鏡の向こう側

@attunn497

プロローグ

夜の空気が肌を突き刺す。肌が締め付けられるような凍えた風が夜の街に響く。そんな夜の群青色に染まった街に、太陽の如き輝きを放つ2つの声が、感傷に浸っていた僕の耳を突き抜ける。

友1「おーい!何ボーッとしてんの〜?」

友2「部活動で疲れるのは分かるけどさ..

      お前、もう少しシャンとしろよな?」

登下校を共にしていた2人に声をかけられた。

「あぁ..ちょっと考え事してた」

友1「お前が考え事?珍しいな」

友2「なんか悩んでるなら遠慮なく言えよ、

       友達って"そういうもん"だろ?」

「うん..そうか..そうだな..実は..」

「...」

片思いの後輩がいる、だなんて言えるはずもなかった。同じ高校の後輩に好かれてるのか分からず、勇気が出ず告白出来ないだなんて、あまりにも情けなさすぎる。

「..いや、なんでもない、どうでもいい事だし」

友2「..そっか。まぁ、無理には聞かないよ」

友1「ん〜、お前がそう言うならいいけどさ〜、

   絶対無理だけはするんじゃねぇぞ〜?

   無茶しやがったら許さないからなぁ〜!?」

「あぁ..わかってる」

冗談混じりで話しているように聞こえる..が、

目が本気だ。本当に心配してくれているのか。

もう少し心配させないように気をつけなければ..

友1「..あ、もうこんなところか」

気がつくと、いつもの十字路についていた。

いつもここで友達と別れて家路に着く。

ここで両親が作る手作りの夕飯を考えながら家に帰って、家に着いては一日の出来事を報告する。ただそれだけを楽しみにして、家に帰るのだ。そして、いつも通り別れの挨拶を済ませる。..はずだった。

「じゃあ、俺はここで..」

友2「そっか..じゃ、またな」

「うん、また明日..」

    「..おい!危な───!?」

友達と別れる瞬間のことだった。突然の警告と大きな音とともに、俺の言葉は遮られた。

十字通路の左側から突如、車が飛び出したのだ。

その車はスピードを緩ませることなく..

        そのまま、俺の脇腹へ激突した。

視界が2転3転とし、俺の身体は空中へ吹き飛んだ。

地面に叩きつけられた際、頭部をぶつけたのだろう。身体も頭も..割れるように痛い。

友1「おい!聞こえるか!?待ってろ!

       すぐに救急車呼んでやるから!」

友2「....おい!待て!! おい!!!...クソッ!!」

猛烈な痛みの中に、微かに友達の声が聞こえる。

「..あり..が.. う..」

掠れるような声でしか伝えられなかった。

友2「..当たり前だろ!くそっ..!!なんで..!

  絶対助けてやるから、死なせねぇから..!!」

腹部から出血しているのか、身体が熱い。

..おそらく、このままだと俺は死んでしまう。

誰かに言われずとも、自分の感がそう伝えてくる。

もはや、彼の顔もぼやけて見えない。

身体の感覚は殆ど失われつつある。

こんな状態で、生きる道を考える方が難しい。

でも、こんな状態でも、最後に..

もう一度だけ、後輩に会いたかった..

最後に1度だけ、思いを伝えたかった..

微かに残る力を振り絞り、名前を呼ぶ。

      「..ひ..な......た....」

 .......次の瞬間、ぷつんと頭の中で

      何かが切れ、俺は意識を失った。




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