三分間の完全犯罪

樋川カイト

三分間の完全犯罪

私には三分以内にやらなければならないことがあった。

目の前には自らが殺した男の死体と、その前で途方にくれる犯人が居た。

残された時間はあと三分。

その間に、どうにかしてこの男の犯行を隠さなければいけない。

そうしなければ、これまで築いてきた完璧な段取りが全て水泡に帰してしまう。

まさかこんなことになってしまうなんて、あの時の自分は想像もしなかった。

面倒なことは後回しにしてしまう私の悪癖が、今まさに私の首を絞めてしまっていた。

ともかくまずは、犯人の痕跡を消さなければ。

証拠を隠してしまえば、一旦はそれで良い。

できることならこの時点で別の人物に疑いを向けさせておきたいけど、もはや多くは望まない。

最初の段階で男に疑いがかからなければ、あとはどうとでもなる。

そうと決まれば、善は急げだ。

犯行時に指紋が残らないように、犯人には手袋を着けさせる。

さらに返り血を浴びないように布で身体を覆わせれば、これで犯行の痕跡を残すことはなくなった。

となれば次は、死体の始末だ。

どうせなら、誰もがあっと驚くようなトリックを仕掛けてしまいたい。

時間がないのは重々分かっているのだけど、やっぱりこれだけは譲れない。

となれば、どうするのが良いだろうか?

いっそのこと、死体そのものを消してしまうというのはどうだろう?

死体なき殺人事件というのは、意外と新しいのではないだろうか。

そうと決まれば話が早いと、私は死体の死体の処理を始める。

あらかじめ犯人に用意させたノコギリで死体をバラバラにすると、それをボストンバッグに詰めていく。

最後にこれを持ち去ってしまえば……。

そこまで考えて、私は重大なミスに気が付いてしまった。

死体を隠してしまえば、それを誰かに見つけさせなければならない。

だけどどう考えても、私にそんな時間は残されていなかった。

ならばやはり、死体はそのままの状態で置いておこうか。

かわりに凶器を隠す?

それとも、部屋の鍵を閉めて密室トリックを?

考えれば考えるほど、思考は泥沼へと沈んでいってしまう。

もはやどうしようもなく取り散らかってしまった状況に頭を悩ませていると、不意に手元に置いていたスマートフォンが鳴った。

どうやら、時間切れのようだ。

『もしもし、先生。そろそろ〆切ですけど、原稿は大丈夫ですか?』

「いやぁ、どうやらこの事件は完全犯罪になってしまったみたいだね」

電話口から聞こえてくる担当編集に向けて、私は誤魔化すようにそう呟くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三分間の完全犯罪 樋川カイト @mozu241

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