全てを壊し突き進む、その傲慢こそが人間でありフロンティアスピリッツだ

@hurrytom

全てを壊し突き進む、その傲慢こそが人間でありフロンティアスピリッツだ

ジョージには三分以内にやらなければならないことがあった。

それは狭い通路に閉じ込められ壁がゆっくりとこちらに向かってくるこのくそったれた状況からの脱出だ。


きっかけはいつもの悪友たちでBARで飲んでいた時だ。

アンドリューが自分に届いたスパムメールを自慢げに見せてきた。

内容はこうだ。

『君の命賭けてみないか? 成功すれば100万ドル! 失敗すれば死!

だらだら生きるより挑戦! それがアメリカンスピリッツ』

全員酒場で笑った。

スパムにしてはあまりに荒唐無稽すぎる。

旦那がオオアリクイの舌で喉を突き刺された方がまだ現実味がある。

まぁスパムもいろんな目を引くために必死なのだろう。

酒場で5分ぐらい笑えるバカ話でそのスパムの役割は終わるところだった。

だが誰よりも痛飲していたミラードが大笑いしながら「そうだ!! 俺たちはアメリカ人!!! チャレンジすることこそ魂の源流だ!!!」とアンドリューのスマホを奪い参加するのボタンをタップした。


それがこの状況のはじまりだった。

まさかあのスパムメールが本物だったなんてアンドリューも押したミラードも朝日と同時に自由の女神がベリーダンスを突然踊りだすのと同じぐらい信じてなかったのだ。

押してから数分後酒場に何かが投げ込まれ煙があふれると同時に俺たちは意識を失った。


気づけば殺風景なまるでどっかの映画でみたコンクリートだけの部屋に酒場にいた人々は押し込められていた。

こんな適当な仕事からあぶれた役者がやっすいケーブルテレビの作るドラマみたいな状況、現実にあると思うだろうか?

あったのだ。

可能性は無限、あり得ないことなんてない。さすが自由の国だ。

そこからはお約束だ。

ラジオから宇宙人みたいな声が響き運営からだすゲームに最後まで生き残れば100万ドル、失敗すれば死。

ボタンを押したミラードが扉に立つ謎の仮面を被った男たちに食ってかかったらいつのまにかつけられていた首輪が爆発し最初の犠牲者となった。

噴水のように頭の跡地から血を吹き出すミラードを背にパニックを起こす参加者を尻目にゲームは始まった。

BARで集まった俺の友人は次々と犠牲になった

アンドリューは高所から暗闇に消えフランクリンは壁からでてきたマシンガンに蜂の巣にされラザフォードは謎の処刑人に斧で真っ二つにされウォレンは選んだ瓶が毒だった。

彼だけが本当に運良く生き残っていた。

だがその運もどうやら終わりらしい。


狭い通路に放り込まれた俺はまたもや宇宙人ボイスのラジオから指示を出される。

「この通路から三分で脱出してください。

三分こえますと迫りくる壁にあなたはちょうどよい壁飾りになるでしょう」

どうやって脱出するなどの説明もなしに放り出されわざとらしく音を立てて迫りくる壁がある。

それが今の彼の状況だった。

壁や床、天井を必死に叩く。

なんともならない。

壁はイライラする音を立てながら自分に迫る。

あと何分あるか分からないが余裕はないだろう。

どうやら友にあの世のBARで再会するのもまもなくだろう。

(自由の国の退廃極まれりだ。

このゲームを楽しんでる奴らがどこかにいて俺らの死に様を楽しんでいるのだ。

俺たちよりはるかにハイクラスなやつらの娯楽として消費されるのだ)

ジョージは心の中で毒づく。

草原にいたバッファロー。

彼らはかつてはこの国の王の群れとして君臨していた筈だ。

だが彼らはわざわざ海を超えてきた傲慢な人に敗北した。

何より強い力を持つ彼らは群れが乱れればあっという間に狩られてしまう。

彼らが犠牲をいとわず群れを維持できれば人にも勝てただろう。

しかしそうはならなかった。

バッファローを狩り、そもそもの土地の住人を追い込み、最後には宗主国からも離れアメリカという国は進んでいったのだ。

(その先がこの退廃の娯楽か。ふざけるな。

そんなことでバッファローもネイディブもイギリスも乗り越えてきたのか!!)

言いしれない怒りがジョージを支配する。

それは怒りの衝動だったのか追い詰められた者の生存本能か分からない。

ジョージは壁に向かって猛然と突進した!!!

プロレスラーすら吹っ飛ぶかもしれぬショルダータックルが迫りくる壁に叩き込まれる。

そこには奇跡があった。

壁は密の荒い石膏のように砕かれ、ジョージは違う通路に転がりこんだ。

ある程度の衝撃を迫りくる壁の一部に打ち込む。

それが脱出の方法だったのだ。

ジョージが駆け出したタイミングこそその衝撃を満たす走り出しの際だったのだ。

何も考えたわけではないただの怒りだけの行動がジョージを救ったのだ。

フラフラと肩を抑えながらジョージは通路を進む。

先にある扉を開けると妙に明るいスペースにでた。

「コングラッチュレーション!!

ミスタージョージ・ワシントン!

その名に相応しいチャレンジスピリッツです!

あなたがこのゲームの久しぶりの勝者です!!」

趣味の悪い仮面を被った男たちが拍手している。

「さぁ賞金を受け取り、また一時の睡眠に身を委ねてください!

あなたの当然の権利です!」

ゆっくりとプロレスラーかボディガードのような仮面の男たちが近づいてくる。


(ジョージ・ワシントン…俺の名だ。

俺はこの名が嫌いだ。

たまたまワシントン家に生まれたオヤジが立派になるようにと俺につけた名前。

大体は初代大統領みたいに立派になれと周囲から過剰な期待を受けた。

無論俺にとってはクソったれた名前だ。

そんな期待応えられる筈がない。

だが…だがこんな未来を俺と同じ名前を持つ人が許すわけがない。

全てを蹂躙してきたアメリカという国にとって許されるて言い訳がない。

皮となり肉となったバッファロー達の無念はこんなことの為ではない。

おれがこのままこいつらに頭を下げてもらった金と生き残った幸運を噛み締め余生を生きるなど許していい訳がない)

足の裏に力が貯まる。

流れるようにアキレス腱が開放される時を待つ。

ふくらはぎが早く駆け出せと訴える。

太ももはもはや待ちきれぬと騒いでいる。

ジョージは爆発するように駆け出した。

こいつらの代表だろうと見定めた仮面の男に。

数秒後、首の爆弾が爆発するかもしれない。

撃ち殺されるかもしれない。

だが関係ない。

今の彼は蹂躙してきたものの歴史と怒りを背負ったやってきた人間にも負けぬ全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れなのだから

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