凄い!周りを見渡すとみんなの寿命が見える!」


理衣「お兄ちゃん、ありがとうね、さようなら・・・」


尚樹はそうしてお婆ちゃんと別れた、お婆ちゃんと会ったのはこの日が最後だった。




尚樹は戸惑っていた、歩く度にすれ違う人の寿命が見えてしまう・・・


ほとんどの人の寿命は高齢になってからの数字が多いのだが、中には小さい子どもなのに学校に入るまでに寿命が尽きてしまうのを目の当たりにして直視出きない場面もあったのだ・・・


尚樹は外出するのが怖くなっていた、人に出会うたびに寿命が見えてしまい色々なことを考えてしまう。


そんな時に、SNSにそんな今の気持ちを吐き出そうと考えたのだった、そうすることで自分の気持ちが楽になればいいと考えたのだった。


タイトルは「あなたの寿命を買いませんか?占い師N」


わたしはある占い師から寿命が見える能力を引き継ぎました、あなたに出会うことで「あなたの寿命」をお伝えします。


ただし「100万円」の費用が必要です、前払いで振込が条件ですがあなたの寿命をそれでも知りたくはありませんか?


尚樹はそうSNSに書き込んだのであった。


多分、大金を出せる富裕層ぐらいしか興味はないだろうし、見知らぬ人にそんな大金まで支払って人は寿命を知りたいだろうか?と半信半疑で書き込みをしたのだった。


そして一ヶ月後・・・初めての返信があったのだった。


Nさん「はじめまして、わたしは山田といいます、病気を患っているものですが自分の寿命が知りたくてたまりません、是非とも会って教えてもらえませんか?」


尚樹は驚いた、100万円で寿命を知りたい人が本当に現れたのだった。


大金に目がくらんだ尚樹は承諾の返事を返した、こちらが指定した振込口座についに100万円が振り込まれた。


尚樹は覚悟を決めて山田さんに会うことにした。


待ち合わせ場所に行くと、連絡があった服装に近い男性が待っていたので声をかけた。


尚樹「山田さんでしょうか?」


山田さん「あなたですか?寿命が分かるNさんっていうのは・・・」


尚樹「はい」


そう言うと山田さんと一緒に少し歩き出した、尚樹にはもうその男性が「2035年1月」に亡くなることが見えていた。


しばらくすると、尚樹たちの近くに車が近づいた。


車が止まると二人組の人が尚樹たちを車に引きずりこもうとした、尚樹には何が起こったのか理解ができなかった。


二人共強引に車の後部座席に押し込まれて車は急発進した。


尚樹「な、何ですか?これは?」


誰も答えてくれなかった、車はしばらくして建物の中に入っていった。


車がゆっくり止まった、尚樹たちは降ろされ腕をつかまれてエレベーターに載せられた。


不安はマックス状態で尚樹は冷や汗がたれていた。


そして尚樹を連れた男たちは事務所の中に入ろうとした、入り口には「中島組」と書いてあった。


尚樹たちが事務所に入ると大勢の怖そうな人たちがいて、奥の机に座っている「組長」のところまで連れていかれたのだった。


尚樹は後悔した、あんなことをSNSに書き込まなければこんな目に合わずにすんだのにと・・・


組長「お前さんか?人の寿命が見えるっていうのは?」


尚樹「は、はい・・・」


組長「よし、本当かどうか試されてもらおう、大金を払ったんだ!もし嘘だったらお前生きていられないからな!」


尚樹は冷や汗が止まらなかったが、組長や大勢の組員と思われる男たちの寿命は見えていた。


組長「コイツラの中で一番先に死ぬやつを俺だけに教えろ!そうすれば返してやる、もし嘘をついていたら命がないぞ!」


尚樹「え、え・・・!」


尚樹は恐るゝ周りを見渡していた、日常生活の中で見る寿命とは明らかに早い人も見つけた。


やはり、組事務所の人たちはヒットマンや喧嘩によって命を落とす人が多いのだろうか?


