六度目の高校生活、前に進む勇気をください。

色葉みと

第1話 時間に抗う三分前

 ボクには三分以内にやらなければならないことがあった。

 ……正しく言うのならば、決めなければいけないことがある。


 ボクの名前は長谷川薫はせがわかおる。今日で高校生活も終わりだ。

 一人称が「ボク」だからよく男子かと思われるが、身も心も女子である。いわゆるボクっ娘と呼ばれる存在だ。

 ちなみに中学の頃まで一人称は「私」だった。

 そんなボクだが、今ちょっとしたピンチにある。


 チクタクチクタク


 真っ白な空間、目の前で規則正しく動いているこの時計はどうやら時限爆弾らしい。ご丁寧なことに爆発の時間とボクにできる選択肢が書かれている。

 そんな状況を前にしているが、なぜかボクは動けない。拘束されている訳でもないのにね。

 この状況は今回で五回目。ここはきっと夢の世界。

 もうないだろうと思ったけど、そんなことはなかったようだ。

 爆発まで残り一分半。ボクにできるのは二つの選択だけ。


 その一、時間に身を任せる。

 その二、時間にあらがう。


 時間に身を任せる選択をすると、この爆弾は爆発してしまうだろう。そうなったらきっとボクも無事ではいられない。

 それならば今回も抗おう。


 ——例えまた高校生活をやり直すことになるとしても。ボクには進む勇気がないから。


「ボクは、時間に抗う」


 そう呟いた瞬間、世界は暗転する。

 耳には時計の音が残っていた。


***


 冷たく響く目覚ましの音。カーテンの隙間から漏れ出す日の光。

 ボクはゆっくりと起き上がり、スマホを見る。


 2024年4月7日金曜日

 6:31

 今日の予定:三夜さんや高校入学式


 やっぱり戻ってる。……これももう慣れたことか。

 ベッドから降り、真新しい高校の制服に身を包む。カーテンを開けると朝日が差し込んできた。眩しい。

 朝ご飯どうしようかな。

 キッチンをあさっていると三枚の食パンを発見した。

 ……消費期限今日までだ。食べないと。

 今日は朝昼晩と食パンを食べることになりそうだ。


 朝ごはんを食べたりそれを片付けたりしていたら、良い感じの時間になったので、持ち物を確認して玄関に向かう。

 よし、行こう。


「——いってきます」


 一人で住むには広すぎる家に向かって独り言つ。

 ……これも、これももう慣れたことだ。


 ガチャ


 ボクは鍵を閉め、高校に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る