第2話 ケイゴの卒業式

今日はケイゴの高等部の卒業式。エスカレーター式とはいえ、大学を他校へ行く人や就職する人も一定数いる。多くの場合は中小企業のご家庭だ。一部結婚の為に辞める方もいる。


「これをもちまして、卒業証書授与式を閉会致します。一同礼。」


厳かな式が終わる。在校生が花のアーチで花道を作ってくれる。それを卒業生が静々と歩いて退室する。大きな拍手とスンスンと鼻をすする音も微かに聞こえる。


答辞で壇上に上がった時、家族席にミラがいた。今日はミラの学校も卒業式のはずだ。昨日も卒業生のコサージュを作る為に、日曜日なのに出校していた。その為、今日の親分の胸には、生花のコサージュがついている。


***


「残ったお花が少しあったから、集めて作ったんだよ!おじいちゃん、明日これ付けってね!うちの卒業生より豪華なコサージュになっちゃった事はナイショね。ケイゴにもあげたかったけど、学校で用意されてると思うからミニ花束にしたよ!」


***


教室へ戻り最後の時間を過ごす。担任が最後の挨拶をして教室を出た瞬間、周りから女子の泣き声が上がる。抱き合って慰め合っている人まで。そんなのを気にする事もなく、ケイゴはスンと立ち上がり荷物を纏め始める。


そこへ一軍女子が声を掛けてくる。よく俺に絡んでくる女だ。自分が彼女と思っているのか?っていうくらい、腕を組んだりベッタリくっついてくる。


「ねぇケイゴ君、最後だし写真撮らない?」


「遠慮しておく。」


顔も見ずに答えると、その女に惚れている男が慌てて取りなしてくる。


「おぉ!いいね!撮ろう撮ろう!ケイゴもそんな顔しない!」


(コイツいつもそうだな。自分が惚れてるからって、俺をダシに使うな。)


ケイゴは嫌そうな顔を惜しげもなく披露する。ミラが居なくてミラに関係の無い者には、とことん冷たい。


いつの間にか、写真家待ちの列が出来ている。


(はぁ?マジかよ!o(`ω´ )o)


「ねぇケイゴ君、第二ボタン貰っていい?」


ジロリと睨む。一軍女子だとしても何様のつもりだ。


「無理だな。差し上げる方が決まっている。」


「えっ?」


「じゃ、じゃぁオレのあげるよ!」


「あんたのなんか要らないわよ!ねぇ、じゃぁネクタイにする!」


「売約済みだ。」


「そんなぁ…。」


「オレのあげるよ!」


「あんたの何か要らないって言ってるでしょ!じゃぁ、何も要らないから付き合って!」


「…無理だ。」


そう言ってスタスタと教室を出る。随分待たせてしまっている。まだ俺を待ってくれているだろうか。


別棟へ行く道すがらも、隠れていた在校生が声を掛けてくるが、冷たく「無理」と言いながら一瞥すると去って行く。


ようやく客室に着く。一息深呼吸をしてノックする。すぐに扉が開けられた瞬間、ミラが抱きついてくる。


「卒業おめでとう^_^」


満面の笑みだ。俺はスッと扉を閉めミラを抱きしめ返す。こんな純粋なお嬢様と両思いだと思うと、苦しいくらいに幸せだ。


「お嬢、お約束の物死守しましたよ^_^」


そう言いながら、第二ボタンを取ろうとしていると。


「あっ!待って!ハサミなら待ってるから!」


普段持ち歩いているソーイングセットを式用のバッグから取り出す。


「?ハサミは何に使うんですか?」


「?ボタンを切るのに使うに決まってるでしょ。もう着ないとは言え、引きちぎるのは忍びないし。」


「…フハハハハ!流石うちのお嬢様だ!」


少しの沈黙の後にケイゴが大笑いし出す。


(お嬢はそんな勘違いをされてたんだな。普通は糸で留めるから。)


そんな事をホクホクと思う。


「何で笑うの?」


「お嬢、制服のボタンは特殊で、裏に留め具が付いてるんですよ。」


見せながらボタンを取る。ミラは目を丸くしてパチパチしている。一拍遅れでケイゴの制服を掴んだミラは、裏ボタンをガン見している。


「…。皆んな引きちぎって持って行くんだと思ってた。」


ケイゴはその姿にフフッと軽く笑い、再びミラを抱きしめた。


(俺のお嬢様はかわいいな。)


人から見れば、天然かはたまたおバカ認定されてしまう様なこんな事でも、ミラなら可愛く思えてしまう。ケイゴはもう手遅れだ。

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