そんな時に「2024年5月」と来月死ぬ人を尚樹は見つけた、背が小さくてアロハシャツを着た眉毛がない男性だった。


組長にこっそりと尚樹はそのことを伝えた。


組長「よし、お前ら解散しろ!」


組長「来月になってお前の選んだ男が死んでなかったら、覚悟しろよ!もう帰っていいぞ!」


尚樹は事務所を後にした、とても怖かった・・・なんでこんな目に合うのだ。


尚樹は自分が犯した過ちに気づいて膝をついて崩れさり後悔していた、今のうちに遠くへ逃げようかとも考えたが、ヤクザ相手にそれはおそらく難しいだろう。


逃げてまわる精神的苦痛を考えると、いっそのこと殺してくれたほうが周りにも迷惑をかけないでマシだと考えもするのだった。


その後、尚樹は振り込まれたお金で精神不安定になりとにかく飲み歩いた、そんな能力を持ったことを後悔して心が病んでいたのだった。


会社もしばらく休むことにした、もしヤクザの人が会社に来たらと思うと一発で終わりだ。


尚樹が見た2024年5月が過ぎるまでおとなしくしていようと考えたのだった。


そして5月になって、SNSにSさんから再び連絡があって「会いたい」と言われた。


尚樹はもう逃げられないと思ったので、帰れない状況も想定して遺言状を家族宛に書いて一人暮らしをしていた部屋に置いた。


尚樹は山田さんに連れられてまたあの事務所を訪れることにことになった。


事務所に入ると組長一人が机に座って待っていたのだった。


尚樹は組長と2人きりになった、殺されるのかと肩を落として覚悟していた。


組長「お前、わたしの寿命が見えるのか?」


尚樹「は、はい・・・」


組長「あと、100万円やるから教えろ!」


尚樹「え・・・」


組長「どうなんだ、答え次第では帰さないぞ!」


尚樹はとっさに胸の内を組長にぶちまけた。


尚樹「わかりました、お金は要りません、しかし今後わたしには関わらないで頂けないでしょうか?それが条件です、普通の生活がしたいのです・・・」


組長「何だと・・・(しばらくして)わかった!そうしてやるよ」


尚樹は組長の寿命を伝えて事務所から開放された。


尚樹は組長の言っていることを信用できなかったので、会社も辞めてこの街から引っ越すことにしたのだった。




尚樹は住んでいた静岡から広島に引っ越しを決意した、以前住んでいた家主さんには念のために嘘の転移先を伝えた、足がつかないようにするためだった。


広島を選んだ理由は近くに知り合いや家族もいなくて、新しい生活を一人で始めようと思ったからだった。


尚樹はしばらく引きこもった、出かけたら人の寿命が見えてしまう。


TVをつけるとブラウン管の中を通して寿命は見えなかった、実際に会った人しか寿命は見えない能力だった。


尚樹はTVを見るのが楽しかった、なにか自分の能力を忘れさせてくれる唯一のやすらぎの時間だったのだ。


ある日、尚樹は生活しなければならなかったので求人サイトで探していた。


そんな時に、縁があって大手食品メーカーの倉庫で働くことになった。


会社に行ってみると、笑顔が可愛くて優しく仕事を教えてくれ世話人の「橋本結菜」さんという女性に出会った。


しかし、当然橋本さんの寿命も見えていた。


そんなことも知らずに橋本さんは、尚樹にも親切に仕事を教えてくれたのだった、何とか仕事を与えてくれた職場に役に立ちたいと思った。


橋本さんに、寿命を教えるてあげようと尚樹は思っていなかった。


そんなことを知らされても彼女にとって迷惑だし、知りたくもなかったと後悔させると思ったのだった。


しかし、寿命が二ヶ月後に迫っていることを知った尚樹は彼女が後悔しない時間を満たせてあげたいとも思うのだった。


橋本「大谷さん、私をじっとみてどうしたの?」


尚樹「あ、すみません。視線を感じましたか?」


橋本「わたしのことが好きなのかな?ハハハ」


尚樹「橋本さんは魅力的な女性ですし、嫌いではありませんよ!」


橋本「そうなの?今日の帰り、少し時間ありますか?」


尚樹「はい、どうしてですか?」


橋本「駅の近くにね、新しい飲み屋さんができていて一人では入りづらくてね、もし良かったら一緒に寄ってくれないかなと思ったの?」


尚樹「そうなんですね、いいですよ、お供させてください!」


こうして、尚樹と橋本さんは仕事帰りに新しくできた飲み屋さんに二人で訪れた。


橋本「大谷さん、お疲れ生です~」


尚樹「橋本さん、お疲れ生です」


二人はこうして生ビールで乾杯するのだった、橋本さんは最近の出来事を尚樹に語るのだった、喋るのが好きなんだろうなと尚樹は感じていた。


橋本さんは生ビールをお代わりしてつまみを食べながら、尚樹に会社の愚痴や友達の許せない行動を話すのだった。


尚樹は橋本さんに相づちを打ちながら彼女の考え方を肯定してあげるのだった。


1時間程経ったであろうか、橋本さんが帰ろうかと言い出した。


橋本「大谷さん、最寄り駅はどこなの?」


尚樹「はい、矢野駅です」


橋本「え、そうなの?私の降りる坂駅の一つ向こうの駅だね」


尚樹「そうなんですね、橋本さん酔っているし心配なのでお住まいの近くまで見送ってもいいですか?」


橋本「わたしが道端で倒れて酔い潰れていると思ったのかしら?」


尚樹「そうじゃないですよ、ただ・・・もう少し橋本さんと一緒にいたいかなと」


橋本「ふふふ、ありがとう」


二人は橋本さんの家の近くまで一緒に歩いて帰るのだった、しばらく歩いて橋本さんが立ち止まった。


橋本「わたしの家はこのマンションなの?大谷さん少し寄っていく?」


尚樹「いや、入りたいですけど明日も仕事で顔を合わせるので今日は我慢したい気持ちがあるのですが・・・」


橋本「我慢って?ハハハ、大谷さん真面目なのね」


尚樹「橋本さん、海田駅の近くに美味しい洋食屋さんを見つけたんですけど、こんどの日曜日に一緒に行ってくれませんか?」


橋本「それって、デートのお誘い?」


尚樹「橋本さんのことをもっと知りたくて・・・」


橋本「ふ~ん、いいよ!12時に海田駅の改札で待ち合わせしよ」


尚樹と橋本さんは酔った勢いでハグして今晩はお別れするのだった。


尚樹はその帰りしに流れとはいえ、2ヶ月後に彼女は亡くなってしまうのを知ってた。


橋本さんを好きになったら自分が苦しいのではないか?しかし寿命を彼女に教えたらやはり嫌われるのではないか?


