バッファロー・リセット

睡田止企

バッファロー・リセット

 石橋の責任者には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが石橋に到達する前に石橋を壊すことである。

 石橋は幅五メートル・全長三十メートルほどの大きさで我が小国の東区域と西区域を繋いでいる。

 その石橋は東区域と西区域を繋ぐ唯一の道である。毎日数千の人々が行き来するにしては小さな石橋には『砂時計のくびれ』という愛称が付いている。


「急いでください! 三分後には石橋を壊します!」


 拡声魔法で東区域全体に警告する。

 東区域の石橋近くの宿屋や市場で働く人々が石橋に殺到する。人々が砂となって『砂時計のくびれ』を通り抜けて行く。

 離れた草原からも人々が石橋を目がけ走ってくる。遠くにいる人々は間に合わないだろう。しかし、草原にいるということは彼らは狩人であるはずだ。ならば、バッファローの群れにより死ぬことは仕方がないということは理解しているはずである。


「急いでください! 二分後には石橋を壊します!」


 バッファローは我が小国に住む最強の草食動物だ。

 そのため、リセットを行う動物は自然とバッファローになる。

 リセット。

 それは、肉食動物が草食動物を殺した分だけ草食動物が肉食動物を殺すことで、生命価値の均衡を保つ自然現象だ。

 我が小国では食肉の文化がある。

 肉を食べない国とは異なりリセットの対象となる。


「急いでください! 一分後には石橋を壊します!」


 我が小国ではリセットが終わるまで、国を閉じる。

 リセットは世界の理だ。だから、世界のどこかで肉食動物が草食動物と同じだけ死ぬのを待つ。その期間は西区域だけで過ごす。

 リセットの間の貯蓄はある。芋も麦もたんまりある。

 干し肉もたんまりある。


「石橋を壊します! 巻き込まれないでください!」


 最後の警告を行う。

 石橋の破壊に巻き込まれて死んでしまってもリセットにはカウントされない。狩人達はそれをよく理解しているので、無茶をして石橋まで駆け込むことはしない。石橋の破壊に巻き込まれない場所で各々異なった表情で佇んでいる。

 ある人は、自分が狩りをしている時にリセットが起きなくてもいいではないかと。

 ある人は、自然の摂理であるのだから自分がここで死ぬのも自然なことだと。

 死への恐怖で呆然としているものもいる。


 ゴウゥウウウウウウウウウウン!!!!!


 石橋の破壊は一度だけ轟音を立てて完了した。

 リセット時に破壊することは決まっていたため、予め用意した膨大な魔力と複雑な魔法陣で、簡単に破壊できた。

 我が小国から『砂時計のくびれ』がなくなった。

 タイムリミットを過ぎた後の世界が、なくなった橋の向こう側に見える。


 ブモゥウウウウウウウウウウウ!!!!!


 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ。

 彼らが轟音を立てて全てを蹂躙して行く。

 生命価値の均衡が保たれるその時まで。

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バッファロー・リセット 睡田止企 @suida

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