第2話 五度目との違い
六度目の入学式が終わり、体育館から教室に移動した。一年二組、これからお世話になる教室だ。
ボクの席は窓側の前から三番目。日が程よく当たって暖かい。結構気に入っている。
「先生まだかな?」
「ね、遅いね」
こんな会話が聞こえてきた。確かに先生はホームルームの時間になってもやって来ていない。
後十分は来ないはずだ。五度目まで毎回そうだったから。
ドタドタ、……バタン!
「痛っ!」
突然の足音と大きな物音、そして声に教室は騒然となった。
教室の扉を注視していると、このクラスの担任である
五度目までこんな出来事はなかった、よね? ……もしかして、ボクが何かしたから?
だが、そんな覚えはない。一体どういうことなんだろうか。
神楽先生は教壇に立ち、わざとらしく咳払いをする。教室は一気に静かになった。
「あー、えーっと、……まず、遅れてごめんな。というわけで、自己紹介します!」
「どういうわけですかー?」
一人のツッコミの声を皮切りに、だんだんと教室内は騒がしくなる。
なんだかその騒めきが遠くの世界のことのように感じた。
神楽先生は生徒たちを宥めながら黒板に名前と簡単な自己紹介を書いていく。
「よし。では自己紹介します! ……ちゃんと聞けよー」
「「「はーい」」」
満足げに頷きながら神楽先生は自己紹介を始めた。
「俺は
「今日だよ!」
「そうですよー」
「何言ってるんですかー?」
「……そうだよな。ごめんな、妙なこと聞いて。さて——」
もしかして、神楽先生も二度目以上?
五度目までの高校生活で、一度目とこんなに変わる出来事はなかった。この言動から考えるにあたって、予想は合っているだろう。
ボク以外にも二度目以上の人がいるのか……! 不思議な仲間意識がある。
……だが、ボクが六度目だって話した方が良いのだろうか? 話しても良いのだろうか?
思考の海に浸かっていると、突然目の前に手が現れた。思わずびくっとしてしまう。
「おーい。聞こえてるか?」
「……あっ、すみません。考え事してました」
「うん、そうかー。長谷川、ちょっと居残りな。それと自己紹介よろしく。次お前の番だから」
「……はい」
ボクはその場で立ち上がり、適当に自己紹介をする。名前、好きなもの、最後に一言よろしくと言い、席に着いた。
それからもクラスメイトの自己紹介は続いていったが、ほとんど入ってこなかった。
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