もしかしたら一緒に死ぬのではないか?とも尚樹は考えてしまうのだった。


そして日曜日になった、尚樹は駅の改札口で待っていると時間通りに橋本さんが来てくれた。


橋本「大谷さん、お待たせ~」


尚樹「いえいえ、橋本さんかわいい服装ですね」


橋本「そう?ありがとう、大谷さんに褒めてもらって嬉しいわ!」


そうして、二人はランチを共にして時間を過ごした。


橋本「大谷さん、このあと用事入っているの?よかったら一緒に昼飲みに行かないかなって?」


尚樹「いいですね、橋本さんが酔い潰れたら介抱しますから」


橋本「わたしのこと呑助だと思っているの?大谷さんが潰れたら私が介抱してあげるから、ふふふ」


そう言って二人は楽しい時間を過ごすのだった、夕方になって帰り道で二人共酔ってしまい肩を寄せ合いながら帰宅に向かうのだった。


橋本「トイレ行きたくなったな~」


尚樹「駅かコンビニまでもう少しですけど、僕のマンションも反対方向ですが同じ距離くらいかな?」


橋本「大谷さんのとこ寄っても大丈夫?」


尚樹「ええ、いいですけど少し部屋が散らかってたような・・・」


橋本「いいよ、気にしないでいこう~」


橋本さんは勢いで尚樹の手を握って駆け出した、尚樹も流れに任せて橋本さんの手を握り直すのだった。


尚樹のマンションについて橋本さんは用をたした。


橋本「ありがとう、助かった~」


橋本さんがそういうと、尚樹は酔った勢いで橋本さんを後ろからハグしてしまった。


尚樹「橋本さん、僕・・・貴方のことを・・・」


橋本さんはゆっくり振り向いて尚樹にやさしくキスするのだった。


橋本「大谷さん、私もあなたのこと・・・」


二人は自然に抱き合いながらベッドに倒れ込んだ。


お互いの舌を舐めい愛しあった、布団をかぶったままの中でお互いの服を脱がせあって裸になっていった。


橋本「中には出さないでね、まだ知り合って間もないし・・・」


尚樹「うん、橋本さん・・・」


二人はお互いの体温を感じながら、やがて下半身を重ねながら繋がっていった。


橋本さんの大きな喘ぎ声に、尚樹は興奮を抑えきれずに何度も体位を変えながら激しく愛し合った。


しばらくして二人はゆっくりと眠りについた。


時間が過ぎて先に目が覚めたのは尚樹だった、橋本さんを横に見ながら髪の毛を触っていた。


こんなに好きなのに・・・なんとか救えないのか?と橋本さんを見ながら尚樹は悲しい目をしていた。


しばらくして橋本さんが目を覚ました。


橋本「大谷さんと結ばれてうれしい。大切にしてくれる?」


尚樹「ええ、僕は橋本さんのことが好きです」


橋本さんは尚樹に抱きいてきてキスをした、二人はお互いの気持ちを抑えられずにまた愛し合うのだった。


そして、しばらくの歳月が流れた、気づけば橋本さんの寿命の月に入ろうとしていた。


尚樹は橋本さんのことが心配で何かを伝えたかった、LINEで橋本さんに会いたいと伝えるとマンションで会うことになった。


尚樹「ゆな、来月に旅行とか行く予定ある?遠出ではしないでほしいんだ」


橋本「なおくん、どうしたの?急に」


尚樹「いや、大きく天候が崩れるかもしれないだろう?」


橋本「今は冬本番だし可能性はあるけど、なおくん変なことを聞くのね」


尚樹は、ゆなに来月君は死ぬんだなんて言えない、尚樹はゆなを抱きしめた。


尚樹「僕がゆなの近くにいて守るから・・・」


橋本「う、うん、ありがとう・・・」


尚樹は休日のたびにゆなに会っていた、彼女に襲ってくる危険から守ってあげることしか尚樹には考えつかなかったからだ。


二人はゆなの部屋で、一緒に料理を作ったりゲームを一緒にしたりと、まるで同棲しているようだった、二人で外出するとき尚樹はゆなを守るように周りの動きに注意をはらっていた。


ある日の夜、ゆなからLINEがあった。


橋本「実家から連絡があって母が倒れて意識がないみたいなの・・・、今からタクシーで実家に向かうわ!なおくん心配しないで」


尚樹「気をつけてね、お母さんきっと大丈夫だって信じているからね」


橋本「ありがとう、なおくん、また明日連絡するね!」


尚樹とゆなとやりとりはこれが最後だった。


翌日のニュースを見て尚樹は目を疑った、高速道路を走っていたタクシーが雪でタイヤがスリップして反対車線を飛び越えて対向車にぶつかって死傷者が出たのだった。


死亡者「運転手◯◯さん・・・と搭乗者の橋本結菜さん!」


尚樹はニュースを見て膝から崩れ落ちた、ゆなを守ってあげれなかったのだ・・・


尚樹は大粒の涙を流しながら何度も床を拳で叩いた、「ちくしょう!」と叫びながら何度も何度も・・・




尚樹はいつも利用している理髪店「パパス」に訪れていた、この店は安い料金でヒゲを剃ってくれてるし眉毛を整えてくれたりとお気に入りの店だった。


しかし、寿命が見える能力を持って初めて訪れたときに衝撃を覚えたのだ・・・


何人も同じ日に亡くなる寿命が見えたのだった。


尚樹は想像を巡らせていた、おそらくお店で何かイベントがあって集まるのかも知れない、そこで何か事件が起こるのだろか?


尚樹の予測は的中した、お店の張り紙で「6月1日は17時で営業が終了しますと書いてあった」


尚樹は気になって、理髪中に従業員にそれとなく聞いてみた。


尚樹「6月1日って何か早く営業が終る理由があるんですか?」


従業員「その日はねぇ、新年会があってマスターのおごりで温泉にみんなと行くんだよ」


尚樹「そうなんですね、翌日は休館日だしゆっくりできて楽しみですね」


従業員「そうだろ~、いいマスターだよな、兄ちゃんもこんないい職場を見つけてな!」


尚樹「ハハハ、うらやましいです。」


そんな会話をしているが、心の中では「俺は何を言っているんだ!でもその日は温泉に行かないほうがいいですよ!」と言ったところで従業員の機嫌が悪くなるだけだ。


尚樹は為す術もなかった・・・


寿命が見えるなんて自分が苦しくなるだけだった。


誰も救うこともできない、運命に逆らえないことを思い知るのだった。


理髪店の運命の日が訪れた、尚樹は閉店間際に店を訪れて従業員の楽しそうな笑顔を後にした。


尚樹の予言した通りだった、翌日のニュースで・・・


従業員を乗せ温泉地に向かったマイクロバスが走行中に、運転手の居眠りによってガードレールに接触して車は横転しながら崖から転落して炎上、運転手と乗組員の8名は全員死亡が確認された。




