三分間クッキング、三分後にエンディング

雲条翔

三分間クッキング、三分後にエンディング

 料理評論家の男は、三分以内にやらなければならないことがあった。


 三分間の料理番組。

 簡単にできる夕食のおかずを、実際に三分間で作って紹介する内容の生放送である。


 困ったことに、昨日階段で足を踏み外し、転んだ拍子に利き手である右腕を骨折していた。本日も、ギプスで吊っての出演だ。


 不安ではあるが、アシスタントの若い女性は優秀だ。

 うまく指示を出せば何の問題もない。


 ……はずだった。


「あれ、いつもの子は?」


「インフルエンザでお休みですって。今日は、あたしが代理でぇす!」


 声の大きなド天然アイドルが「先生、今日はよろしくお願いしまぁーす☆」と、うるさい挨拶をしてきた。


「えへっ、事務所の社長のゴリ押しで、私みたいな新人アイドルに仕事の話が来たんですよー? 普段、ぜんっぜん料理なんてしたことないんですけど、先生、プロですもんね? あたしのサポートよろしく!」


 ……波乱の予感!


「今日作るメニューは何だったかな」


「豚肉のオイスターソース炒めですねっ。オイスターってなに?」


「オイスターは牡蠣だよ……」


 ため息をこぼしつつ、教えてやると「木になる方? 海にいる方?」と珍妙な二択を出してきた。柿と牡蠣の話をしているのか?

 ただ、料理としてはシンプルだ。失敗は無いだろう。


 心配をよそに、番組は始まった。


「さあ、今日も始まりました。三分間クッキング! 簡単で美味しい料理を皆様の」


「いつもの人がインフルエンザで休んだので、私が代理を務めます! いぇーい!」


 人が話しているのに遮って、ダブルピースでカメラの前に出てくるアイドル。

 彼女をおしのけて、進行をスタートする。


「では材料の紹介を」


「はい! 豚肉が……あれ、どこに……あ! いた! 養豚場から出荷したばかりのブタちゃん! 逃げないで! セットの裏に行った! 捕まえてきます!」


「豚肉って、生きてる豚をシメて肉にするところからスタート? 絶対三分じゃ無理だって!」


 皮肉にも、その回は最高視聴率を記録した。

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三分間クッキング、三分後にエンディング 雲条翔 @Unjosyow

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