誤解したまま、別れるのを選択した僕の日常

蘇 陶華

第1話 別れを決める三分間とチケット

「僕には、三分以内にやらなければならないことがあった」

僕は、泣くつもりはなかった。誰かに話を聞いて欲しかっただけ。仕事が終わって、慌てて駆けつけてくれた彼女の友達、紗奈は、僕の話を聞いてくれた。

「それは、言い訳だったんじゃない?」

彼女から、理由を聞いていた紗奈は、冷たかった。

「駿介を傷つけるつもりはなかったけど、どうして、追いかける事が出来なかったの?待ってたって聞いた」

「追えなかった」

僕は、唇を噛んだ。

「紫織は、何度も、別れようと思っていたけど。我慢していた。どうして、すぐ追えなかったの?」

紗奈は、僕の話を聞くと言いながら、僕を責めていた。僕と紫織は、長い間、同棲していた。学生の頃からだから、かなり、長い間を一緒に過ごし、お互いに、結婚するものだと思っていた。紫織は、雑誌の編集者だった。いつも、時間は、不規則だった。どちらかと言うと、家では、僕が、待つ役だった。いつも、買い物を行い、食事の支度をして待っているのは、僕の役目だった。

「駿介は、紫織を支えていたと思っているの?」

そう言われたのは、心外だった。仕事で、忙しい彼女を支えていたのは、僕なのに、彼女は、僕が不満だった事を紗奈にこぼしていたと思ったからだ。

「紫織h、いつも、駿介の事が、心配でならなかった。どうして、帰りが遅かったのか、聞いた事があるの?カッコいい

紗奈の言葉は、トゲトゲしい。その言葉の裏には、きっと、紫織から聞いたであろう、僕の不害さを責めているように聞こえた。

「駿介の小説が、売れるように、分野を超えて、編集者に売り込みをしていたからなのよ」

僕は、学生の時に、書いた小説で、たまたま、入選を果たしていた。それから、夢は、大きく、小説家を目指して、書き続けているが、残念な事に、売れることは、なかった。紫織の持ってくる小さなコラムの仕事をこなしながら、細々と、家事を手伝いながら、生活していた。だけど、紫織は、黙って、出ていってしまった。丁度、同棲し始めたその日に彼女は、姿を消した。

「どうして、追えなかったの?」

紗奈は、僕を責めた。そうだろう。僕だって、知っていたら、あの日、追いかけたかった。だけど、彼女が去ったその日は、

「一度、生で、聞いてみたい」

彼女の好きな舞台俳優のチケットの予約開始日だった。チケットの取れたその瞬間に、彼女にお礼と、もう、夢を諦める事を告げたかったのだ。

「彼女にチケットをとって、夢を諦めるつもりだった」

「チケットを取る為に、追いかける事ができなかったの?」

「僕と別れたいなんて、知らなかったから」

紗奈は、黙って、携帯をかけ始めた。

「紫織?今、駿介と話していたけど、チケット取れたみたいよ」

「え?紫織?」

どうして、電話の向こうに紫織がいるのか、わからなかった。

「えぇ・・・そう。取れたって。」

そう言い、小さく笑うと紗奈は、携帯を切った。

「帰ってくるって」

聞けば、紫織は、チケットを受け取りに戻って来るそうだ。有名な俳優に逢えるなら、別れたい僕とも我慢して、復縁するそうだ。

「まぁ・・そういう事だから」

紗奈は、軽く言った。

「いや・・・待って。」

今度は、僕が言う番だ。

「別れるよ。僕から、チケットは、他の娘と行く事にする」

紗奈の顔色が変わった。

「え?紫織と別れたくないんじゃ??」

「いや・・あの三分間が、いい証拠だよ。追いかけなかったのが、僕の本当の気持。彼女に売り込んでもらうなんて、僕のプライドが傷つくしね」

僕は彼女と別れる事にした。でも、夢は諦めない。

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誤解したまま、別れるのを選択した僕の日常 蘇 陶華 @sotouka

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