尚樹はSNSにこんな投稿をした。


「あなたの寿命を20万円で教えます、興味があるかたはご連絡ください」


尚樹のSNSにコメントが多く寄せられるようになっていた。


「お前、詐欺師か?」


「本当に寿命がわかるんですか?証明してください?」


「20万円で寿命がわかるなんて安くないか?」


「信じられないな、誰もお前を信用しない!」


など、否定的な中傷コメントが多かったのは事実だった。


だが、中には・・・


「人生を後悔なく生きたいので寿命を知りたいのです、会ってください!」


というメッセージがいくつも入るようになった。


尚樹は前回の組事務所に連れて行かれたことを反省材料にして次のように手を打ったのだった。


①寿命が知りたい人に20万円の振り込みを依頼する


②振り込みが完了したのを確認したら、自分の携帯番号を教える


③電話があったら依頼人に出会う日にちと時間を共有する


④出会う当日に相手の服装をあらかじめ聞いておき、尚樹は通行人を装ってその依頼人に接触して寿命を覚える


⑤依頼人には気づかれないように、その場を立ち去りショートメールにて寿命を伝えるのだった。


これなら、自分の正体が気づかれずに相手に寿命を教える。


尚樹は次々と依頼人に対して寿命を伝えるお金稼ぎを続けていた、その金額は100万円を超えていった。


尚樹は稼いだそのお金で性欲を満たすために使っていった、マッチングアプリ「PCMAX」に入会して、割り切り関係の希望が多い素人女性をターゲットにした。


自分は「性欲を満たすため」、相手の女性は「お金をもらえるため」にホテルで会っていた。


女性の1回に要求する金額は2万前後で、女性によっては「生」でさせてくれたり性病を気にせずに尚樹は性欲を満たしていた。


何十人と会ったが、中には印象が良い女性でセフレとなって何度も会っていた女性もいたのだった。


しかし、そんなことを覚えてしまうと恋愛することが面倒に感じてしまう尚樹だった。


女性と恋愛するなら、相手のことを気遣いながらデートを重ねてお互いを知りあって心を許せる相手なら進展するだろうが時間は必要になる。


むしろ、愛情がなくても性欲を満たすために相手に気遣いなく自分の望む性交渉に快楽を感じていたのだった・・・




そんな尚樹にSNS上に驚くコメントがあったのだった。


森本「私の名前は森本です、あなたと同じ能力を持っています、一度会いませんか?」


尚樹「あなたにも寿命が見えるとでもいうのですか?」


森本「はい、会ってもらえればその時にその能力をお見せしますよ」


尚樹「凄い自信ですね」


森本「いや、嬉しいんです、同じ能力を持っている人に知り合えるなんて思ってもいませんでした」


尚樹は不信感を抱きながらも、自分と同じ能力を持っている人がいるなら苦労話やこれからのことを話してみたいと思ったのだった。


尚樹「いいでしょう、7月5日にJR広島駅の南改札口に12時に会いましょう」


森本「わかりました、楽しみにしています」


尚樹は森本と会う約束をした、この時に今後尚樹の人生を大きく影響する展開が待ち受けていようとも知らずに・・・


尚樹は森本と会うためにJR広島駅に向かった。


時間通りに向かうと事前に聞いていた服装でスーツ姿の眼鏡男性がキョロキョロしながら周りを見ながら人を探していた。


尚樹は森本に不信感もあったので、簡単には接触しなかった。


しばらく森本の様子を見るためにじらしてみようと考えた・・・。


15分が過ぎた、森本は腕時計を見ながら心の中では会えないのか?という表情に見えた。


尚樹は過去に苦い出会いもあったので簡単に初対面の人を信用することができずにいたのだ。


そんな時に森本が思いもよらなかった手段で尚樹にアプローチを仕掛けてきたのだった。


それは、森本がメモ用紙を取り出してペンで数字を何度か書いて誰かに見せている仕草だっなのだ。


その数字とは・・・。


通りすがりの人の寿命を次々に尚樹に見せて自分の能力を納得させる手段だった。


尚樹は驚いた、自分が見えている人の寿命とまったく同じだったのだ。


尚樹は森本を信用することになり接触を試みた。


尚樹「あなたが森本さんですか?」


森本「あなたが占い師Nさんですか?やっと会えましたね」


尚樹「はい、占いはできませんがあなたと同じ能力を持っています」


二人は出会ってしまった・・・そして意気投合した。


二人は居酒屋で酒を飲みながら能力の苦悩を分かち合ったのだった。


森本「私は森本光良です、大谷さんは?」


尚樹「はい、私は大谷尚樹です、森本さんはどこでその能力を手に入れたのですか?」


森本「うちの家系は皆その能力を持っているのです、そして私が成人になったときにその能力が覚醒しました」


尚樹「そうなんですか?でも自分で希望した能力だったのですか?」


森本「はい、だって他の人には見えない能力ですものね!」


尚樹「でも、苦しくないですか?」


森本「能力をそのままにしておいたら苦しかったですね、しかし今は後悔していませんよ」


尚樹「そうですか?」


森本「大谷さんはSNSで予言者となってお金稼ぎしてますよね」


尚樹「大きな声で言わないでくださいよ!」


森本「大谷さんはどこでこの能力を手に入れたのですか?」


尚樹「わたしは、知り合ったお婆ちゃんから能力を受け継ぎました、おばあちゃんは死んでしまったのかもしれませんが・・・もう会っていないんです」


森本「そうなんですね、お婆ちゃんの名前は何と?」


尚樹「理衣(りえ)さんです、珍しい名前ですよね」


森本「あ、そうなんですか?・・・そういうことだったんだ!」


尚樹「そういうことって?」


森本「理衣バアはわたしの叔母です、本名は森本理衣です」


尚樹「え~!、ええ~!通りで同じ能力を?」


森本「ハハハ、大谷さんの能力を試しますね」


森本はそう言ってメモ帳を取り出し居酒屋のお客さんのテーブル席に座っていた4人の寿命の数字を書いて尚樹に見せるのだった。


尚樹も森本のメモを借りて、向かいの4人のグループの寿命の数字を書いて森本に見せた。


森本「ハハハ、同じだ~!」


森本は尚樹にハグをしてきた、同じ能力を持った同士と偶然知り合ったのである。


二人はそのあとに、お酒を飲みながら苦労話などを語り合っていた。


時間がしばらく経過して、森本がこう切り出した・・・


森本「大谷さん、あなたのその能力を必要とする団体があなたを狙っているかも知れないのでSNSの発信には十分に気をつけたほうがいいですよ」


尚樹「なんでそんなことを言うのですか?もしやあなたはその団体に追われているのですか?」


森本「はい、最近会社帰りに誰かに付けられているようなことを感じているんです・・・」


尚樹「え~、怖い!そんなにヤバイのですか?」


森本「一般人の寿命なら気にはなりませんが、もし政治家やメディアで著名人の寿命もわかるとなると状況は変わってくるのです」


尚樹「よくわかりませんが、いい教訓にさせてもらいます」


森本「大谷さん、記念にスマホで写真撮るよ、ほ~ら、こっちを向いて」


尚樹「あ、はい、こんな感じでいいですか?」


しばらくして、尚樹と森本は居酒屋をあとにした。


森本「楽しい時間でした、もう会えないかもしれませんが、大谷さんは良い人生を・・・」


尚樹「お互いの寿命は見えているんですよね、知りたくはありませんね、命尽きるまでお互いの人生を楽しみましょう」


森本「そうですね・・・では、さようなら!」


こうして尚樹と森本は別れた・・・もう会うことはないだろうと思っていた。




尚樹は一人居酒屋で飲んながら頭の中で想像していたのだった。


「森本さんはどんな職業で自分の予知能力に対してどんな向き合い方をしているのか聞けばよかったなぁ」と、ため息をつきながら酔い気分を楽しんでした。


そんな時に別のお客さんがお店に入ってきた・・・


「ガラガラ~」


入り口を開けて入ってくる男性がいた、しかし尚樹はその男性を見て驚くしかなかった。


尚樹「あの男性・・・寿命が見えない!何故なんだ?」


尚樹は動揺した、理由を知りたい!でもわかるのだろうか?


