第25話 蒼真と弘祈の絆

 少しして。


 ようやく気を取り直した蒼真が、ソフィーに声を掛ける。


「そういえばさ」

「どうかしましたか?」


 ソフィーはすぐさま蒼真の方へと顔を向けると、可愛らしく首を傾げた。

 この辺りの仕草も、やはりティアナとそっくりだ。


「さっき魔物と戦ってた時なんだけど、弘祈のヴァイオリンが何かすごいことになってたんだよ」

「何かすごいことって、また雑な説明を……」


 ソフィーの前で大げさに両手を広げてみせる蒼真を、弘祈が一瞥いちべつして大きく嘆息する。


「すごいこと、ですか?」

「うん、あれって何だろうと思ってさ。まるで魔法みたいだったんだよ。な、弘祈!」


 蒼真は明るくそう言って、今度は弘祈の顔を見た。

 すると、弘祈も蒼真の話に付け加える。


「確かにあれは魔法みたいだったけど、ティアナからはそんな説明聞いてなくてさ」

「ティアナが説明し忘れたとは考えにくいですから、何か想定外のことがあったのかもです。詳しく聞かせていただけますか?」


 ソフィーの笑顔が真面目なものに変わると、蒼真と弘祈は一緒になって説明を始めた。



  ※※※



 先ほどの戦闘中に弘祈のヴァイオリンが光ったこと。同じように蒼真の剣も光に包まれて強化されたこと。それらをかいつまんで説明する。


 二人の説明を興味深そうに聞き終えたソフィーは、しばらく考えるような素振りをみせてから、おもむろに口を開いた。


「もともと、ヒロキ様の楽器はオリジンの卵に音楽を聴かせるためにあります。それ以外の能力はないはずなんですが……」

「俺の剣とは違うってことか?」


 ソフィーの答えに、蒼真が腕を組んで唸る。


「ソウマ様の場合は騎士として必要な能力ですから」

「ああ、弘祈と卵を守って戦う可能性があったから、俺の指揮棒は武器なのか」

「そういうことです」


 蒼真が納得すると、ソフィーもしっかりと頷いた。


 確かに、ティアナからは『弘祈のヴァイオリンは武器にはならない』と言われていた。ということは、やはり指揮棒とヴァイオリンでは役割が違うのだ。


「じゃあ、さっきの魔法みたいなのはどういうことなんだろう?」


 弘祈が謎だと言わんばかりに首を傾げる。


「これはあくまでも私の分析ですが、ヒロキ様の『ソウマ様を助けたい』という強い気持ちが引き金になって、巫女みこ寵愛ちょうあいの魔法陣をご自身で無意識に強化したのではないかと思います」


 こういう例は初めて聞きましたけど、ソフィーは真剣な表情でそう答えた。


「僕が奇跡のようなものを起こしたってこと?」

「そういうことです。はっきりとはわからなくてすみません。でも、お二人の絆が引き起こしたものだとは思います」


 弘祈に問われたソフィーが謝罪の言葉を紡ぐと、今度は蒼真が大声を上げる。


「絆ぁ!? 俺たちに!?」

「そんなものあったっけ……?」


 蒼真に同意するように、弘祈も首を傾げた。


 二人の様子を眺めながら、ソフィーが笑みを零す。


「ふふ、お二人ともとても仲が良さそうですから」

「どこをどう見たらそう見えるんだよ……」

「ホントにね」


 蒼真と弘祈は互いに顔を見合わせて、大きな溜息をついた。


「こういうのって、本人たちだけがわかっていないものなんですよ」


 ソフィーはさらに笑みを深めて、蒼真と弘祈を交互に見やる。


「そういうもんか?」

「そうですよ」


 蒼真がまだ納得がいかない表情でソフィーの顔を見つめ返すと、ソフィーは微笑んだままで首を縦に振った。


 ここまで言われては、とりあえず納得しておくしかない。


(確かに、この世界に来る前よりかはほんの少し、ホントに少しだけ仲良くなったかもしれないけど……)


 蒼真はそう自分に言い聞かせて、この話を終わらせることにする。


「結局よくわかんないけど、弘祈のおかげで奇跡が起きて魔物を倒せたってことだろ? なら、それでいいや」

「そうだね。ソフィーにもわからないんだし」


 納得することにした蒼真が頭の後ろで両手を組む。そのまま天井を仰ぐと、弘祈も同意して素直に頷いた。


『仲が良い』と言われて、弘祈がどう思ったかはわからない。だが、蒼真は口ではああ言ったものの、不思議とあまり悪い気はしていなかった。


 この世界に来る前だったら絶対に認めていないだろうが、今は少しだけ認めてもいいかもしれない。そんなことを思う。


 蒼真の心中を知ってか知らずか、ソフィーがさらに目を細めた。


「では、次に来られる時までに調べておきますね」

「いや、マジで次とかなくていいから! もう命がけで戦ったり、野宿したりするのは嫌なんだ! せめて観光だけにしてくれ!」


 蒼真は顔を青ざめさせながら激しく両手を振って、懸命にそう訴える。

 

 あまりにも必死な蒼真の様子に、弘祈とソフィーは顔を見合わせると、揃って笑みを零したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る