『法照寺怪談会』四号車の怪
あれは私が高校生の頃の話です。
隣接している県に実家があるから
私、今でも時々その 電車 には
乗るんですよね。だけど、ついつい
四号車には乗らない様に避けて
いるんです。多分 無意識 に。
もう高校生じゃないから余り気に
しなくても良いとは思うんだけど、
でもやっぱり
何か、気持ち悪くて。
四号車には ◻️◻️◻️ が乗っている。
今でもずっと、友達を探してる。
単なる 都市伝説 だって言えないのは
実際に怖い目に遭う子がいて、しかも
後を絶たないから。
だけどそれって、体験する人によって
ちょっとずつ 違う んですよね。
背景もちょっとずつ違う、っていうか。
◻️◻️◻️って高校生の女の子がいて、
友達と巫山戯て線路に落ちたスマホを
取りに降りたら、運悪く通過列車に
轢かれた、って話と、
いじめに遭ってた◻️◻️◻️が、鞄か
何かを線路の上に放り投げられて、と
いうのもあれば、
理由は分からないけど◻️◻️◻️自ら
電車に飛び込んだ、っていうのもある。
ただ、共通しているのは
◻️◻️◻️が 友達 を探しているって
事と、それが必ず 四号車 だ、って
いう事。そして◻️◻️◻️は、列車に
轢かれたのが原因で亡くなった事。
多分、何らかの 理由 はあるんだと
思うんですよね。
でも、それは全く語られない。
今からお話しするのは、もしかして
まだ終わっていない 呪い の話。
それも呪いに化かされた様な、奇妙な
怪談なんです。
当時、私はバドミントン部に所属して
いました。一見、遊びの延長みたいに
思われるかも知れないけど、これが結構
ハードな部活で。瞬発力がモノを言う
全身運動だから、部活が終わるともう
クッタクタになっちゃって。
その日は同じA組の真凛とB組の萌香の
三人で帰っていたんだけど、電車を待つ
間、菓子パン食べながら、何だかんだと
お喋りしてて。
そして電車がホームに入って来たから
そのまま乗り込んだんだけど、何と。
それ、まさかの四号車だったんですよ。
話に夢中になっていて気付かなかった
私達もアレなんだけど、その私鉄って
時間によって両編成が変わるんです。
部活の後でコンビニ寄ってたから偶々
運悪く 二両少ない編成の電車 に
当たっちゃったんですね。
電車のドアが開くと、疎に人が降りて
来て、反対に私達は乗り込んだんです。
時間もサラリーマンの帰宅ラッシュ前で
比較的、車内は空いていました。
「座ろう、空いてるよ。」萌香の言葉に
真凛と私は頷きました。
車内は疎に空いていて、私達三人は
再び話をし始めたんですけど、やっぱり
部活の後は疲れがドッと出てしまって。
段々と口数が減っていって、次第に
眠くなり始めて。鞄を抱える様にして
私達は舟を漕ぎ始めました。
多分、もうこの時。私はすっかり
寝落ちていたんだと思います。
「…美雪、ねぇ……美雪…ッ。」
真凛が私を起こそうと必死に小声で
訴えているのがわかりました。でも
何で小声? って思って目を開けると
自分の前に 誰か が立っているのが
目に入りました。そう思った瞬間、
酷く不快な臭いが鼻を突いたんです。
「…っ。」私は思わず鼻と口を手で
押さえました。
多分、それは血の匂いです。
曖昧に 多分 とか言いましたが、
暫く放置されて腐敗した様な血の
匂いというか。兎に角、とても厭な
臭いだったんですよ。
「…。」視線を上げて、見る事 は
寸での所で避けられました。本当に
あの時の私の反射神経、褒めて
やりたい。抱えてた鞄のすぐ先に、
ソレの 足先 が見えたんです。
もう、一気に眠気が覚めました。
だって足が 一つしか ないんです。
しかもその足が、ローファーを
履いていて、ソックスには赤黒い
染みが半乾きみたいに固まって
いる様でした。
「……。」私は下を向きながら
隣に座る真凛を横目で見ました。
表情は分かりません。でも、鞄の上で
組まれた両手が微かに震えていて、
きっと彼女にも見えているんだなと
思って少しだけ安堵しました。
だって、自分一人だけ見えてるなんて
なんか怖いじゃないですか。
真凛を挟んで萌香がいる筈でしたが
彼女の様子はよく分からず、それでも
誰も何も話さずに
出来ませんでした。
今、電車は何処を走っているのか。
完全に寝落ちていたのでしょう、
さっぱり様子が分かりませんでした。
かといって、車内のサイネージを
確認するにも、目の前にはソレが
まだ 居る のです。
他にも乗客は乗っていた筈なのに、
声がしません。気がつくと、周囲の
雑音も全くしなくなっていて、
じりじりとした焦燥感が、段々と
心の中に澱の様に溜まっていった
まさに、その時でした。
「私モ 仲 間ニ 入れテ ヨ。」
一瞬で鳥肌が立ちました。
まるで 罅割れた音 の様な声が。
声は目に前の ソレ から
発せられたものでした。「…ッ。」
何で、よりによって 私の前 に
立つんだよ?って思ったら、怖いの
通り越して段々と腹が立って来て。
もう、この緊張感に耐えられなく
なったんだと思います。
「ウチら、仲間とかじゃないから。」
迎え入れるか拒絶するか。どっちも
ダメだと思ったんです。それに
無視するのも。
言った瞬間、真凛と萌香には後で
謝らないと、って思いましたが、
そんな些細な事を気にする子たちじゃ
ないし。実際、示し合わせてベッタリ
でも
この一言を契機に、周りの 空気 が
すうっと元に戻ったのです。
気が付いたら目の前の ソレ は
居なくなってて、車内のサイネージで
乗車駅からまだ三駅程しか走ってない
事が分かりました。
次の停車駅を知らせる車内アナウンスで
私は、やっと◻️◻️◻️から逃れる事が
出来たのだと、ホッとしたんです。
でも
本当に怖かったのは。
半泣きの真凛に強引に腕を引かれて
私たちは次の駅で降りたんですけど。
萌香は?
そう思って、閉まるドア越しに車内を
見ると、彼女が笑って手を振って
いるのが見えました。
「ね、真凛!萌香…。」「厭あぁッ!」
真凛はホームにしゃがみ込むと震えて
いました。「何?なにどうしたのッ?」
「…
真凛の言葉に、全身に鳥肌が立つのが
分かりました。そして不覚にも私は
その場に倒れてしまったらしいのです。
◻️◻️◻️の事は、今もよく分からない。
でも、真凛も私も二度とあの私鉄の
四号車には乗らなくなりました。
最後に見たあの子の顔は、何故だか
全く思い出せないけれど、こっちに
振った手が。
袖口から先が無かったんですよ。
【櫻岾】『法照寺怪談会』
支店事務主任 畠山美雪 語る。
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