60歳位の男性で白髪頭の短髪、外見からはなんのヒントも湧いてこない。


尚樹は気になって仕方なかった。


その男性は瓶ビールを注文して一人晩酌を始めたのだった・・・


尚樹は思い切ってその男性に声をかけることにした。


尚樹「すみません、待ち合わせでなければ隣で飲んでいいですか?」


男性「あゝいいよ~」


尚樹「あの~元気ですか?」


男性「ぷう~!(口からビールを吹き出す)」


男性「兄ちゃん、急に変なこと言うなよ!」


尚樹「あゝすみません、すみません」


男性「お前、おかしな奴だな~」


尚樹「ちょっと変わっていますよね~」


男性「本当だな~ハハハ!」


男性「俺の名は佐藤だ、兄ちゃんの名は?」


尚樹「わたしは大谷です、実はわたし人の寿命が見えるんです」


佐藤「ぷう~(また口からビールを吹き出す)」


佐藤「お前、頭おかしいだろう~」


尚樹「大きな声では言わないでください」


佐藤「それで、俺の寿命が見えるのか?」


尚樹「それが見えなくて・・・知りたいんです、その理由が」


佐藤「大谷とか言ったな~お前俺をからかっているのか?」


尚樹「機嫌を悪くされたのであればごめんなさい」


尚樹は元の席に戻ろうとしていた、しかし高橋から声をかけられる・・・


佐藤「兄ちゃん、ここでいいよ」


尚樹「はい・・・」


佐藤「お姉ちゃ~ん、コップもう一つくれ!」


そう言って佐藤は尚樹にビールを注いでくれた。


佐藤「兄ちゃん、一緒に飲もうや!」


尚樹「はい、乾杯~」


佐藤「おう~」


佐藤「兄ちゃんが見えない理由はわからんがな、実は俺は医者から胃がんの余命宣告されていてな、あと2ヶ月の寿命と診断されているんだ!」


尚樹「そんな・・・飲んでていいですか?」


佐藤「お前な、死ぬ前くらい俺に好きなことさせろよ!」


尚樹「そうですが、体は大丈夫ですか?」


佐藤「何ともねえよ、ただ~俺の体は俺の今の行動に呆れているよな」


尚樹「う~ん、後悔しない生き様を見ている気がします」


佐藤「俺は独り身だから注意する人も医者ぐらいだしな」


佐藤「病院で治療して命を延命するよりも、自分の家で好きなことして死んでいく方を選んだんだ!」


尚樹「そうなんですね、俺もそうするかも知れません」


佐藤「おう、そうか?兄ちゃん飲め!」


しばらく高橋と尚樹は談笑していた、しばらく時間が経った頃に・・・


尚樹「楽しい時間ありがとうございました」


佐藤「冥土の土産に、変な兄ちゃんに会えたよ」


尚樹「お体に気をつけてください、さようなら」


佐藤「おう、じゃあな」


尚樹は寿命が見えない理由がわかりスッキリとした、しかし「後悔しない生き方」について改めて考えさせられることになっただった。




尚樹はこの日もSNSの自分のサイトのコメントを見ていた、そんな中に「凪です、死にたいので寿命を教えてください」とあった。


死にたいのに寿命を知りたい?なんか矛盾するコメントだなぁと尚樹は思っていた。


不思議に思って凪さんとメールでやりとりを始めることになった。


尚樹「はじめまして、寿命を知りたいですか?」


凪「こちらこそ、はじめまして、職場での度重なる上司のパワハラに悩まされています」


尚樹「それで寿命を知ってどうされるのですか?」


凪「自分の運命が決まっているのなら現在の月で自殺して死んでいるはずですよね、もしまだ寿命が先なら現状に解決策みたいなものがあって生きていると思うのです」


尚樹「つまり寿命を根拠に死ぬか生きるかを決めるつもりですか?」


凪「はい、今月ならやはりパワハラから開放されて死の世界へ向かいます、そうでないならもう少し我慢しようかと考えています」


尚樹「転職したらどうですか?気持ちも変わると思うのですが・・・」


凪「それも考えましたが、もう今の会社に20年働いていて執着したい気持ちもあるのです、しかしもう精神的に病んでしまっていて・・・」


尚樹「わたしが介入すべきでないかも知れませんが、精神科の病院に行かれてはどうですか?」


凪「ええ、そうですね、実は病院に行ってうつ病と診断されました」


尚樹「会社の相談窓口に話してみてはどうですか?」


凪「そんなことをしたら職場で働きづらくなるかも知れませんか?」


尚樹「そんなことを言っている場合ではないと思うのですが、あなたの命に関わることですよ」


凪「わたしには妻と子供がいますが、家に帰っても自分のことを理解してくれない妻に嫌気が差しているのです、会社でも家でも居場所がないのです」


尚樹「辛いですね、わたしができることはあなたの寿命を教えることだけなんですね」


凪「明日、10万円は口座に振込します、是非わたしの寿命を教えて下さい」


尚樹「わかりました、振込が確認できたら、次の日曜日にJR広島駅の改札出口に14時に来れますか?」


凪「はい、朝から新幹線で広島に向かいます」


尚樹はお金の振込みを確認して凪さんと会うことになった、当日あらかじめ凪さんの服装を聞いていたので、人混みに紛れて寿命を見るつもりだった。


尚樹はもし、凪さんの寿命が今月で見えてしまったら本当に自殺するんだろうか?


自分に決断を任されたことの重さに気持ちは落ち込んでしまった。


もうお金ももらっているし、嘘をついて寿命を先延ばしして教えることもできるが、それも心苦しい気持ちが残ってしまう。


尚樹はどうか凪さんの寿命が長くありますようにと願うのだった。


当日、凪さんと会うためにJR広島駅に向かった。


そして人混みの中で、連絡があった場所に凪さんらしき人を見かけたがすぐには接触しない。


凪さんはキョロキョロしてわたしを探しているように見えた、俺は凪さんの横をすれ違うまで見ないでいようとした。


そして、ついに凪さんの寿命を見つけてしまう・・・「2060年8月」と見えた。


尚樹はその場から離れて凪さんにメールを送った。


尚樹「凪さん、あなたの寿命が見えました、2060年8月まで生きています」


凪「ええ、もうわかったんですか?いつの間に」


尚樹「凪さん、今は苦しいかもかも知れませんが生きてください、きっとその先には幸せな時間が待っているとわたしは信じています」


凪「ありがとう、ありがとう、さようなら」


尚樹はホッとした、何かお金をもらって初めていい仕事をした気持ちになった。


帰りに立ち飲み屋に寄って一人乾杯しよう・・・


尚樹はホロ酔い気分ですみかに帰ろうとしていた、しかし何故か人に付けられている感じがあった。


尚樹はまさか森本さんが言っていた団体なのか?俺を捕まえて監禁して人の寿命をお金に変える仕事を考えているのではないか?と思った。


尚樹は確かめるべく、気づいてないフリして細い路地に入り尾行者を待ち受けることにした。


尚樹(本当に尾行者していたのか?できれば勘違いであって欲しい)


尚樹はドキドキしながら様子を見ていた、そうすると・・・


体型のいいメガネに黒い帽子を被った男がキョロキョロ周りを見て人を探しているようだった。


尚樹(マジかぁ!)


尚樹は怖くなって隠れていたその場からしばらく出れずに震えていた。


尚樹(どうやって、僕の面がわれているのだろうか?いつも依頼人と会う場所が既に組織にバレているのではないか?)


尚樹はそんなことがあってから、仕事もせずに隠れるような生活をおいくっていた。


しかし、部屋に閉じこもるのは苦しいので、髪を短髪にして眼鏡をかけてから出かけることにした。


いつもはネットカフェやスーパー銭湯に行って長い時間をそこで身を潜めていた。


相変わらずお酒は好きだったので一人で飲み歩いていた、しかし尚樹は心が不安でしかたなかった。


自由気ままに生活していた尚樹だったが、貯金の残金が少なくなっていた。


この場所で、寿命の予言業をやっていくのも限界なのか?と感じていたのだった。


尚樹は思い切って大阪か東京の都会にでれば、お客さんも多いと思うし自分を探そうとしている団体から逃げられると思った。




直樹は東京に引っ越しすることにした。


振り返ってみると、静岡では暴力団事務所に連れて行かれた。


広島では好意を持っていた橋本さんが亡くなった、同じ能力を持つ森本さんに出会った、理髪店では大勢が亡くなった、死にたいと言っていた凪さんや、余命宣告を受けた佐藤さんにも出会ったのだった。


東京ではどんな出会いが待っているのだろうか?


尚樹はまず収入が入るまでは住処を決められないと思い、ネットカフェを利用して自分のSNSサイトに入りお客を探していた。


サイトには「東京近郊で寿命を知りたい人はいませんか?30万円でお教えします」と再度メッセージでアピールした。


都会の富裕層のお客をターゲットにした価格設定だった、しばらく日が過ぎた頃に早速尚樹のサイトにメッセージだあった。


高橋「はじめまして、寿命が知りたいので会えませんか?」


尚樹「わかりました、振込を確認してからご連絡致します」


高橋「ただし、条件があります、寿命を知りたいのは私ではありません」


尚樹「どうやって会うのでしょうか?」


高橋「実は、かなりの知名度の高い人物なので公の場には出ることができません、こちらから指定の場所に車で向かいますので窓を開けて本人を見ていただいて寿命を見ていただくことは可能でしょうか?」


尚樹「かなり難易度が高いですね」


高橋「はい、そうです」


尚樹「50万円なら即決させていただきますが・・・」


高橋「私どもの足元を見られているのですか?」


尚樹「著名人のために数秒だけ顔を見て寿命を判断するのは初めてですので。」


高橋「日程と時間はこちらで指定させて頂きます」


尚樹「わかりました、メールアドレスにご連絡をお願いします」


数時間後に・・・尚樹の指定する口座に50万円が振り込まれた。


尚樹は「よっしゃ~、東京はいいなぁ!」とガッツポーズをした、翌日に日時と場所の連絡があった。


その場所は広い道路だが交通量は少ない場所だった、指定があった早朝だったので人もまばらだった。


待ち合わせの時間に待っていたが、どんな車で来るのか聞いてなかったのでとにかくすれ違う車ばかり見ていた。


もう15分も過ぎているのに姿を見せない・・・


お金をもらっているから待つしかないな、と思っていた。


尚樹に向かって見るからに高級車がゆっくりと近づいてきた。


そうすると、車道に車が止まった。


運転席からスーツ姿の黒い眼鏡をかけた男が尚樹に近づいてきた・・・


高橋「尚樹さんですか?私が高橋です」


尚樹「はい、寿命を見てもらいたい人は?」


高橋「後部座席に座っています、ウインドウを下ろすので30秒で寿命をみてもらえますか?」


尚樹「そうですか?わかりました」


尚樹は後部座席のウインドウを見ていたら、スーと降りてきて中からネクタイ姿の中年男性が出てきた。


あきらかに政治家を匂わせるような雰囲気を漂わせた。


依頼人「君かね、寿命が見えるって男は?」


尚樹「はい、もう見えています」


依頼人「それで?」


尚樹「一つだけ質問していいですか?」


依頼人「なんだ?」


尚樹「寿命を知ってどんな得があるのでしょうか?」


依頼人「それはな、自分の財産やライフプランを考えたり、跡継ぎの時期など色々とな・・・」


尚樹「そうなんですか・・・あなたの寿命は2053年5月です」


依頼人「そうか・・・じゃあな」


そう言ってブラインドが上がっていった、車は静かに走り出したのだった。


尚樹は車のテールランプを見ながら本当に寿命を知ることが本人のためになるのだろうか?といまさら考えていた。


尚樹は歩きだした。


そんな時に、もう一台の車が尚樹の横で止まり運転手が飛び出してきた、喋ろうとしたときには運転手がスタンガンで尚樹を襲った。


気を失った尚樹は車に乗せられてしまった・・・




尚樹「う~ん・・・ここは?」


尚樹が気づくと倉庫みたいな場所で細い柱に後ろに結束バンドで両手を縛られていたのに気づいた。


運転手が近づいてきてこう言った。


運転手「ボス、こいつ目を覚ましましたよ」


運転手は携帯で誰かに連絡をしていた・・・


しばらくして人の足音が聞こえてきた、トン、トン、トン


尚樹がゆっくりと頭をあげて目を細めて相手を見てみると・・・


尚樹「え、森本さん?」


森本「やぁ、久しぶりだね大谷さん」


尚樹「な、なんでこんなことをするのですか?」


森本「それは、大谷さんが僕のシャバを荒らして依頼人を横取りしたからだよ」


尚樹「依頼人って、さっきの政治家みたいな人ですか?」


森本「そうだよ、あの人最初は私が見つけた依頼人だったんだ」


森本「しかし数日前に連絡があって、寿命がわかる同業人の奴が君の半分の値段で交渉してきたからお断りするよと連絡があったんだ」


森本「ただ、その依頼人は君との待ち合わせ予定を教えてくれたんだよ」


尚樹「それじゃあ、その交渉後に僕を拉致する予定が仕組まれていたということですか?」


森本「よくも僕のお客さんを横取りしてくれたね、許さないよ!」


尚樹「そんなこと知らなかったんです!」


森本「どうして東京に出てきたんだ!大人しく広島で居ればこんなことにならなかったのに・・・」


尚樹「本当にバカですね、俺・・・」


森本「依頼人からもらった50万円はもらっておいたよ」


尚樹「くそ~、自業自得か・・・」


森本「まさか、磁石のようにまた君に引き合うことになるとは思っても見なかったよ」


尚樹「森本さん、僕の前に現れなくて良かったのではないですか?」


森本「君に忠告するためだよ、この予言業から足を洗えと・・・」


森本「予言者は一人でいいんだ、それで存在価値が高くなる!」


森本「東京で私は予言者として成功したいのだよ!」


尚樹「それが森本さんの目的?」


森本「そうだよ、大谷君もう東京から離れろ!もし同じことがあったら今度は生かしておけない!」


森本「帰るぞ!」


運転手「お前はここで置き去りだ!じゃあな」


森本と運転手の乗せた車は足早にその場を後にした、残された尚樹はどうにか脱出方法を考えたが人を呼ぶしか思いつかなかった。


尚樹「このままでは、ここで野垂れ死にだ、助けを呼ばなくては・・・」


しかし、大声で叫ぶも今日は日曜日ということもあり人影はなく、森本さんはそこも理解してこの場所を選んだのだろうと尚樹は思った。


夕暮れ時になった、季節は秋とはいえコンクリートの下で座らされて長時間経つと寒い。


尚樹は大声で助けを呼ぶ元気さえ失っていた、体を倒してしまいコンクリートの冷たさがわかっていてもどうしようもなかった。


結束バンドがこれほど憎たらしいと思ったことはなかった、千切ろうとした手は赤くなっていたのか少し痛い。


そんな時だった・・・意識がなくなっていきながら犬の鳴き声が聞こえてきた。


「ワンワン!、ワンワン!」


もうろうとした目で見ると犬が鳴いていた、そして人が現れたのだった。


主人「どうしたんですか?大丈夫ですか?」


尚樹「すみません、結束バンドを切れませんか?」


主人「あ~、ちょっと待っててください!」


しばらくして・・・


主人「倉庫にカッターがありました、バンドを見せてください」


主人はそう言って尚樹が縛られていたバンドを切ってくれた。


尚樹「あ、ありがとうございます」


主人「いえいえ、犬のおかげですよ」


主人「事情はあると思いますが、面倒なことに巻き込まれたくないのでこの場を離れますね」


尚樹「はい、ありがとうございました」


尚樹は開放された、しかししばらくショックで動けなかった・・・


鉄柱にもたれかけて今後のことを考えていた。


尚樹「はぁ~、お腹すいたな」


尚樹はフラつきながらも駅を目指して歩くことにした、ここがどのへんかも想像もつかない。


ゆっくりとフラフラと1時間は歩いただろうか?


やっと駅らしい場所が見えてきた。


尚樹は駅の近くにネットカフェを見つけた、入店してすぐに倒れ込むように眠りについたのだった。




尚樹は目を覚ました、時計を見ると10時を指していた。


尚樹「うん~、よく寝たなあ、昨日は悪夢のような一日だった」


尚樹はアルことを決めていた、それは寿命が見える能力を誰かに引き継ごうと・・・


もう懲りゝだ・・・


SNS上で呟いた。


尚樹「わたしは人の寿命が見えます、誰か30万円でこの能力を買いませんか?」


尚樹は引退を決意したのだった。


数日後に、SNSに書き込みがあった。


瞳「瞳です、お会いできませんか?興味があります」


尚樹「はい、詳細はメールにてやりとりしましょう」


メールで会う日程を決めて当日になった。


尚樹は入金を確認したのち、広めのカフェの一番奥の席で待ち会わせることにした。


待っていると一人の女性が近づいてきたのだった。


瞳「尚樹さんですか?」


尚樹「そうです、瞳さんですね、座りませんか?」


瞳「はい、寿命が見える能力って本当ですか?」


尚樹「見えますよ、瞳さん若いよね」


瞳「そうですか?20歳です、成人した年に新たになにかを始めようと思ってパパから貰ったお祝い金で支払ったんですよ」


尚樹「そうなんですね」


瞳「能力を引き継ぐ力って痛かったりするんですか?」


尚樹「そんなことはないよ、少しの時間両手を握っているだけだよ」


瞳「そうなんだ、良かった~」


尚樹「この能力をどう使いたいのかな?」


瞳「将来は予言者として起業しようと思っているよ」


尚樹(やっぱり君もお金儲けに利用するんだな)


尚樹「始めようか?両手を出して」


瞳「怖いな~、怖いな~」


尚樹「大丈夫だよ、ただ急に人々に数字が現れても混乱しないようにね」


瞳「うん、わかったわ」


尚樹「では、いくよ!目をしばらくつぶって両手を出して」


尚樹は瞳の両手を掴んで気を集中した、段々と手が熱くなっていって瞳に能力が伝わっていくのを感じるのだった。


尚樹「瞳さん、終わったよ。ゆっくりと目を開けてごらん!」


瞳「は~い、え、え、これ何?」


尚樹「君に見えているのがその人の寿命の年と月だよ」


瞳「尚樹さんの寿命が・・・あ?(瞳はあわてて口を両手で塞いだ)」


尚樹「それは言っちゃ駄目だよ、周りを見渡してみて」


瞳「え、え、凄~!」


尚樹「僕はこれで失礼するよ、あ、もし万が一困ったことがあればここに電話して、ないかもしれないけどね」


瞳「はい、あれ携帯でなくて固定電話なんですね」


尚樹「そうだね、かかってこないことを祈っているよ」


尚樹はそういって瞳を残して注文書の紙を持ちレジに向かった。


尚樹はお店のドアを開けて立ち止まり一度大きく深呼吸をした、1年ぶりに普通の凡人に戻ったのだった。


尚樹は海に向かった、周りでは家族連れが釣りをしていたり散歩する人々・・・


カモメが飛びながら鳴いていた、そんなときに尚樹は携帯電話をオフにして思いっきりの力で海に投げ飛ばした。


今までの人間関係も仕事も精算したかったのだった、大きくため息をしながら尚樹はしばらく海を見ていた。


尚樹にはわかっていることが一つあった、それは森本の寿命であった。


初めて会ったときに40歳と教えてくれたが、それが本当なら尚樹が見えた森本の寿命は2025年11月、つまり来年だったのだ。


事故か事件に巻き込まれるのだろうか?どうでもよかった・・・





尚樹は実家がある大阪に戻った、両親はまだ元気で暮らしていた。


携帯もなく、パソコンもなく、そんな自然に囲まれたアナログの世界に身をおいていた。


自分の寿命はわからなくてもいい、まずは生きることを大事にしよう、そしていつ来るかわからない死に向かって毎日を悔いなく過ごすことにしよう。


尚樹はそのことが能力を手放した結論だったのだ。


尚樹「理衣おばちゃん、ありがとう、気づかせてくれて」


尚樹は大阪から空を見上げていた。


そして、1年が経っていた・・・


尚樹は新たに倉庫業者に中途採用で働くことになり、毎日が充実していた。


来週には母から紹介された縁でお見合いを予定していた、もしうまくいけば普通ぬに幸せな家庭を築いて田舎で平和に暮らしていけるかなと思っていた。


そんな時の日曜日だった、家の電話が鳴って母がとった。


母「はい、大谷です、え、尚樹ですか?ちょっと待ってください」


母「尚樹~、電話だよ~!」


尚樹「は~い、(誰だよ?)」


尚樹「はい、もしもし尚樹です」


瞳「尚樹さん、瞳です!助けて~もう寿命なんか知りたくないよ~」




Season1 完




~season2の予告~

尚樹は再び、瞳から寿命の見える能力を引き継ぐことになる

そんな尚樹のサイトに「招待状」が届く、『予言会』と題された集会の案内だった、様々な能力を持った選ばれた人だけの集まり・・・

主催者は?目的は?参加者は?尚樹の運命がまた大きく動き出すのだった。


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デスプロフェット~人の寿命が見える能力を持った主人公の物語 人生楽笑 @paisyun1225

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